コラム
防犯 あいさつは、防犯の基礎力?!
専門家コラム:防犯編VOL.62
担当:安全インストラクター 武田信彦
あいさつがしにくい時代
今年もよろしくお願いいたします。依然としてコロナ禍の終息は見えませんが、何より健康と全を第一に過ごしていきたいものです。
さて、安全セミナーを行うために訪れた小学校の玄関に、「元気にあいさつ!」と書かれた横断幕が掲げられていました。人と人との関係性をはぐくむ上でも、あいさつは大切ですね。「あいさつ運動」に取り組む学校も多いのではないでしょうか。
一方、学校現場からは、「防犯のためには、あいさつをしないほうがよいのでは...」と迷う声も聞かれます。まさに防犯指導をする上での難しさでもあります。また、地域のみなさんからも「子どもたちに声をかけにくい」といった意見が増えています。
さらに、保護者の間では、「子どもが地域で出会う人と、あいさつなどのコミュニケーションをさせたくない...」という考え方も急速に広がっていると感じます。実際に、私が行う講演や研修会でも、そのような声に触れる機会が増えています。この背景には、モラルやマナー意識が低下したというよりも、犯罪と遭遇することへの"不安感"が根強くあるのではないかと思います。
教育上は「あいさつは大切」。生活上は「あいさつはしたくない」。なかなか難しい状況に直面していますが、あいさつをする・しないの判断は、個人が選んでよいことです。
助け合いをはぐくむ大切な力
ちなみに私の考えとしては、「あいさつは大切!防犯には不可欠なもの!」。だからと、押し付ける気持ちはありませんが、あいさつは、地域防犯、子どもの防犯対策を考える上でも必要なものだと理解いただければと思っています。
私は、あいさつは、モラルやマナーというよりも、「人と人とが、最低限の信頼関係を築くもの」ととらえています。この信頼関係こそ、地域での助け合いや見守りの基礎力となるのです。無関心が広がる環境では、人々や地域に関心を向ける気持ちも生まれなくなってきます。しかし、「子どもだけ」になりやすい日本においては、子どもたちに関心を向ける、見守る環境は不可欠です。お互いの存在を確認し合う、「無視しない」関係性はとても重要です。
ところで、あいさつに関して世代間ギャップを感じることがあります。地域で活動されるみなさんの中には、「きちんと!」「元気に!」「大きな声で!」など、あいさつの形を大切にされている人たちがいます。「最近の子どもたちは、きちんとあいさつができない...」と嘆かれている人も...。私自身も、そのような指導をされてきたので、気持ちはわかるのですが、あいさつは、伝える・伝わることが重要であり、そのスタイルは個人が選択できるものでよいのでは、と考えています。たとえ、「きちんと」していなくても、目を向ける、会釈する、小さな声...でも、反応できればよいと思うのです。さらに、あいさつへの返事や反応がなくても、「見守っているよ」と伝えることに意義があると考えています。
また、自治体等では、防犯活動上のトラブルも報告されています。善意の気持ちであいさつや声かけを行う中、相手に誤解されてしまうケースがあるのです。トラブルにならないためには、いくつかポイントがあります。
- あいさつやコミュニケーションを強要しない
- 名前や学校など個人情報を聞き出そうとしない
- 注意をうながすためだからと、暴力的な言動を行わない
- ボディタッチはひかえる など
とくに、「注意をうながしたくなる場面」では、相手を気づかう声かけを行うとトラブルが発生しにくくなります。たとえば、「気をつけてね」「ケガをしないように注意しようね」など、優しい声かけで十分です。
あいさつや、健全な声かけは、人々がつながり合うような防犯対策には欠かせない要素です。でも、地域の中で実践するときは、「相手にどのように伝わるのか」を想像しながら行うことが大切なのではないでしょうか。まずは、大人同士が気軽にあいさつを交わす雰囲気づくりを広げたいものです。
安全インストラクター
武田 信彦 さん
犯罪防止NPOでの活動を経て、2006年より安全インストラクターとして活動を開始。「市民防犯」のパイオニアとして全国で講演やセミナーなど多数実施中。子どもたちを対象とした「安全ワークショップ」も好評を得ている。
著書には「SELF DEFENSE 「逃げるが勝ち」が身を守る」(講談社)ほかがある。