コラム
防犯 地域でのあいさつ、する?しない?
安全インストラクター武田信彦のコラム
「一般市民による防犯とは?」(第34回)
子どもが巻き込まれる事件が発生するたびに、防犯意識が高まります。現代は、子どもだけの状態になりやすい環境。子ども、保護者、地域のそれぞれが、防犯のためにできることを確実に行うことが必要です。 一方、最近多く聞かれるのが、「地域でのあいさつをしない」という声です。保護者からは「子どもに他人と接してほしくない」という意見があったり、子どもたちからは「あいさつされたら、逃げる」という声が聞かれたりします。重大事件が起きるたびに、そのような声は増えていると感じます。 その背景には、犯罪への不安感があります。そして、不安のスパイラルが、「あいさつをしない」=「地域でのコミュニケーションの遮断」を生み出しているのではないでしょうか。
~犯罪への不安感のスパイラル~
不審者に気をつけろ
→知らない人に気をつけろ
→地域の人も知らない人
→あいさつをしない
そして地域でのコミュニケーションの遮断は、つぎのような状況を引き起こすと考えられます。
① 悪意ある人と接触する可能性が減る
→ 子どもの防犯にプラス
② 善意ある人の見守りや助け合いの環境が弱体化する
→ 子どもの防犯にマイナス
地域で見守りを行う方々からも、「最近、あいさつが減った」「返事をしてもらえない」といった声が届いています。こうした状況は、防犯活動のモチベーションに大きく影響します。継続するための気力が減退してしまうからです。
「あいさつをする・しない」は、個人が自由に決めてよいことです。また、「あいさつをしなければいけない」といった強いメッセージも今の時代にはあまりなじまないでしょう。しかし、あいさつを交わすことで生まれる「ゆるやかなつながり」は、子どもの安全を高める「見守り」や「助け合い」の土台として、大切なものだと言えるでしょう。
あいさつをなくすことは、簡単なことかもしれません。しかし、一度なくした習慣を復活させるのはなかなか大変なことです。防犯のための対策が、防犯のための底力を弱体化させてしまう可能性があることを、十分に理解しておかなければなりません。防犯において、そのバランス感覚の大切さ、ひいては地域のあり方そのものを、よく考える時期になってきているのかもしれません。
安全インストラクター
武田 信彦さん
犯罪防止NPOでの活動を経て、2006年より安全インストラクターとして活動を開始。「市民防犯」のパイオニアとして全国で講演やセミナーなど多数実施中。
子どもたちを対象とした「安全ワークショップ」も好評を得ている。
著書には「SELF DEFENSE 「逃げるが勝ち」が身を守る」(講談社)ほかがある。