公益財団法人ベネッセこども基金

コラム

ネット もし、子どもが「YouTuberになりたい」と言ったら...?

子どもの安心・安全を守る活動

専門家コラム:ネット編VOL.41 担当:菅原 邦美

YouTuberは、なりたい職業の上位にランクイン

動画投稿サイトのYouTube(ユーチューブ)に動画を投稿し、チャンネル登録者数や閲覧数を増やして広告収入などを得るYouTuber(ユーチューバー)。今やYouTuberは、毎年のように「小学生がなりたい職業ランキング」上位に入っています。2022年も、下記のようなランキングとなりました。

<小学生がなりたい職業ランキング2022>
1位 ユーチューバー
2位 漫画家・イラストレーター・アニメーター
3位 芸能人
4位 ゲームクリエイター・プログラマー
5位 パティシエ
6位 学校の先生
7位 保育士・幼稚園の先生
8位 作家・ライター
9位 医師
10位 動物園・水族館の飼育員
(ベネッセホールディングス2022総決算ランキングより)

コロナ禍で在宅時間が長くなり、インターネットでの情報収集やエンターテインメントを目にする機会が多くなったことも影響しているのでしょうか。小学生の3割、中学生の5割が毎日YouTubeを視聴しているとも言われています。

子どもがYouTuberになりたいと言ったら、どうコミュニケーションする?

見て楽しむものとしては身近でも、自分の子どもに「将来YouTuberになりたい」と言われたら、保護者のかたとしてはどう答えるべきか、迷う場合もあるのではないでしょうか?実際、保護者から見てYouTuberは「子どもになってほしくない職業」と言われてしまうことも。保護者世代が若いころには職業の選択肢になかったのですから、戸惑うのも当然かもしれません。そこで、突然「YouTuberになりたい!」と言い始めた小学6年生のAくんと、その言葉をどう受け止めるか悩むお父さんの事例を見ながら、子どもとのコミュニケーションについて考えてみましょう。


***
Aくん:(YouTubeっておもしろいな。自分のスマホで動画を撮るのも好きだし、友達に見せるのも好き。YouTuberになれたら、華やかで楽しそうで、自分らしさを自由に出せて、コメントももらえて楽しそう。それが収入にもなるなら、夢のある仕事だよね。大人は「夢をもとう」って言うし、人気者のYouTuberをめざしてみたいなあ。)
Aくん:「お父さん、ぼくYouTuberになりたい。だからこれから動画の勉強するよ」
お父さん:「YouTuber?ちょっと待って。それは難しいんじゃないか?」
Aくん:「どうして?いつも夢に向かってがんばれって応援してくれるじゃない?」
お父さん:「それはそうだけど...でも決めるのはまだ早いだろう。もっとよく考えてみなさい」
Aくん:「...。(お父さん、どうしてこんな嫌そうな顔をするんだろう。何だか話しづらいな)」

【Aくんは、やりたいと考えついたことをせっかくお父さんに話したのにきちんと聞いてもらえず、希望にふくらんだ心がぺしゃんこの風船のようになってしまいました。お父さんの反応に、「どうして?」と違和感が残ってしまったのです。一方お父さんは...。】

お父さん:(Aが急にYouTuberになりたいと言い出しておどろいたな。YouTuberは不安定な仕事だと聞いたことがあるし、福利厚生があるかとか、住宅ローンが組めるかとか、いろいろ確認しないとわからないことがある。まあしばらくすれば熱もさめるだろうし、ひとまずYouTubeの視聴時間を制限することにしよう)

【そんなある日、こんな新聞報道がありました。
ユーチューバー事務所 難局。
ショート動画人気!競争激化の中、広告収入減少で人気ユーチューバー事務所運営●●●業績悪化】

お父さん:(やっぱり...。楽しそうに見えても、ライバルは次々に出てくるし、再生回数も多くなければ成り立たないんだ。そんな簡単にもうけられるほど世の中は甘くない。Aに考え直してもらうにはちょうどいいニュースかもしれないな。)

【お父さんは、AくんにYouTuberになる夢をあきらめるよう説得することに決め、どう話そうかと考えながら家路を急ぎました。お父さんが帰宅すると、リビングではAくんと中学生の姉が、スマホを見ながら大笑いしています。Aくんも、お父さんの前では最近見せなくなった、満面の笑顔です。】

姉:「この動画サイコー!今日は部活のことでへこんでたけど、元気出ちゃった。A、動画撮るのうますぎ。...あ、お父さん、おかえり!」
お父さん:「あ...、ただいま。何だか楽しそうだな」

【すると、Aくんはとっさにスマホをかくしてしまいました。お父さんと目を合わせようとはしません。】

姉:「スマホしまっちゃうの?Aの動画おもしろいから、お父さんにも見せようよ」

【姉が再生したのは、Aくんが撮った愛犬ムギの動画でした。自分のしっぽを追いかけてくるくると回る様子やかわいらしい表情が、絶妙なカメラワークでとらえられています。30秒ほどの短い動画の中で、しっかりとメリハリもついていて、最後にほっこりとした笑いを誘います。】

お父さん:「A、お父さんにも動画見せてくれないか?お姉ちゃんがこんなに喜んでいる動画、お父さんも興味あるよ」
Aくん:「...うん!」

【Aくんの動画をかこんで、久しぶりに家族でのなごやかな時間が過ぎました。みんなが喜んでくれて、Aくんはとてもうれしそうです。】

お父さん:(大変なのはどの仕事も同じだ。一度Aとじっくり話をしてみよう。どうしてYouTuberになりたいと思ったのか、どんな動画を作りたいのか、どんな人に向けて発信したいのか...。そうだ、一緒に動画を撮ってみたり、YouTuberについて調べてみたりするのもいいかもしれないな)

【後日、Aくんはお父さんとお母さんの監修のもとでYouTubeチャンネルを開設。愛犬ムギの毎日をショート動画にして投稿していくことになりました。ムギへの愛情やそのかわいさも伝わるように家族でアイデアを練っています。Aくんの初めてのYouTubeは、どうなっていくのでしょうか?】


※このお話はフィクションです。実在の人物や団体とは関係ありません。
***

まずは否定せずじっくり話を聞きましょう

いかがだったでしょうか?保護者世代にはいまいちその実態がつかみにくい仕事であるうえに、視聴者としての目に映るのはその仕事の一部分であるためか、ついつい頭ごなしに否定してしまうことがあるかもしれません。しかし基本的には、どの職業であっても「子どもの考えをしっかりと聞きながら、大人の知恵も渡しつつ伴走する」という子どもの希望進路の受け止め方と相違はありません。まずは子どもがイメージしていることや、どんな動画を、誰に、どのように発信したいのかなど、じっくり聞いてみましょう。そのうえで、職業としてYouTuberを選ぶ場合のメリットやデメリット、考慮すべき点、働き方の実情、リスクなどについてリサーチをし、検討するとよいでしょう。Aくんとお父さんのように、まずは小さい範囲で実際に経験してみるというのもひとつの方法です。

試しに動画を投稿してみるのであれば、次のようなポイントについて子どもといっしょに考え、投稿したあとも様子を見守りながらコミュニケーションをとっていくようにしましょう。
・よりよい動画を撮るためには、何が必要か。費用はどのくらいかかる?
・視聴者の反応はどうだったか?コメントは?対応は?ライバルの存在は?
・法律で禁じられていることは?
・困ったときの相談先は?

投稿にあたっては、いろいろ勉強したりアンテナを張ったりすることも必要です。そして視聴者の反応に対し、子どもがどう感じ、どう行動しようとしているかを見守りましょう。物わかりの良い保護者になる必要はありません。子どもの夢の一番の応援団であるとともに、保護者として大人の知恵を駆使して密にコミュニケーションをとることで、YouTuberとして世間の風を受けようとする子どもに、しっかりと寄り添ってほしいと思います。

YouTuberという仕事を、いろいろな側面からとらえましょう

参考までに、YouTuberになった場合のポジティブな面、ネガティブな面、確認しておきたいポイントの例を挙げておきたいと思います。人によってはネガティブに感じない、むしろやりがいを感じるといった場合もありますので、あくまで一例です。

<ポジティブな面の例>
・「好き=仕事=夢の実現」の手ごたえを感じられる
・投稿するネタを探したり、考えたりと、常にワクワク・エキサイティングな気持ちでいられる
・等身大の自分を自由に表現できる。(学歴、資格などの制約がない)
・時間、場所、投稿ペースなどを自分で決めることができる
・反応がダイレクトで刺激を得ることができる
・一つ当たれば、高収入、有名になることも夢ではない

<ネガティブな面の例>
・ある程度のチャンネル登録数や再生回数がないとまとまった収入にならない
・収益化するまでに時間がかかる
・収入の変動がある
・競争が激しい
・ネタが底をつくことも多い
・炎上するリスクや、アンチコメントがある
・個人情報やプライバシーが漏洩するリスクがある

<必要となる力や、確認したいポイントの例>
・自分の好みだけでなくターゲットの設定や視聴者の好みを考えるなど、マーケティングの観点が必要
・視点の斬新さや面白さ、アイデア・発想といった企画力が必要
・魅力的に演出し、飽きずに視聴してもらう表現力や、演者としての魅力・セルフブランディングなどが必要。時にはカリスマ性も
・音声・照明・カメラなどの機器や、編集ソフトなどを使いこなすスキルが必要
・YouTubeの規約や規制対象、法的禁止事項に触れないようにするための知識が必要
・アンチなコメントにも心折れずに頻繁に投稿していくメンタルの強さが必要
・機材やソフトウェアの種類と費用を確認しておくことが必要
・ほとんどは個人事業主となるため、個人事業主の社会保障や福利厚生、税金、法律、働き方の実情などについて確認しておくことが必要

また、そもそもYouTubeというプラットフォーム自体に改変があったり、社会情勢が変わったりすれば職業としてのあり方も変化していく可能性もあります。そうした変化に柔軟に対応できることや、たとえYouTubeというプラットフォームがなくなったとしてもほかの場所で活躍できる能力やスキルを身につけておくことも重要な要素のひとつであると考えておきましょう。

楽しさにかられ、再生数を伸ばしたくて暴走しがちになるときは大人の理性でセーブしてあげましょう。そのうえで、足りないところに大人の知恵を足しながら子どものペースに合わせて伴走してあげてほしいと思います。
同じ方向を見る...その先には"夢"がはっきりと見えてくるかもしれませんね。


京都府警察ネット安心アドバイザー、京都市教育委員会情報モラル市民インストラクター、近畿総合通信局e-ネットキャラバン認定講師

菅原 邦美さん

ネットトラブルをきっかけにインターネットについて学びはじめ、ソーシャルメディアを含むインターネットの危険性・依存性について保護者目線で共に学び・考え・話し合い、子どもを見守る学校・地域に根差した啓発活動を続けている。

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