コラム
ネット インターネットの危険性・依存性についての啓発活動~私のきっかけ物語~
専門家コラム:ネット編VOL.3 担当:菅原 邦美
ある日、突然...。
15年前の初夏の夕刻、私はキッチンで夕食の準備をしていた。そこへ凄まじい音を立てて息子が走り込んできた。震える掌に握られていたのは、中学校入学と同時に買い与えたピカピカの携帯電話(スマホではなく、ガラケー)。
「どうしよう...。変なメールが来た。お金払えって。」
そこには見知らぬ差出人からの使用代金30,000円余請求の脅しにも似た文言がびっしりと画面を埋め尽くしていた。
「ここに電話したらいいのかな?」今にも泣きそうな息子。体だけは大きいがまだ13歳の子どもだ。動悸がし、いやな汗が背中をつつっと伝う。
「"こんな請求メールは無視"、と聞いたことがあったような。でも、無視してホントに大丈夫?」
電話帳をめくってようやく探した相談窓口では。。
請求画面を前に焦った私は必死に見つけた相談窓口に電話した。
「息子の携帯電話にお金の請求メールが来ました。息子は差出人は知らないと言っています。どうしたらよいですか?」
「ああ、息子さんはいやらしいサイトを見たんですね。だからそんな請求が来るんです。」
電話の向こうの年配女性相談員は慣れた口調でそう言った。
「え?いやらしいサイトですか?」素っ頓狂に聞き返した私の横で、「僕、絶対に見てへん!」と必死にかぶりを振る息子。
息を整えて「息子が見ていないサイトからの請求メールはどうしたらいいのか?」と問う私に、相談員は落ち着いた口調で「絶対息子さんは見ています。親には嘘をつくんです。いやらしいサイトを見たことを息子さんに確認をしてください。」とくり返すばかり。
13歳思春期の男子だ。そんなサイトを見たとしても正常な成長の過程ではないのか...?それに、いやらしい画像を見たのか?と問いただしてもあっさりと「はい、見ました。」と答えられるだろうか。
押し問答に、ぐったりとして電話を切った。その時!
救いの手が現れた!
「ここだ!ここに電話しよう!」薄い情報誌の端の電話番号が目に飛び込んできた。まさに天啓だった。でも、なぜさっき見つからなかったのだろう。
すると、それまでうなだれていた息子が「自分のことだから電話したい。」と言うではないか。
電話はすぐに繋がり、相談が終わると「ありがとうございました!!」と大きな声で電話機に深々とお辞儀をし電話を切った。別人のように晴々として息子が言うには、
①心当たりのない相手からのメール・着信は無視。送信不要のボタンも押さない。
②自分の個人情報は絶対相手に知らせない。心配ならアドレス・電話番号等を変更する。
とのお答え。
ホッと胸を撫でおろした。
今でこそ、①も②も周知されているが、無知な私はあの時は完全にパニックだったのだ。
不正請求メールは適当にアドレスを操作し膨大な数が送信されている。こちらが返信して個人情報を知らせてしまったら相手の思う壺!である。不安で堪らず返信し、お金を払ってしまったという人も多い。請求額は、子どもであればお年玉貯金、大人であればヘソクリで払えそうな金額だったりするので、引っかかってしまうのである。
私にできることがあるのなら...。
小さな携帯電話は大きな情報の海。幾千万の繋がりは無縫であり、また無法。子どもの安全のために契約した携帯電話は子どもを虜にし、危険と隣りあわせであり、親子の心の平安をも奪いかねない。しかし、現代社会で携帯電話やインターネットに触れずして社会生活を営むことは困難となった。親は子どもたちをインターネットの被害者にも加害者にもせず、依存させないためにどう見守っていけばよいのだろう。子どもや、親が悩んだときどうしたらよいのだろう。
そんな折、私の住む京都市では平成19年に「子どもをともにはぐくむ京都市民憲章」を制定し、平成20年には京都市教育委員会携帯電話市民インストラクター(令和2年現在は、情報モラル市民インストラクター)の養成を始めた。「インターネットのことを知りたい、学びたい、危険性を伝えたい...」の想いに突き動かされた私は研修を受け、インストラクターとしてソーシャルメディアを含むインターネットの危険性・依存性について保護者目線で共に考える学校・地域に根差した啓発活動を今も続けている。
そして、平成26年より、京都府警察ネット安心アドバイザーとして若者・保護者をサイバー犯罪から守るための講演啓発活動をさせて戴いている。
原点は、あの初夏の日。この想いを力にして...。
他人事と思っていたネットトラブルが我が家にも...。その時、平常心を失いオロオロするあの日の私のような想いをしないでほしい。自分や自分の大切な人を守る武器となる正しい知識を得て、みんなで子どもを見守っていくにはどうしたらよいのだろう...?
" ...あの日、息子が自分でかけた電話のは京都府警察に繋がった。
係員「この電話番号は誰から聞いたの?」
息子「母に相談したら教えてくれました。」
係員「相談しにくかったでしょう。でもおうちの人に相談して良かった。これからも困ったことがあったらおうちの人に相談したり、この番号に電話したらいいですよ。」
"
言い出しにくかっただろうな...不正請求メールが来たなんて。しかし、思い切って私に相談してくれたことで共に悩み、相談し解決できたことは貴重な経験となった。
親として、子どもの声を聴き共に悩み、考え、学ぶ。そこから自分たちのルールができ道が見えてくる。親子のコミュニケーションを大切に、トラブルが起きた時こそ親力発揮!と伝え続けている私の活動の原点はここにある。
=困ったときはまず相談、正しい知識のまなびと共有を=
京都市教育委員会
誹謗中傷・いじめから子どもを守る「ネット・トラブル情報デスク」の受付窓口
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菅原 邦美さん
ネットトラブルをきっかけにインターネットについて学びはじめ、ソーシャルメディアを含むインターネットの危険性・依存性について保護者目線で共に学び・考え・話し合い、子どもを見守る学校・地域に根差した啓発活動を続けている。