公益財団法人ベネッセこども基金

コラム

ネット SNSと友情

子どもの安心・安全を守る活動

専門家コラム:ネット編VOL.19 担当:菅原 邦美

一晩で100もの通知!

SNSの中でも無料で通話やメッセージのやりとりができるアプリは、今やコミュニケーションにはなくてはならないツールですが、ここでの友人関係に悩み苦しみ、疲弊している大人・子どものなんと多いことでしょう。

そのようなコミュニケーションアプリでの友情を考えてみたいと思います。

はやい子どもでは小学校低学年からコミュニケーションアプリを始め、朝起きたら、スマホには一晩で100を超える通知があり、寝ぼけ眼をこすってまずはその返信をする、という子どもも珍しくありません。
そのひと手間を怠ると登校しても話題についていけなかったりします。これでは家でも気が休まらないですね。


既読、既読スルー...これが大問題

とりたてて用事はないけれどもずっと手にはスマホがあり、呼吸をするようにアプリでのやり取りをしている人も多いです。
メッセージを送ったら相手の既読・返信の早さで知らず知らずのうちに相手の友情・愛情の深さを測ってしまっていないでしょうか?
また相手にも同様に、自分の友情・愛情の深さを測られていまいか?とびくびくし、ますますスマホから目が離せなくなっていないでしょうか?
常にその緊張状態の中で、何かの都合で既読がつかなかったり、既読はついても返信がなかったり(既読無視)になると、「なんで返信くれないの?」「友達なのにどうして無視するの?」「ひどい!もう友達じゃない。」と、悲しみや怒りの感情のコントロールが出来なくなってしまったり、その挙句相手に暴言を送ったり...。
こうなると、本来友人と繋がり、友情をはぐくむツールであるアプリが、《友情》の二文字にがんじがらめの呪縛となってしまいます。多人数の友人グループでのやりとりともなると、そこには同調圧力も発生。今まで楽しやりとりをしていたのに、急に通知音にびくびくしたり、スマホをさわらなくなったりするのはそこで何かが起こっているのかもしれません。


^^♪一年生になったら〜 友達ともだち100人できるかな??♪^^

たくさんの友達の笑顔輝く様子が目に浮かんできますね。
日本の子どもたちは、入学・進学の時に多くが【一生の友人を作りたい】【友人との想い出をたくさん作りたい】と瞳をキラキラさせて語ります。
一方、同じアジアの国々の子どもたちは、【○○を学びたい。】【〇〇になりたい。】という自分の将来を視野に入れた言葉が目立ちます。
日本は学ぶ環境に恵まれている子どもが多く、生活していくためにハングリー精神で学ばなければならないというのではなく、《毎日を幸せに暮らしたい。》という想いで、"友情を大切にしたい!"傾向になるのだろうと思います。
友達ともっともっと仲良くなりたい・繋がっていたい・友達のいろんな面を知りたい...という気持ちにピタリ!とはまったのがSNS...なかでもコミュニケ―ションアプリであったと思います。
中学、高校に入学し、初めて会うクラスメート全員でアプリ内でグループができ《友達》という括りであっという間に会話が始まっていきます。
入学前にすでに「〇〇中学入学する人集まれ~」の呼びかけで一気にグループができてしまったりもします。まだ顔も名前もよく知らない・声も聴いたことがないのに...リアルな人間関係よりも先にアプリ内の人間関係が広がり、深めるという日々がスタートするのです。


メッセージ送信の落とし穴

そこではメッセージの一言にも気を遣わなければなりません。(スマホを持っているかどうか?SNSができる環境か?という違いは、クラスでの友人関係にも大きく影響してきます。)
そんな日々の中で、自分の気持ちを上手く表現できなかったりスマホの操作もおぼつかなかったりする場合には、「早く返信しなければ!!」というプレッシャーで焦ってしまい、言葉足らずだったり、相手に正反対の意味に受け取られてしまったり...というコミュニケーショントラブルが起こり、簡単に友情にひびが入ってしまいます。
こういったトラブルは使い始めの低年齢層に多発しますが、中高生でも深刻で、大人もトラブルになりやすいのです。


アルバート・メラビアンの法則!

人と人がコミュニケーションをとる場合、
①言語情報(文字のみ) 7% 
②聴覚情報(声のトーン) 38%
③視覚情報(表情・しぐさ)55%
の割合で伝わり方に影響を与えているという実験に基づいた法則があります(アルバート・メラビアンの法則)。
自分が相手に伝えたいことは、文字のみより、声や表情・しぐさという非言語コミュニケーションが相手にはまず伝わりやすいのです。複雑な心の機微を文字だけで相手に伝える...それも慌てていたり読み直さない状況で送信してしまうと、誤解されたり関係がこじれてしまうかもしれません。
いろいろな学校での情報モラル教室で、SNSを利用している子どもたちがコミュニケーショントラブルにあう実例をよく耳にします。楽しいはずの友達同士のコミュニケーションが、大きな苦しみになってしまうのです。


こんなとき、一度考えてみてほしいこと

学校などで情報モラルの教室をするとき、一度考えてみてほしいことを話しています。

・自分と相手は、仲良しだけれど、全く別の人。
・別の人だから、見た目、名前も違う、好みも考え方も生活も行動も違う。
・もし、相手から自分の思うように既読や返信がなくても、別の人なんだから自分とは違うことをしているのかな?と一息入れて想像してみよう。
・また、自分も連絡を送れなくなる事情(勉強・食事・入浴・就寝など)があれば、相手に知らせておこう。
・メッセージは、しっかり伝わるか、送信する前にもう一度考えよう。
・それでも、誤解や行き違いが生じ、どうしても伝えたい想いがあるときはSNSで伝えるのではなく、直接会ってしっかり目をみて想いを伝えましょう。
勇気のいることですが、周りの人も背中を押してあげてほしいと思います。

そして、これは遠回りのように感じるかもしれませんが、
本や詩などから美しい言葉にどんどんふれて豊かな表現力を養い、自分の言葉で想いをしっかり相手に伝えられるようになることがコミュニケーションの上達には欠かせません。

SNSでの友情は言語情報のみの空間であり、期待・思い込み・誤解が生じやすくなります。また、夜の闇は冷静さを失わせたり感情がヒートアップしやすく暴走しがちになりますから、深夜までSNSで会話し続けることはよくありません。余談ですが、昔は「love letterは夜に書いたら、朝送る前に読み返しなさい。」と言われたものです。
休むことなくSNSでのコミュニケーションは続き、バーチャルな空間でどんどん大きくなり、がんじがらめに心を縛り、いつの間にか自分ではコントロール不可能な怪物になってしまう危険をはらみます。でも、やめられない、止まれない、「いち抜けた!」と言えなくて息苦しくなってきたら、「だって、友達だから...。」と言うけれどそれは、ホントの友情?もしかしたら幻かも?じゃあ、友情ってなに? と立ち止まって考えてみてほしいと思います。

スマホのON/OFFの必要性

いったんスマホをOFFにして自分を取り戻すこと...。広い空を見上げて、耳元を吹き抜ける風を感じてほしいのです。
四角いスマホの画面より広くて奥行きのある現実の空間に立って呼吸している独りの時間を感じてほしいのです。
独りである自分をしっかり感じることで、他者との人間関係・友情を金子みすゞさんの詩のように《みんなちがってみんないい》と感じられるようになるのではないでしょうか。
別の人同士それぞれが違いを認めあってこそお互いを大切に思う。現実社会で心したいことですが、SNSでも同じくお互いを大切に思い、適度な距離と密度を保てるようになりたいものです。
心のままにスマホをON/OFFにする自由。あなたにはありますか?

京都府警察ネット安心アドバイザー、京都市教育委員会情報モラル市民インストラクター、近畿総合通信局e-ネットキャラバン認定講師

菅原 邦美さん

ネットトラブルをきっかけにインターネットについて学びはじめ、ソーシャルメディアを含むインターネットの危険性・依存性について保護者目線で共に学び・考え・話し合い、子どもを見守る学校・地域に根差した啓発活動を続けている。

SNSでこの記事をシェアする

一覧に戻る