公益財団法人ベネッセこども基金

活動実績

経済的・学習的困難を抱える中学生への支援教材をキッズドア様と制作!無償提供を実施しました

経済的困難を抱える子どもの学び支援

ベネッセこども基金では、助成事業を実施する中で見えてきた団体共通の課題への解決のモデル作りや社会課題の発信を、知見あるセクターと協業して取り組んでいます。
経済的困難を抱える子どもの学習支援現場でよく聞かれる「受験指導や、学校の課題のサポートの前に、言葉の力が不足していて、学びが積みあがらない。適した教材もなく、生徒もモチベーションが上がらず支援に困っている」という声に着目。
認定NPO法人キッズドア様と共同で、中学生向けに学ぶ意欲と言葉の力を伸ばす教材『言葉の力アッププログラム』を制作し、非営利の学習支援団体へ無償提供を実施しました。
※無料提供は終了しました。

教材概要
教材の主な対象

・受験指導前の中学生
・基本的な読む力、聞く力、語彙力に課題がある生徒
・通常の国語問題集ではなかなか集中して机に向かえない生徒


教材構成

4つのステップで、生徒の状況に合わせて学ぶ意欲と言葉の力を伸ばし、受験指導の素地を作ります。

① 事前アセスメント
② 日本語リスニング教材の【聞く力編】(1回15分×全6回)
③ マンガを読みながら語彙力と読解力を鍛える【語彙力編】(1回15分×全6回)
④ 事後アセスメント

※指導経験が浅い支援者でも自信をもって取り組めるよう、研修動画や指導マニュアルも提供。


配布実績

・のべ247団体、約6200冊 ※2024年3月現在
・中学生向け無料学習支援の団体さんだけでなく、外国ルーツの子ども支援団体、自主夜間中学、社会的養護施設支援団体、フリースクール、子ども食堂などでご活用いただいています。

教材制作の背景について、キッズドアの松見幸太郎さん、草野くる美さんにお話をうかがいました。

なぜ「言葉の力」の向上に着目したのか。

認定NPO法人キッズドアは経済的困難な子どもたちへの無料学習支援を長年行ってきました。
このような学習支援の中で出会う中学生の中には、集中して人の話から必要な情報を聞き取れずいつも「さっきなんて言ってました?」と聞き返す子、問題文そのものが読み取れず、問題を前にじっと何分も固まっている子、読書の機会も乏しく、自分の事や考えを表現する語彙も十分でないために「別に。なんとなく」という表現にとどまってしまう子が、多くいるのではないでしょうか。

日常のコミュニケーションもままならないことで、周りとの関係性作りでも躓いてしまう子も少なくありません。でも学年相応の教材での学習では難しすぎる。かといって小学生にさかのぼった教材では子どもの自尊心を傷つけ、学ぶ意欲も上がらない。
受験指導や学校の宿題を頑張る前に、意識して人の話を注意深く聞く練習や、少し抽象度の高い語彙に出会い、「なんとなく知っている言葉」を楽しく増やしていける教材が、そのような子たちには必要だと常々思っていました。(松見さん)


日常に直結した【聞く力編】

「言葉の力アップブック」は聞く力編と語彙力編の2部構成となっています。
【聞く力編】は言葉の力に特に課題のある生徒向けに、日常会話の音声を聞き、必要な情報をメモして取りだす練習をします。
扱っているシーンは「イベントの案内」「友達と遊ぶための待ち合わせの約束」など、生徒自身の日常にできるだけ近づけた内容にすることで、実践的な練習となるように留意しました。

また、指導上のポイントは生徒に注意深く聞くための「聞き取りポイント」を意識させながらメモを取る練習をする点です。
なかなか大人でも話を聞きながらメモを取ることは難しいですが、メモを取ろうと意識することで集中して聞き、必要な情報を取り出せるようになります。1回15分×全6回としたのは、人によっては少なく感じるかもしれませんが、無料学習支援に来る生徒の多くは、なかなか1冊の教材をやり切った経験が少ないので、達成感を味わい自信をもってもらうための設計です。(草野さん)


マンガで抽象度の高い語彙に出会い、自分で調べる経験を【語彙力編】

教材を作るにあたって、いろいろな専門家に話を伺う中で、語彙の獲得にはマンガが非常に有効というお話を聞き、これだと思いました。
マンガなら国語や勉強そのものに苦手意識の強い生徒も、興味を持って楽しみながら取り組めるのではないかと思い、マンガの中にあえて少し難しい、中学生であれば使いこなすとまではいかなくとも、なんとなく知っていてほしい語彙をちりばめました。語彙は東京都の学び直しに重きを置いている高校(エンカレッジスクール)の入試問題で使われている語彙などから論理語彙を中心に選定しました。

【語彙力編】で留意したところは、難しい語彙については調べながら理解して読み進められるようにした点です。大人でも日常生活の中で知らない言葉に出会いますが、都度「分からなかったら調べる」という行動をとることで、新しい言葉・概念を獲得し続けることができています。
でも生徒はわからない言葉は、分からないということにも気づかず読み飛ばしてしまうでしょうし、辞書を引くなんてなおさら難しい行動です。ですので、「分からない言葉に出会ったら調べる」という学習行動の練習のために、【語彙力編】では難しい語彙の意味を2択の問題を解くことで、意味をとらえながらマンガを読み進められるようにしました。なかなか「分からない言葉に出会ったら調べる」ことの定着は難しく、これは支援者のサポートが欠かせない点ですが、その一歩として有効だと考えています。(松見さん)


支援者の支援にも注力

「こどもの貧困と学び支援の必要性」の社会認知が広がってきて、学習支援を行う団体も多くなりまた、多くの方がボランティアとして関わってくださるようになってきました。
経験が長い方も短い方も、学習支援の現場に来てくれる生徒に適切に支援できるよう、ポイントを整理して研修動画や支援者マニュアルに盛り込みました。
支援者の方にも、生徒の成長に寄与できたという自信と貢献感を得てほしいと思っています。(草野さん)




現場経験の豊富なキッズドアのお二人に原案をいただいて、ベネッセこども基金で編集を行いました。
教材を活用してくださった団体様からは、学習になかなか向かえない生徒も、日本語の聞き取りやマンガなど、いつもと違う学習内容に興味を示し、比較的意欲的に取り組んでくれたとの結果をいただきました。

言葉の力は一朝一夕に身につくものではありませんが、支援を必要とする生徒と支援者の方の一助となるよう、教材を活用していただけたら幸いです。

認定NPO法人キッズドア

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