公益財団法人ベネッセこども基金

コラム

ネット 将来ネットで失敗しないために、乳幼児期からできること

子どもの安心・安全を守る活動

専門家コラム:ネット編VOL.42 担当:岡田 典子


赤ちゃんは電話遊びが大好き。でも...

 職場の保育園で子どもたちの様子を見ていると、0歳児~1歳児にも、すでにスマートフォン(スマホ)が遊びとして根付いていることに気づきます。まだハイハイの乳児でも、積み木やブロックなどを指先で押したり、自分や保育士の耳に当てたりして遊んでいます。1歳児は、保育士が段ボールで作ったおもちゃのスマホを見て大喜び。取り合いの始まりです。耳に当てたり、数字の書かれたまるいシールを指で押したり、「はい、はい」と言っていたり、スマホ遊びは大人気。ある時、女児がそのスマホを横向きに持って何か言っています。よく見ると、向かい側で別の女児2人がピースをしていました。写真撮影のまねっこをしていたのです。

 わが家の長女が1歳のころは、プッシュボタン式電話をおもちゃにしていました。二男のころは、ケータイショップで0円でもらえるガラケーをおもちゃにしていました。いつの時代も、子どもは身近な大人がすることをまねて遊び、やがて学びになっていきます。電話遊びもその一つです。しかし、スマホはインターネットで世界中とつながっているという点が、これまでの電話とは大きく違っています。


ネットは必須の時代。失敗せずに使わせるには?

 スマホは便利なものですが、一度送信した情報は、瞬時に世界中に公開され、ネットの世界に残り続けるという特徴があります。また、自分の気持ちとは関係なく人を傷つけたり、命を奪ったりしてしまうことさえあり、知らないうちに加害者となってしまうかもしれないというリスクをはらんでいます。

 Society5.0へ向かう中で、現在では進学や就職等のためにインターネットで申請などの手続きをすることはもはや必須ともなっています。また、2021年度には全国の児童・生徒に一人一台の端末などICT環境を整備する「GIGAスクール構想」がスタートし、すでに小学1年生からインターネットにつながるタブレットを使って、授業や宿題ができる時代となりました。もはや、子どもにネットを使わせない時代ではありません。しかし、ただネットにつながる端末機器を使えればいいのではありません。ネットの特徴を知り、ネットを使うために必要な力が育っていなければ、子どもたちがトラブルに巻き込まれて被害者にも加害者にもなってしまうかもしれません。わが子が失敗しないで賢く楽しくネットを使えるように、乳幼児期からその力をどのように育めばいいのか、一緒に考えてみましょう。


基本となるのは、「想像力」や「コミュニケーション力」

 ネット上でトラブルになりやすいのは、SNSでのコミュニケーションです。大人も子どもも多くの人がSNSを利用していますが、人同士がつながるツールであるため、特にトラブルが多いと言えるでしょう。顔が見えずに文字やスタンプでやりとりするために、言葉の行き違いや気持ちの食い違いなどが起こりやすく、トラブルになってしまうこともよくあります。また、誹謗中傷や不適切な画像を送るといった悪質ないじめや犯罪もあり、深刻な問題です。一方、軽い気持ちで動画や画像を撮影して投稿したら、知らずに著作権や肖像権、プライバシー等を侵害していたという場合もあるかもしれません。

 ネット上での言動によって人を傷つけたり罪を犯したりしないようにするために大切なのは、「相手の気持ちを想像する力」です。ネットを使うときに「こうしたらどうなるのか」「相手はどう思うのか」を想像することが、ネットにつながる世界を賢く活用するための第一歩だといえるでしょう。相手の考え方は、自分と同じであるとは限りません。それでも、相手のどんな言葉にも耳を傾けることが大切です。否定せず、まずは受け止め、わからないことは相手に確認しましょう。同時に、自分が感じることや思うことを、相手に伝えることも大切です。このやりとりを心がけ、重ねていくことで「コミュニケーション力」が育まれていきます。

自分で考え、行動できる人をめざして

 相手の気持ちを想像する力や、異なる考えを互いに聞いたり伝えたりするコミュニケーション力のほかにも、大切なことがあります。それは「自分をコントロールする力(自律)」です。子どもが心身ともに健康に成長していくためには、「いのちの意志」が保障される環境であることが必須です。「いのちの意志」とは、自分で感じ、考え、行動することによって、自分を成長させていくこと。知りたいと思ったことを調べたり聞いたりして確かめていく行動を積み重ねることで、意志の力が育ち、自律的に生きていくことにつながっていくのです。何かを達成したいという意志の力が育つということは、同時に、自分自身をコントロールする力が育つということでもあるからです。

 さらに、自分で考え行動する中で意識的に身につけていきたいのが、「真実を見極める力」です。ネットの情報はすべて真実とは限りません。虚偽の情報だと気づかずに拡散してしまったり、一部の情報ばかりが目に付いて、偏った意見をあたかも多数派のもののようにとらえてしまったりするといった落とし穴があることも忘れてはいけません。情報を発信する場合にはその真偽を確かめることや、検索履歴などから個々に表示される情報が異なる機能があるといったネットのしくみについての知識を得ることも大切です。幅広くアンテナを張ることで、真実を見極める目がみがかれていくでしょう。

※参考『人権のひろば №152』(「心の現場から見えてくる『人権侵害』 中林康子 氏(心理カウンセラー)」)


「自律」のために、乳幼児期からできるかかわりは?

 実際に子どもが「自律」を身につけていくのはだいぶ成長してからのことでしょう。しかし、「自律」は一朝一夕にできるものではありません。いろいろな人とのかかわりの積み重ねの中で身についていくもの。乳幼児期であってもそのためにできることはあります。いろいろな世界に初めて出会う乳幼児期だからこそ、ご家庭では次の3つのことを実行してみましょう。

    ①絵本をたくさん読みがたる

    ②保護者がルールやマナーを守る

    ③いっぱい抱っこし、いっぱいほめる

 こうした経験の中で少しずつ身についていく力には、次のようなものがあります。

・五感
・想像力
・コミュニケーション力
・自分をコントロールする力
・真実を見極める力

これらの力が身についていくと、子どもはやがていろいろなことを多角的に知り、想像し、自分で考え、判断して行動できるようになっていくでしょう。

 ぜひ保護者のかたが大人として見本となる行動を示しましょう。相手の立場や状態を想像し、相手の身になって考える姿を見て育つ子どもたちは、思いやりをもって相手に接する心をもつことができるようになるでしょう。それは自然と人権を尊重するという意識につながっていきます。子どもたちがネットを賢く活用できること、さらには心身ともに健康に成長していくことを、大人たちで支援していきましょう。


この本だいすきの会

京都府警察ネット安心アドバイザー/近畿総合通信局e-ネットキャラバン準専任講師/人権擁護委員/京都市情報モラル市民インストラクター/保育士

岡田 典子さん

幼稚園教諭、子育て支援のNPO副理事長を経て、子どもたちの健全育成への関わりを深め、2008年より主に京都府内小中学校・高校を中心に情報モラル教育の講師として尽力。現在、保育士として保育園に勤務しながら人権擁護委員としても、情報モラル講座や人権教室を実施。読みがたりや昔ばなしの再話研究にも力を入れ、特に乳幼児の保護者に「スマホより絵本とわらべうたで子育てを」と伝えている。

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