コラム
防犯 学校の先生たちと考える、子どもの防犯
安全インストラクター武田信彦のコラム
「一般市民による防犯とは?」(第35回)
防犯についての研修会は、日々各地でいろいろな立場のかたによって行われています。夏休みは、とくに学校の先生方による研修が多く、学校現場での防犯や指導について考える機会となりました。
学校での防犯には、大きく分けて2つのテーマがあります。
①学校安全(施設の安全など)
②防犯指導(登下校の安全対策や携帯電話の安全利用など)
私は講師として、おもに②防犯指導について、市民防犯の視点から通学路の安全対策のコツなどをみなさんにお話しています。学校教育とのバランスの取り方や、子どもたちに防犯について話す際の注意点、わかりやすく伝えるためのポイントやコンテンツなどをご紹介しています。
小学校の先生方と接していると、ときどき「どこまで防犯指導をしたらよいか」と戸惑っていらっしゃるのを感じることがあります。防犯の重要性は認識しているけれども、子どもたちが怖がる、悪意がある人の存在を伝えにくい、あいさつなど学校で大切にしていることとの矛盾がある等々、難しさを感じているようです。これは、学校生活の中では協調や協力など「人との距離を縮める」経験が多い一方、防犯においては人を疑うことや逃げることなど「人との距離を保ち、離れる」ことについて伝えなければいけないという矛盾からくる難しさといえるでしょう。しかし、防犯で必要な力を、「コミュニケーション力」の延長としてとらえれば、学校教育ともバランスがとれるのではないかと思います。日ごろの人間関係でも、状況や相手との関係をよく理解し、適切なコミュニケーションをとろうとしているのではないでしょうか。それと同様に、危険な場面においても状況を察知し、相手との距離感をはかり、判断し行動する、時には助けをもとめることが必要です。日ごろの学校生活で子どもたちが身につけた、さまざまな力を発揮する「実践の場」と考えることができるでしょう。
また、防犯教育では、「悪い人」を強調し過ぎてしまうことがあります。悪意ある人の存在を伝えるときは、善意ある人や助けてくれる人の存在もしっかり伝えることが重要です。悪意に気をつけること、善意で助け合うこと、どちらも安心して生きていくためには欠かせないことだからです。
人との距離感の取り方や接し方、助け合いのかたち。社会の変化とともにそれらも変わっていくのかもしれません。防犯教育には、まるで縮図のように現代社会の矛盾や難しさが表れています。伝える側はそれを理解し、子どもの安全を守るために大切なことを偏りなく伝えていくバランス感覚が、ますます求められているといえるでしょう。
安全インストラクター
武田 信彦さん
犯罪防止NPOでの活動を経て、2006年より安全インストラクターとして活動を開始。「市民防犯」のパイオニアとして全国で講演やセミナーなど多数実施中。
子どもたちを対象とした「安全ワークショップ」も好評を得ている。
著書には「SELF DEFENSE 「逃げるが勝ち」が身を守る」(講談社)ほかがある。