活動実績
「私も、声を届けたい」勇気を持って飛び込んだ世界。 ―カナダ・トロント交流プログラム2025レポート

ベネッセこども基金では、児童養護施設などで暮らすこどもたちを対象としたカナダと日本のユース交流事業支援を行っています。第2回目となった2025年度の一連の活動を通じて、こどもたちがどのように自分自身と向き合い、主体的な一歩を踏み出したのかをレポートします。
海外渡航というチャンスの中で、より深い気づきを得るために
本事業は、環境的な理由で学びにアクセスしづらかったり、「自分が声をあげること」に消極的になってしまったりするこどもたちに、「単なる海外留学ではない、自分自身と深く向き合い、声の価値を知る機会」を届けたい―、そんな想いをきっかけにスタートしました。認定NPO法人ピースウィンズ・ジャパン、カナダ・トロントで「こどもアドボカシー」の研究等を行う菊池幸工氏、社会起業家の白井智子氏、NPO法人チャイボラとも協働し、プログラムを運営しています。
ベネッセこども基金は、かねてより「こどもの権利」推進の一環として、こどもが自らの声を社会に届けて力強く歩み出す、カナダ・トロントの「こどもアドボカシー」の先進事例に注目してきました。
本プログラムへの参画を通じて、「自分の声には価値がある」「誰かに想いを伝えていい」「自分の人生は自分で主体的に考えて進めていくものだ」と、こどもたち自身が心から実感できる場づくりを目指しています。
世界に飛び出し、自分と、人と向き合った半年間
6月中旬、全国各地から集まった参加者は島根県の離島「海士町」を訪れました。カナダでの本研修を前に、参加者同士やスタッフとの信頼関係を築き、「こどもアドボカシー」やカナダについて理解を深める事前研修を行うためです。普段の生活環境から離れ、多様な価値観に触れた2日間。最初は緊張していたこどもたちも、少しずつ「外の世界」へ一歩を踏み出す素地ができあがっていきました。

7月下旬には、いよいよカナダ・トロントでの10日間の本研修へ出発。
参加者たちはまず初めに、カナダの社会的養護下にあるユースと交流するため、現地のこども支援団体を訪れました。
現地ユースたちの、自身の壮絶な体験や想いを共有してくれる姿に、参加者たちは大きな刺激を受けていました。また、カナダではユースたちが自ら政府に対して声を届け、大人もそれを受けとめ、法整備や社会を変革する風土があることを知り、「自分たちも、こんなふうに声を届けて良いんだ」と、考え方に変化の兆しが見られました。
また、今年度は新しいアクティビティとして「アドボカシー実践のためのアートワークショップ」を実施しました。 仮面をキャンバスに「外から見られる自分」と「自分から見た自分」を描くこのワークは、自分の心に向き合い、感情をさらけ出す、大きな勇気がいる時間でした。しかし、大人たちに温かく見守られ「自分を表現しても、受け止めてもらえる」という安心感を得たこどもたちは、本音を少しずつ表現できるように。

これらのアクティビティは、本プログラムの集大成である「公聴会」に繋がります。
「公聴会」は、自分や大人たちと向かい合い、一人ひとりが自分の経験や想い、疑問を自分の言葉で発表する場です。
現地ユースや同行スタッフとの交流で新たな価値観に触れ、信頼感を育み、ワークショップで自分の内面と向き合う体験ができたからこそ、参加者全員がこれまで日本ではなかなか言葉にできなかった想いを、自身の声で伝えることができました。短期間でのユースたちの大きな変化や、その正直な想いに、聴衆の大人たちも涙が止まらず、言葉に詰まる場面もありました。
10日間のプログラムを終えたこどもたちの表情には、参加前とは見違えるほどの輝きがあり、一歩踏み出した自信と、固い絆で結ばれた仲間への信頼が感じられました。

帰国後も学びを深め、次のアクションへ
この学びを次のアクションへ繋げるため、帰国後も定期的なフォローアップを重ね、12月には事後研修と支援者への報告会を実施。
事後研修では、現地コーディネーターの菊池幸工さんを迎え、「こどもの権利」について復習するワークショップを行いました。

こどもと大人が対等なチームを組み、身近に起こり得る「こどもの権利」に関わるシーンを題材に、「正しい/正しくないと思うのはどんなとき?」「なぜそう思った?」と議論を交わしました。
皆が「一人の人」として対等に向き合う中で、自分の言葉で必死に考え、想いを伝えようとするこどもたちの真剣な姿が、非常に印象的でした。
「私だって、声をあげていい」――報告会でこどもたちが語った、参加前後の心の変化
報告会では、こどもたち一人ひとりがステージに立ち、このプログラムに参加する前と後で、自分自身に起きた変化を力強く語ってくれました。彼らの声の一部をご紹介します。

「このプログラムに参加して、物事やこれからの自分の人生を今までよりずっと具体的に考えられるようになった。」と話してくれたYさん。
「今までは、身近な存在である施設の職員さんに対してすら、どこか壁を作って話していました。でも、このプログラムで人と深く関わってみて、大人とちゃんと対話することによって『大人も案外、悪い人じゃないんだな』と知ることができたんです。それは、スタッフの方々が私の話を真剣に聞いてくれて、日々一緒に問いを立てたり、答えを考えてくれたりしたから。それで自分は変われたんだと思います。 将来は保育の仕事に就きたいと考えていましたが、今回の経験を活かして、日本国内だけでなく海外も視野に入れ、貧困の課題がある地域で保育に関わることができたらと考えています。」

離島出身のKさんは、「帰国したとき、『こどもにしっかり寄り添って、こどもの話を熱心に聞いてくれる人がいる環境は当たり前じゃないんだ」と気づきました。そして同時に「そういう環境が当たり前になるべきだ」って思ったんです。これまで田舎の小さい町で過ごしてきて、そこから一歩踏み出して分かったのは『一つの環境にとどまっていたら何も始まらない』という、挑戦することの大切さでした。そして、『人は人、自分は自分』と自分を大切にする一方で、人との違いを認め、その人の声に共感して寄り添ってあげられる大人になりたい、と思いました。将来の夢であるスポーツトレーナーになる上でも、人とのコミュニケーションが大切な土台になると感じたので、これからもその意識を持って生活していきたいと思います。」と語ってくれました。
さまざま境遇や生活環境の中で、「少しでも何かを変えたい」と勇気をもってこのプログラムに飛び込んできてくれた7人の参加者たち。
国を越え、初めて出会う世界や人々とのあたたかい関わりの中で、自分自身の新たな一面や可能性に出会うことができました。その喜びや達成感、感謝の気持ちを、自分自身の言葉で自信をもって伝える姿に我々スタッフ一同も心を動かされずにはいられませんでした。


こどもたちの声には社会を変える力があり、自分の人生を自分で切り拓く権利があります。「こどもアドボカシー」の先進地域であるカナダ・トロントを舞台に2年間にわたって実施されたプログラム。
2026年度は韓国を新たな舞台に、次なる取り組みが始まっています。
ベネッセこども基金はこれからも「こどもの権利」を推進するため、助成事業、自主事業の両面から支援に取り組んでまいります。
2024年度の様子を前編・後編でまとめています。こちらもあわせてお読みください。
▼「自分の声には価値がある」カナダのユースとの交流を通して、こどもたちに芽生えた変化(前編)
https://benesse-kodomokikin.or.jp/activity/performance/2025/03251206.html
▼カナダでのユース交流で芽生えた変化を、新たな夢や目標に向かう力に ~ユース交流事業 事後研修~(後編)
https://benesse-kodomokikin.or.jp/activity/performance/2025/08221208.html
構成/中屋葉月