公益財団法人ベネッセこども基金

コラム

防犯 先生たちが気になる、通学路の安全と防犯指導

子どもの安心・安全を守る活動

専門家コラム:防犯編VOL.82
担当:安全インストラクター 武田信彦


学校での防犯指導のポイントは

 この夏は、例年以上の猛暑となりましたが、暑さに負けずに各地をめぐりました。千葉県では、県内に5つある教育事務所の管内で「学校安全教室講習会」の講師を務めました(うち1回はオンライン開催)。
「学校安全教室講習会」は、教職員や学校安全ボランティアの方々が受講するものです。講習会では、「①通学路の防犯対策のあり方」「②児童・生徒への防犯指導のポイント」について解説しました。

 学校の先生たちからは、「子どもたちへの防犯指導が難しい」「何を伝えてよいのか、わからない」といった声がよく聞かれます。児童・生徒に伝えるときのポイントは、①通学路での防犯対策のあり方を把握したうえで、②児童・生徒への防犯指導を行う、ということです。この順番で行うことで、内容が整理しやすくなり、伝え方もクリアになります。①=地域、②=個人に関する領域ではあるものの密接に関わっており、両方を重ねるとこで防犯の効果が高まるからです。 


通学路の安全には、地域との連携が欠かせない

 現在、通学路の防犯対策では「空白地帯=子どもだけになる状態」をなるべく減らすことを第一に、見守りや助け合いをベースとした施策が行われています。「ながら見守り」と呼ばれるような、ライフスタイルに合わせた取り組みも推奨されています。犯罪被害リスクが高まりやすい「子どもだけの瞬間」をあの手この手で減らそうとする取り組みが広がっているのです。とくに文部科学省の防犯施策では、学校を中心として「地域との連携と協働」による防犯対策が推奨されています。これは"コミュニティ・スクール"と呼ばれる学校運営の考え方とも共通しています。

 地域との連携・協働として先生方にお願いしていることは、校門や学校周辺で地域の皆さんやボランティアの方々と出会った際、「いつも、ありがとうございます!」の声かけをしていただくことです。連携・協働の底力がますます元気になり、子どもたちを守るエネルギーが生み出されるからです。


園児から中高生まで、防犯指導のあり方

 教職員対象の防犯研修を全国各地で担当していますが、どこでも共通しているのは、幼稚園~高校の先生たちが同時に参加しており、対象となる年齢層が幅広いことです。いわゆる「子どもの防犯対策」と表現されるものは、小学生の通学時における防犯対策がほとんどです。

 小学生以外の年代についてはどのような内容がよいのでしょうか。まず幼稚園や保育園であれば、小学校入学の前段階の知識ということで小学校向けの内容で対応可能です。しかし、中学校以上では、一部共通しているとはいえ、小学校よりもさらに具体的な内容や価値観を伝えることがもとめられます。地域での犯罪被害の傾向、身を守ることと暴力の違い、自らがもつ予防力と対処力、SOSを伝える大切さ、さらに、地域での見守りや助け合いの意義についても、先生方からぜひ伝えていただきたいのです。私が担う防犯研修では時間が限られているため、すべてを網羅して伝えることには限界があります。そのため、小学生向けの防犯指導のコツをベースに、中学生以上に伝えるポイントを追加して解説しています。

 小学校の先生方へのテキストは、公益財団法人ベネッセこども基金のみなさんと制作した「子どもの安全安心ハンドブック」を用いています。無料で使える冊子スタイルの防犯資料は少ないため、多くの小学校などで活用されています。もちろん、幼稚園や保育園でも利用できます。また、紙の冊子だけでなく、誰でも使える「『子どもの安全教室』実施プログラム」のデータも同梱されています。スライドとして映しながら子どもたちに見せることができるので、ハンドブックとともに活用ください。
 中学校以上の先生方には、私の著書「活かそうコミュ力!中高生からの防犯」(ぺりかん社)を紹介しています。一人ひとりが身につけているコミュニケーション力を"防犯力"として活かすためのポイントをまとめている一冊です。さらに、自分を守る力が、周囲や地域をも守る防犯力へつながることを知る点も重要なポイントです。

 防犯指導で重要なことは、「ひとりにならない」をしっかり伝えること。社会全体で見守り・助け合いの環境づくりが広まる中、児童・生徒自身も「自分だけにならないことが一番安全」ということを理解し、道の選び方やふるまい方を実践してこそ、地域防犯力の効果も発揮されます。悪意や犯意の存在とともに、善意や助けてくれる人たちの存在と自らがもつ「自分を守る力」をバランスよく伝えることが、防犯指導では最も重要なことなのです。

うさぎママのパトロール教室

うさぎママのパトロール教室主宰
安全インストラクター

武田 信彦 さん

犯罪防止NPOでの活動を経て、2006年より安全インストラクターとして活動を開始。「市民防犯」のパイオニアとして全国で講演やセミナーなど多数実施中。子どもたちを対象とした「安全ワークショップ」も好評を得ている。
著書には「SELF DEFENSE 「逃げるが勝ち」が身を守る」(講談社)ほかがある。



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