コラム
防犯 ライフスタイルに合わせて広げよう、見守りの輪
専門家コラム:防犯編VOL.61
担当:安全インストラクター 武田信彦
パトロール+ランニング=「パトラン」
先日、「パトラン東京」の研修会で講師を務めました。
「パトラン」とは、「防犯パトロール」と「ランニング」を融合させた造語で、新しいスタイルの防犯ボランティアを意味する言葉です。「パトラン」の活動は2012年に福岡県から始まり、現在では全国で15チームが活躍しているそうです。ユニフォームである真っ赤なウェアを身に着け、各自がライフスタイルに合わせて活動するのがパトランの特徴。コロナ禍では、オンラインアプリを活用してメンバー同士がコミュニケーションをとるなど、社会情勢に合わせた活動スタイルを模索しています。
先日パトランのメンバーのみなさんを対象に研修会を行い、市民防犯の意義や効果、その秘めたる可能性などについてお話しをしました。私はもともと犯罪防止NPOの出身ですが、リーダー時代には研修会を定期的に実施するようにしていました。日ごろの活動をしていく中で、次第に活動の意義や目的が薄れてしまうことがあるからです。研修会をきっかけに原点に立ち返り、めざす姿を確認することは、モチベーションの維持や健全な活動を続けるために欠かせないことだと思っています。
また、パトランのみなさんが世代を超えて交流している姿を拝見し、素晴らしい仲間たちとの出会いもNPOや地域活動の魅力であると実感しました。
生活の中での見守り、潜在的な防犯力の底上げも
ところで、「令和3年警察白書」によると、令和2年末時点で警察が把握している防犯ボランティアは全国で4万6,002団体、247万7,546人となっています。また、「青パト」と呼ばれる青色回転灯を装備した防犯パトロール車両は全国で4万4,242台が運用中。警察庁が毎年発表する防犯ボランティア団体の数は、政府による官民連携の防犯対策が本格的に推進されるようになった2005年ごろから急増し、2016年ごろをピークにゆるやかな減少傾向がみられるようになりました。防犯ボランティア活動の多くを支える自治会等の地域活動団体で生じている高齢化や新規メンバーの不足などが反映されていると推察できます。
しかし私自身の感覚では、全国をめぐる中で防犯ボランティアや見守りの力が弱まっているという実感はあまりありません。日々、多くの方々が子どもたちや地域の安全に関心を向けてくださっています。ちなみに、前述した防犯ボランティア団体の数には①平均月1回以上の活動実績(意見交換や情報交換のみの会議を除く)、②5名以上のメンバーで構成...といった基準が設けられています。すなわち従来型の、チームで行う防犯ボランティアが想定された基準だといえるでしょう。一方で最近では、防犯ボランティアや見守りの活動スタイルも多様化しています。愛犬の散歩、ランニング、買い物、花壇の手入れ、仕事の移動中など、地域住民、PTA、事業者などが日常生活を送りながらパトロールをする「ながら見守り」の輪も着実に増えているのです。地域にかかわる人が増えることで、いわゆる「空白地帯」が減り、犯罪行為がしにくい環境が広がっていくでしょう。
このように、従来型の防犯ボランティア団体としての枠組みでは計れない「潜在的な防犯力」は、地域を守る大きな底力であると感じています。その存在感をしっかり認識するとともに、もっと防犯活動がしやすくなる雰囲気づくりも欠かせません。ライフスタイルに合わせて気軽な気持ちで地域に目を向けるだけでも、子どもたちや地域の安全に貢献できます。今後も地域の防犯の底力を上げていくためのメッセージを発信していきたいと思います。
安全インストラクター
武田 信彦 さん
犯罪防止NPOでの活動を経て、2006年より安全インストラクターとして活動を開始。「市民防犯」のパイオニアとして全国で講演やセミナーなど多数実施中。子どもたちを対象とした「安全ワークショップ」も好評を得ている。
著書には「SELF DEFENSE 「逃げるが勝ち」が身を守る」(講談社)ほかがある。