公益財団法人ベネッセこども基金

コラム

防犯 「子どもだけ」の環境を減らす難しさと、防犯対策

子どもの安心・安全を守る活動

専門家コラム:防犯編VOL.56
担当:安全インストラクター 武田信彦




学校現場にむけた研修会を実施中

 今年も夏がやってきました。この季節は、学校の教職員の方々を対象とした学校安全に関する研修会が多く、全国各地の教育委員会から講師依頼をいただいています。新型コロナウィルスのワクチン接種は進んでいるものの、まだまだ終息の見えない中、研修会の実施スタイルとしては「オンライン」が最も多くなっています。さらに、対面、対面とオンラインの併用、動画収録・配信、書面開催...など、地域の状況に合わせて実施しています。

▲オンライン研修会実施のようす

研修会の中で私が伝えていることは、おもに
 ・地域の連携・協働での見守り・助け合いの必要性
 ・子どもたちへの防犯指導のコツ
の二つです。とくに感染症拡大防止への意識と相まって、あいさつを積極的にすることや人と接することへの抵抗感が広がっているように感じます。子どもたちの見守りを行っている方々からは、「あいさつがしにくい」「声がかけにくい」といった声が寄せられています。学校では「あいさつは大切」と指導されている一方で、実際には「人と接する不安感」もある...。先生方も指導するうえで苦労されているようです。

なお、あいさつや健全な声かけは、防犯上の効果が期待できるとともに、見守り・助け合いの基礎力となります。さらに、子どもたちが万が一の時にSOSを伝える練習にもなるものです。見守りの方々や先生方にも「あいさつは大切」と伝えています。



「子どもだけ」の環境を減らす難しさ

 さて、こちらのコラムでもくり返し述べていますが、子どもの防犯対策においては「子どもだけ」の環境にしないことが何よりも重要です。しかし日本においては、欧米に比べて自己責任への負荷が弱く、「地域育て」という言葉にも表れているように、子どもだけでの行動が多くなる傾向にあります。特に小学1年生ごろから登下校をはじめ、習い事や遊びに行く際など、子どもだけで行動させることが増えていくのが現状です。本来、身近な大人が付き添うことがいちばんなのですが、学童クラブの利用人数が年々過去最多を更新していることが表しているように、保護者が子どもの生活時間に合わせるのが難しいケースも多く、「子どもだけ」になりやすい環境が広がっています。

 近頃、児童が巻き込まれた重大な交通事故の発生を受けて、小学校へのスクールバスの導入が議論されるようになりました。学校の統廃合なども進み、長距離を徒歩通学しなければいけない児童がいる中、交通安全対策としては大きな効果が期待できます。しかし防犯対策としては決して安心はできません。学校近くに暮らす児童は利用しないということも想定されますし、スクールバスから降りた児童をすべての保護者が迎えに来るとは考えにくく、停留所から自宅まで徒歩で帰宅する児童も多くいるはずです。そもそも、文化・習慣的に根付いた「子どもだけ」行動がすべて無くなるとも思えないため、子どもの防犯対策はひきつづき重要な課題となります。

  「子どもだけ」になる状況を減らすことが難しい一方、地域育ての習慣が残る中で、「みんなで見守る、助ける」雰囲気は活発です。コロナ禍においても、警察や自治体、教育委員会、さらに、地域住民や事業者など多くのみなさまが、感染防止対策を徹底した上で、子どもたちを見守り、助け合いの地域を育んでいます。



うさぎママのパトロール教室

うさぎママのパトロール教室主宰
安全インストラクター

武田 信彦 さん

犯罪防止NPOでの活動を経て、2006年より安全インストラクターとして活動を開始。「市民防犯」のパイオニアとして全国で講演やセミナーなど多数実施中。子どもたちを対象とした「安全ワークショップ」も好評を得ている。
著書には「SELF DEFENSE 「逃げるが勝ち」が身を守る」(講談社)ほかがある。



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