コラム
防犯 「子ども110番の家」が必要な理由
専門家コラム:防犯編VOL.71
担当:安全インストラクター 武田信彦
「子ども110番の家」を設置して一年
昨年、引越しを機に「子ども110番の家」(世田谷区では「こどもをまもろう110番」の名称)を申請・設置してから一年がたちました。自宅前にプレートを設置し、子どもが犯罪の被害に遭ったときや遭いそうなときなどの緊急時に警察への連絡などを行う役割を担っています。この一年の間には、児童が駆け込むような事案はありませんでした。我が家は街区の角地にあるので、プレートの存在も目立ち、ご近所のみなさまも認識されていると思います。強い日差しを浴びる場所に設置しているプレートですが、目立った劣化は見られず、まだまだ使えそうです。ちなみに植栽の成長とともに、プレートも上へ上へと位置をずらしています。
やめる理由は一つもない
ところで、最近相談をいただく中で「子ども110番の家は、本当に必要?」「駆け込まれることがないので、やめようか...」「何の意味があるの?」などの声が届くようになりました。たしかに学校のPTAなどから依頼をする場合、設置協力のお願いや継続意思の確認など負担も多く、さらに「駆け込まれることがない」など成果の度合いについての評価にも難しさがあるのかもしれません。
しかし、現状では「子ども110番の家」を広める理由はあっても、減らす・やめる理由は見当たりません。大人の付き添いや見守りにも限界があるため、ますます子どもだけになりやすい環境が広がってしまうでしょう。さらに、犯意や悪意といつ・どこで遭遇するのかわからないという状況があります。いま、子どもたちを守るためには、見守りと助け合いの環境づくりは不可欠なのです。
「駆け込み」のほかにも意義がある
大切なことは、「子ども110番の家」の意義や目的の確認です。私は「市民防犯」を提唱していますが、まさに、その実践のあり方を表している取り組みといえるものです。
このコラムでもくり返し述べていますが、あらためて市民防犯の目的について紹介します。
①犯罪が起きにくい環境づくり
②助け合いの環境づくり
「子ども110番の家」については、「危険なときに駆け込む場所」の印象が強いことから「②助け合いの環境づくり」への期待が大きいのかもしれません。もちろん、子どもの安全確保の面からも頼れる大きな存在です。しかし、「①犯罪が起きにくい環境づくり」についても大きな役割を発揮しているのです。犯罪が起きにくい環境づくりのためには、警察や自治体等とともに、地域住民も「見守り・助け合い」の意識をもち、地域へ関心を向ける雰囲気づくりが欠かかせません。私は、その意思表示のひとつが「子ども110番の家」プレートの設置だと考えています。「活用されていない=やめる」と答えを出してしまうことは、もったいないことです。
もしかしたら、"名称"には工夫が必要なのかもしれません。全国的に知られている「子ども110番の家」という名称だと、「警察」「駆け込み」の印象が前面に出てきます。見守り・助け合いなど、もっと柔らかなイメージの名称であれば、印象も変わってくるでしょう。地域によっても名称は異なりますので、ヒントがありそうですね。
設置に際しての負担軽減も必要
さて、「子ども110番の家」の設置から一年を迎えて、先日、地元の小学校PTAから継続確認のはがきが届きました。これまでは、PTA役員が個別に設置宅を訪問して確認をしていたそうですが、感染防止対策も兼ねて非接触型の方法になったようです。結果的に負担軽減につながっているように思います。学区は広く、設置宅も多数あります。今後学校の統廃合などがあれば、エリアはさらに拡大するでしょう。郵便やメールなど、効率的に確認できる方法をとったり、自治体や警察、教育委員会、防犯協会等と協働したりすることで、負担はさらに軽くできるはずです。
子ども、大人、地域。みんなで子どもたちを守る大切なネットワークとしての「子ども110番の家」。その重要性について、私自身も伝えてまいります。
安全インストラクター
武田 信彦 さん
犯罪防止NPOでの活動を経て、2006年より安全インストラクターとして活動を開始。「市民防犯」のパイオニアとして全国で講演やセミナーなど多数実施中。子どもたちを対象とした「安全ワークショップ」も好評を得ている。
著書には「SELF DEFENSE 「逃げるが勝ち」が身を守る」(講談社)ほかがある。