公益財団法人ベネッセこども基金

コラム

ネット 「闇バイト」~子どもを被害者にも加害者にもしないために

子どもの安心・安全を守る活動

専門家コラム:ネット編VOL.35 担当:菅原 邦美

『日給50000円。仕事は指定のものを受け取るだけ。スーツ・バッグ・ビジネスシューズ支給。初心者OK!!面接不要。』

3年におよぶコロナ禍による不景気が社会を直撃。 大学生は仕送り減や自身のバイトも減ってしまった...。そんな時にこのような高額支給、仕事も簡単、煩雑な手続きのない求人をみたら「ラッキー!!」と飛びついてしまうでしょう。
大学生だけでなく、成人でも、未成年でも可能性があります。

ところが...ちょっと待って!これこそが「闇バイト」
高額支給をうたい振り込め詐欺の「受け子」「掛け子」のような特殊詐欺(犯罪)をさせるアルバイト(仕事)のことなのです。

「闇バイト」をさせる特殊詐欺グループは、規模も大きく人員も多いので常に「闇バイト」を募集しており、気軽にSNSで「お金に困っている。いいバイトないですか。」などとつぶやけば狙い打ちをされます。
また、よいバイトはないだろうか、と探すと、ネットにはおいしい条件の募集(「闇バイト」の罠)があふれているのです。



流れを見てみよう


①AさんがSNSなどで「お金が欲しい。いますぐバイトしたい。」とつぶやく。
②「闇バイト」組織よりAさんにDM=ダイレクトメール=が来る。
AさんがDMに同意し、バイトをすることになれば学生証等の身分証の提出を求められます。

この身分証がAさんの人質となってやめられなくさせてしまうのですが、このときは
『身分証提出をもとめてくるのはきちんとしている。きっとちゃんとしたバイトなんだ。』
...と思ってしまい、疑うことなく言われるがままに大切な身分証を提出してしまいます。
身分証だけではなく、携帯電話番号、家族の連絡先なども訊いてきますので、教えてしまいます。

後で思い直してバイトをやめたいというと、『この身分証など個人情報を全部ネットにさらす、自宅を知っているから何でもできるぞ、家族に迷惑がかかってもいいのか、、、』などと脅されます。

====以降、すべての連絡・やり取りは通信アプリ等を使用して進み、指示をしている組織の人間と直接会うことはありません。
また、スクリーンショットを撮れない通信アプリを使用してやり取りされるので証拠を残すことができません。====

③こうして何も知らず「闇バイト」をすることになったAさんには、スーツ・バッグ・ビジネスシューズなど、『銀行員』に扮するための一式が渡され、Aさんはそれを着用して組織からの指示を待ちます。

「闇バイト」組織のほうでは、着々とものごとが進行します。
ほかの「掛け子」が、ターゲットに
「あなたの銀行口座が不正利用されています。今から銀行員がお宅に伺いキャッシュカードを受け取りますので渡してください。」などと電話する(「掛け子」の仕事)。
しばらくして、Aさんが通信アプリで送られた住所のターゲット宅に銀行員のふりをして行きキャッシュカードを受け取る。(「受け子」の仕事)。

ターゲットが何か怪しいと思い警察に相談し、ターゲット宅に「受け子」で行ったAさんが待ち構えていた警察官に実行犯として逮捕されても、組織側はAさんを切り捨てるだけ...つまり使い捨て...で済みます。
代わりの「受け子」はたくさんいるのです。



14歳の「受け子」も 逮捕の対象に! 埼玉県の少年逮捕

このように高額支給をうたう闇バイトの「掛け子」「受け子」になってしまい、何もわからないうちに犯罪の片棒を担がされてしまう事例が増えています。
この場合、14歳以上でも逮捕の対象となります。
「お金が欲しかったから、ネットで探した・・・。」
逮捕された少年は、動機をそう述べています。

今や、24時間なんでもすぐにインターネットで検索することができます。
少年のように、「お金が欲しい。」と思えば、即バイト探しの検索をすればたくさんの求人があります。(その中には「闇バイト」が...)
周りの人も割の良いバイトを探していたりすると、オイシイ話を自分が独り占めしたい気持ちが先走ってしまいすぐに飛びついてしまいがちです。

落ち着いて考えれば、
『何かあやしい。』
『こんなウマい話があるはずがない。』
と、危険を感知するセンサーが働き手を出さずに回避できるのですが、社会経験も少ない青少年は、視野の狭さと判断の甘さから簡単に犯罪に巻き込まれてしまうのです。
また、こうしたらどうなるのか?と考える習慣、想像する力があまりないように見えます。



子どもの安全基地を!

大人だけではなくすべての人々が生きづらさ・息苦しさを感じながら生きている現代社会で、いつも100%元気!でいることは、とてもしんどいことです。。
特にこの3年間は、行動・行事制限に加え、マスクで表情も読めず、声も聞き取りにくく常に不完全燃焼気分で暮らしてきました。
鬱々とした中で、自分を取り巻く環境への不満や高まる承認欲求を満たすためにオイシイ話に飛びついてしまいがちです。
承認欲求を満たすための様々なアプリがネットにはあふれています。
いいね!の数=承認ととらえ、日々一喜一憂する人もいますし、いいね!を増やしたいがためにあの手この手を駆使し、罪を犯してしまう人もいます。。

しかし、本来は、青少年が承認欲求を満たすのはネットの中ではなく、家庭なのです。
何気ない日常の積み重ねこそが、子どもにとっての安心で安全な居場所なのです。

✿子どものために用意した食事
✿安眠できる布団
✿優しいまなざし・声かけ
「あなたがいてくれてうれしい。」の想いが伝わることが最高の承認です。

子どもが、
「なにがあってもここ=家=に戻ってきたら大丈夫。」
「自分は、愛されている。」
と思えるところ...これこそが、子どもの安全基地です。

しかし、家庭以外に子どもが承認欲求を満たせる場所をネットの中に求めてしまうと薬物、詐欺、「闇バイト」のような犯罪に利用され犯罪者になってしまう恐れがあります。
子どもは世間知らずで騙しやすいからなのです。

世の中にはとんでもない人たちがいるんだという「闇バイト」の報道がされている今がチャンスです。
番組報道を一緒に視聴していろいろ話をし、知恵や想いを親の言葉でしっかりと伝えることができます。

殺人、放火などいかにも犯罪!!という印象ではないが、『カードの受け取り』という簡単そうに見えることが、「闇バイト」の犯罪である。世の中のオイシイ話には裏がある。まずは、一旦立ち止まって考えてみる。悩んだら相談する。
...この事実をしっかり何度でも家庭で共通理解しておきましょう。
テレビやラジオの報道は、放送倫理(※)に違反しないものなので活用しましょう。

普段からのそういう会話が、何かの局面で子どもの脳裏にふっと閃き、思いとどまってくれるということがあります。
即効性がないように見えても、遠回りに感じても、家庭でしっかり子どもと向き合い安全基地を整えておくことが一番確かな道であると思います。

※テレビやラジオの放送に際して事業者が守るべき倫理的あり方。BPO(放送倫理・番組向上機構)では、虚偽放送、放送による人権侵害、青少年が視聴する番組の品質などについて審議や検証を行っている。(出典:実用日本語表現辞典)



生きる力をつける~子どもをまもるために

「闇バイト」を始める際に、学生証や身分証、顔写真を送るよう要求されたら、すぐに送らないで、一旦立ち止まる。
親、周りの信用できる大人に相談する。
まず、これが大切です。
人はいずれ独りで生きていくものです。
親はいつまでも守ってやることはできません。
普段の生活で、この3つを意識することが大事です。

子どもに、...一生モノの【生きる力】をつける...のです。

そして、親も子どもとともに学び育ち、いざという時の安全基地を固めましょう。
親子で、社会の善悪の基本である【法律】に親しんでおくこともお勧めします。

イラスト豊富で、子どもでも読みやすく大人もわかりやすい手引書として「こども六法」(山崎総一郎著 弘文堂刊)をご紹介します。
家庭に読みやすい法律の本を一冊買っておくと、何かあったときにうろたえて、むやみやたらにネット検索をして危険なサイト等に引っかかってしまうことも防げるのではないでしょうか。



ともに育ち、育てる社会

自分の子どもだけを守ることができたら、それでよいでしょうか?
子どもにも子どもの友達、人間関係があり誰かとつながっています。
社会は、たすけ合い...共存共栄です。 誰かを助けることは、自分や自分の子どもを助けることにもなるのです。
「あれ、あの子どうかしたのかな?」と思った時には声かけをしたり、学校・地域全体で子どもたちに目と心を配ったり...みんなで育てる『共同養育』が今後ますます大切になってくるでしょう。

京都府警察ネット安心アドバイザー、京都市教育委員会情報モラル市民インストラクター、近畿総合通信局e-ネットキャラバン認定講師

菅原 邦美さん

ネットトラブルをきっかけにインターネットについて学びはじめ、ソーシャルメディアを含むインターネットの危険性・依存性について保護者目線で共に学び・考え・話し合い、子どもを見守る学校・地域に根差した啓発活動を続けている。

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