活動実績
学びは、こどもの明日を照らす ―「病気のあるこどもとその家族のためにできること~やさしい学びのフォーラム~」レポート
長期療養を必要とするこどもは全国に約12万人。国が指定する「小児慢性特定疾病(通称:小慢)」の多くは、ある日突然告げられ、入院と長い療養生活がはじまります。
治療の苦痛以上に深刻なのが、心の負担です。「今までできていたことができなくなる」「友達と同じ経験ができない」「学校に行けない」――そうした不安や孤独感が、こどもたちから前を向く力を奪ってしまいます。だからこそ大切なのが、学びや遊び、体験です。
小慢のこどもと家族には、療育相談や情報提供、関係機関との連携調整を行う「小児慢性特定疾病児童等自立支援事業(通称:小慢自立支援事業)」という公的な支援の仕組みがあります。しかし支援の質には地域差やケースによる差があり、行き届かないことも少なくありません。
ベネッセこども基金は2023年、岡山を拠点に復学支援やピアサポートに取り組む認定NPO法人ポケットサポートと協働を開始。全国の病気療養児支援者を対象に実施したニーズ調査では、特別支援学校における小慢事業の認知率はわずか2割という課題が浮き彫りになりました。以降、地域を超えた横断的な支援体制づくりや広報活動に取り組み、2025年度からは、支援者だけでなく一般の方も含めて広くつながりをつくる勉強会の開催に力を入れています。
2026年2月22日、その一環として「病気のあるこどもとその家族のためにできること~やさしい学びのフォーラム~」を岡山国際交流センターで開催。当事者家族から支援者、これまで接点のなかった地域の方まで幅広い層が参加し、多職種でこどもを支えることの意味を考える場となりました。
学びは、病院という"非日常"の中で日常を取り戻す力に
東洋大学文学部教育学科教授(当時)・谷口明子先生は、院内学級やICTを活用した学び支援の事例を交えながら講演しました。
「学びや遊びはこどもにとって"日常"そのもの。制約の多い入院生活の中で、それに夢中になることは主体性やその子らしさを取り戻すことにつながる」。「来週にはこのドリルが終わりそう」といった小さな一歩の積み重ねが、病気の「今」に留まらず明日を考える力になり、治療への意欲を支えると語りました。
あそびの「さんま(三間)」と、チームで支えるということ
倉敷中央病院小児科医・納富誠司郎先生は、小児がん療養の実例をもとに講演。
治療の進歩により約7〜8割が完治する病気となった小児がんは、「治す」と同時に、「治療後の人生を実りあるものにすること」を見据えた対応が大切だと言います。そんな中、こどもたちが「楽しそう」「やってみたい」「自分ならできる」という前向きな気持ちを取り戻す鍵となるのが「あそび」です。
納富先生は、こどものあそびに必要な「時間・空間・仲間」という三つの"間"を紹介。なかでも治療の合間にもこども自身が選び取れる「時間」を確保することを大切にしていると述べ、実際に院内学級の時間割には、教科にとらわれず、何をするかをこども自身が決められる「元気」の時間が設けられているという事例を共有しました。
医師や看護師、院内学級の教員、こども療養支援士、保育士、理学療法士、心理士、医療ソーシャルワーカーなど、多様な職種が「こどもを中心」に据えてチームで関わることで、できることは大きく広がると示唆しました。
地域格差のない支援を、全国へ
認定NPO法人ポケットサポート代表理事・三好祐也さんは、復学支援やピアサポート、当事者交流プログラムなど岡山県全域での活動事例を紹介。
「地域に根ざしたNPOだからこそ届けられるきめ細やかな支援がある。だが、住む地域によって受けられる支援に差があってはならない」「地域に根差したNPOだからこそ、多職種の間にある"ポケット(隙間)"を埋める橋渡し役を担うことができる。異動や転勤のある職種とは違い、子どもやご家族と継続的に関わり、信頼関係を築けることも私たちの強み。どの地域、どの学校であっても支援が行き届く状態が今、求められている。」と、こうした取り組みを各地に広げていく必要性を訴えました。
続くトークセッションでは、「多職種だからこそ、互いの専門性を持ち寄る丁寧な対話が欠かせない」「やり方や相談先を知らないために支援に踏み出せない現状がある。事例を共有し、まず小慢事業の存在自体を多くの人に知ってもらうことが重要」といった提言がありました。
こどもが前向きに今日を、そして未来を思い描けること。そのために学びや遊びの体験がいかに重要か――今回のフォーラムは、日々こどもと向き合う関係者はもちろん、これまで直接の接点がなかった参加者にも、その意味を実感してもらう機会になりました。
こどもの数だけ支援のかたちがあるからこそ、こどもを中心に多職種・多機関がつながることで、できることは確実に増えていきます。ベネッセこども基金は、ポケットサポートのような取り組みが各地域に広がっていくよう、今後も助成や協働を通じて後押ししていきます。
★本フォーラムのアーカイブはこちらからご覧になれます★
「病気療養する子どもと家族の現状を知る」東洋大学 谷口明子先生
「病気療養する子どもと家族の支援方法を知る」倉敷中央病院 納富誠司郎先生
「病気療養する子どもと家族の支援方法を知る」認定NPO法人ポケットサポート代表理事 三好祐也さん
トークセッション
構成/中屋葉月