公益財団法人ベネッセこども基金

コラム

防犯 防犯が防犯を超えること

子どもの安心・安全を守る活動

 

安全インストラクター武田信彦のコラム
「一般市民による防犯とは?」(第38回)

 

 2019年も終わろうとしています。令和の時代を迎えましたが、悲しい事件や事故、また自然災害も相次ぎ、安全の大切さや命の尊さについて改めて考える機会が多かった一年でした。特に防犯の分野では、川崎市で起きた通り魔事件が社会全体に大きな衝撃と動揺を与えました。私もメディアからの取材をはじめ、自治体や教育委員会などからも多くの問い合わせや相談を受けました。「見守りは効果があるのか」「防犯ボランティアは安全に行うことができるのか」など不安の声も広がりましたが、一方で「子どもたちのためには、見守りを続けよう」「今できることに取り組もう」などの前向きな声が増えたことが印象的でした。

 

 事件を受けて、政府機関からもヒアリングの要請を受けました。昨年新潟県で起きた下校中の児童をねらった事件を受け「登下校防犯プラン」がすでに推進されていますが、さらに「正しい市民防犯の推進」「子どもたちへの防犯指導のあり方」「突発的な暴力に対する命を守る行動」の3点について、重点的に取り組むべきであると提言させていただきました。 防犯対策を推進する際には、社会や地域がそれまで育んだものを壊さないことも重要です。防犯対策が過剰になったり、自己責任論が高まったりすると、負担感が大きくなり防犯活動が続かなくなってしまうこともあります。それではかえって地域のつながりが希薄になり、ひいては暴力や武器所持の容認につながりかねないからです。

 

 そのような中、来年にむけて課題とするテーマは「防犯が防犯を超える」だと考えています。テーマを超える、世代を超える...といったイメージです。個人や地域の防犯意識の向上は引き続き取り組むべき課題ですが、一方で、防犯を入口としてさまざまなつながりや連携を生み出すアプローチへ進化させることが重要ではないかと考えています。 たとえば、今年担当した研修会等でもそれを感じさせる場面がありました。大人向けの防犯講座に子どもたちも参加していたり、保護者だけでなく地域のかたや教員、自治体や警察の担当者などさまざまな立場の人が参加したりと、まるで大きなファミリーのような雰囲気を感じることが多々あったのです。これは、まさに防犯の領域を超えた「見守りと助け合いの地域力」と言えるものではないでしょうか。

 

 とくに、子どもの防犯については、全世代が関係するテーマです。逆に言えば、全世代をつなぐことができるテーマともいえるのです。世代を超えてひとつになり、社会全体で「子どもの防犯、みんなで考える」という雰囲気づくりとその実践をしていくことは、私にとって大きな目標となっています。

うさぎママのパトロール教室

うさぎママのパトロール教室主宰
安全インストラクター

武田 信彦さん

犯罪防止NPOでの活動を経て、2006年より安全インストラクターとして活動を開始。「市民防犯」のパイオニアとして全国で講演やセミナーなど多数実施中。 子どもたちを対象とした「安全ワークショップ」も好評を得ている。
著書には「SELF DEFENSE 「逃げるが勝ち」が身を守る」(講談社)ほかがある。

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