公益財団法人ベネッセこども基金

コラム

防犯 子どもの防犯、みんなで考える!

子どもの安心・安全を守る活動

専門家コラム:防犯編VOL.83
担当:安全インストラクター 武田信彦


防犯対策を個人に押し付けない

 先日、全国的な話題となったのが、埼玉県での虐待禁止条例改正案と撤回の騒動です。とくに、子どもだけの登下校や留守番についても「虐待」と定義しようとしたことに衝撃が走りました。これは、私が専門とする市民防犯の視点からも驚く内容でした。連日報道で取り上げられていましたが、ちょうど「全国地域安全運動」の期間中でもあり、私が講演や研修を行っていた各地でも、大きな反応がありました。条例改正案そのものについては、多くの厳しい意見を受けて撤回されましたが、今回のことは、日本における「子どもたちの防犯対策」について、あらためて考えるきっかけになったのではないでしょうか。

こちらのコラムでもくり返し述べているとおり、防犯対策上は「子どもだけの瞬間」をなるべく減らすことがもとめられており、政府の指針もその方向で取り組みが進められています。「子どもだけの瞬間」は、子どもが巻き込まれる犯罪被害リスクを高めることになるためです。しかし、重要な点は「防犯対策を個人だけに押し付けない」という姿勢です。すなわち、社会や地域全体で見守り・助け合うという環境のもとで「子どもだけの瞬間」を減らそうと推進されているのです。

「地域で見守る文化」の日本

 地域全体での見守りが前提となっている背景には、おもに2つの点があります。1点目は、「文化習慣的な『地域育て』」。日本では「地域で子どもたちを育む」という考え方と習慣が長く続いてきました。その中で、通学路に象徴されるような「学校へは子どもだけで歩いて通学する」ことや「子どもだけで行動する習慣」が定着しています。2点目は、「社会環境の変化」です。家族構成が多様化し、さらに、一億総活躍や女性活躍といった政策も推進される中、保護者と子どもたちの生活が合わせにくい状況が広がっています。このことは、放課後の学童クラブの利用人数が過去最高を更新し続けていることにも表れています。

 一方、欧米へ目を向けると、「子どもは保護者が守るべき」といった視点が存在しています。もちろん、日本でも自己責任や保護責任は存在しているものの、とくに公共空間の安全対策においては、自己責任だけに押し付けるのではなく「みんなで守り合う」意識が高いことが特徴的ではないでしょうか。それは、国や社会によって異なる自己責任のとらえ方の強弱も影響しているといえます。


子どもの防犯には、みんなで取り組む!

 いま、日本における子どもの防犯対策は、「みんなで取り組む」がベースになっています。それは、前述した文化習慣や社会環境などさまざまな背景や現状を前提として考えられているからです。私が助言を務めている警察庁の防犯コンテンツの子ども編は「みんなで守ろう!子供の安全!」です。

じつは、このタイトルについては、私が提案したものを採用いただきました。日本が育んだ「地域育て」の文化習慣は「子どもだけの瞬間」を生み出しやすい防犯的弱点を抱えている一方で、その弱点を補うものは、同様に「地域育て」で育まれた「みんなで見守る」底力そのものだととらえているからです。地域住民同士のつながりは時代とともに薄れてきているものの、防犯ボランティアや見守りといった防犯活動もさかんに行われており、「地域育て」で育まれた底力が、ニーズに合わせて形を変えて現れているとも言えそうです。


 このように、子どもたちを犯罪から守るためには「みんなで取り組む」環境作りが欠かせません。中でも、3つの力が重要であると考えています。
①地域の力
長年育まれてきた地域の底力です。警察や自治体、学校をはじめ、自治会やボランティア団体など、多くの人々が子どもたちの安全確保のために取り組みを行っています。最近、地域住民による防犯活動が弱まっている...といった課題もありますが、潜在的な力、新しい力なども織り交ぜながら盛り上げていきたいところです。
②大人の力
最も強い防犯力となり得る存在です。保護者の中には「付き添いたいけれど、付き添いにくい...」といった声もあります。通学時などにお子様に付き添うことができる、また、「付き添いたい」と願う保護者のみなさまが付き添いやすい雰囲気づくりも欠かせません。
③子どもの力
地域全体で「子どもだけの瞬間を減らす」ための取り組みを行っていても、子どもたち自身が「ひとりにならない」という知識や意識がなければ、見守りの力も重なり合いません。防犯指導の際などには、「ひとりにならない」ための振る舞い方や道選びも伝えることが必要です。

 先日、小学校で防犯講話の機会をいただきました。大人向けの講演の予定でしたが、保護者や学校側からの希望で、「6年生児童対象」「地域の大人対象」「低学年児童と保護者対象」の3部構成となりました。印象的だったことは、6年生児童に向けて校長先生が「自分を守る力をしっかり身につけよう。そして、低学年の児童たちを見守る力にもなってほしい」とメッセージを伝えていたことです。世代を超えて、見守り・助け合いの環境を広げること。日本の防犯対策は、各地でていねいに育まれています。


うさぎママのパトロール教室

うさぎママのパトロール教室主宰
安全インストラクター

武田 信彦 さん

犯罪防止NPOでの活動を経て、2006年より安全インストラクターとして活動を開始。「市民防犯」のパイオニアとして全国で講演やセミナーなど多数実施中。子どもたちを対象とした「安全ワークショップ」も好評を得ている。
著書には「SELF DEFENSE 「逃げるが勝ち」が身を守る」(講談社)ほかがある。



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