コラム
ネット 子どものSOSを受け取るために、私たち大人ができること
専門家コラム:ネット編VOL.31 担当:谷山 大三郎
子どもの自殺の現状
2022年10月27日に、最新の「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」の結果が文部科学省から発表されました。本調査結果には、いじめ認知件数や不登校の数とともに、子どもの自殺者数が掲載されています。
この中で、小・中・高等学校から報告のあった自殺した児童生徒数は368人(前年度415人)であったことが明らかとされています。この数字は前年度と比較し減少していますが、過去の人数の推移と比較すると、子どもの自殺者数が増加傾向であることから、引き続き問題視していく必要があります。
SOSの出し方に関する教育とは
2017年に政府が出した自殺総合対策大綱において、「子ども・若者の自殺対策を更に推進する」ことが重点課題の一つとされ、その中で「直面する可能性のある様々な困難・ストレスへの対処方法を身に付けるための教育(SOSの出し方に関する教育)」を学校現場において推進することが求められました。令和4年10月14日には、新たな自殺総合対策大綱の閣議決定が行われ、子ども・若者の自殺対策の更なる推進と強化がなされることとなりました。
こうした動きが社会全体に影響を与え、全国各地で「SOSの出し方に関する教育」が行われることを期待しています。
家庭や地域で活用できる「SOSの出し方に関する教育」教材
では地域や家庭で、具体的にどのような取り組みを行うことができるのか、教材とともにご紹介します。
私は、授業づくりの専門家、各界のクリエイターと共同し、学校や家庭、地域で活用できる無償教材を開発、公開するプロジェクト「いじめや人権、話し合おう、変えていこう。Changers(チェンジャーズ)」を行っています。
このプロジェクトの中で「親には心配をかけたくない」というマンガ作品を作成しました。「相談はしたいが、心配はかけたくない」という子どもの悩みがあることをふまえ、その上で、うまく誰かに頼れるようになるにはどうしたらよいのか、本教材を見ながら子どもと一緒に考えてみてほしいです。モデル指導案も公開していますので、ぜひご参照ください。
子どものSOSを受け取るために、私たち大人ができること
最後に、子どものSOSを受け取るために、普段から私たち大人ができることは何かを記載します。私は以下の二つがあると考えています。
一つ目は、普段から子どもに、利用できる相談窓口を伝えておくことです。私自身も経験がありますが、悩みを抱えた時ほど冷静に考えることが難しく、どこに相談したらよいかわからなくなります。苦しい時や困った時にすぐに相談できるよう、子どもの身の回りにはどのような相談窓口があるかを伝えておくことが重要です。
二つ目は、子どもが実際に利用できる相談窓口に関して、相談した後にどのように事態が進むのかを子どもがイメージできるよう伝えることです。悩みを相談しようと思っても、相談をしっかりと受け止めてくれるだろうか、相談したら大ごとにならないだろうか、など不安になることが考えられます。そのため、相談をした際秘密は守られるのか、相談した後はどのようにケアしてくれるのかをしっかりと伝えることが大切です。
例えば、18歳までの子どもが相談できるチャイルドラインでは、どんな人に繋がるのか、秘密を守るなどの約束、どんなことを話したらいいのか、などを具体的な例とともにWEBサイトにて紹介をしています。
ストレスを感じやすい状況だからこそ、子どものSOSを受け取るための環境をつくる
マスクの着用や黙食、学校行事の中止や延期など新型コロナ禍の状況は、子どもにとって大きなストレスです。こういった状況だからこそ、子どものSOSを受け止める機会をつくり、子どもたちが心身ともに健康に過ごすことを願っています。
谷山 大三郎さん
1982年12月生まれ。ストップイットジャパン株式会社代表取締役、一般社団法人てとり代表理事、千葉大学教育学部附属教員養成開発センター特別研究員。いじめに苦しむ子どもたちがいつでも相談、報告できるアプリSTOPitの普及*1、アスリートと協働して、いじめなどの悩みを相談する窓口を周知するプロジェクトの推進*2、いじめ防止啓発を目指した学校向け教材の開発に取り組む。