公益財団法人ベネッセこども基金

コラム

ネット 子どもを見守るということ

子どもの安心・安全を守る活動

専門家コラム:ネット編VOL.49 担当:菅原 邦美

 夏休みも中盤。
 楽しいイベント・計画もある一方で、子どもだけのお留守番や子どもだけの外出も増え、保護者にとってはいろいろと心配な日々でもあります。

 現に、小学生の子どものいる保護者の6割以上が、「子どもの日常生活について不安を感じている」と答えています(セコム株式会社 「小学生の安全対策に関する意識調査(2022年1月実施)」より)。不安に思うこととしては「屋外での事故や怪我」「連れ去り、通り魔などによる危害」「見知らぬ人からの声かけ、付きまとい」「インターネット上のトラブル、危険」などが挙げられており、特に高学年の子どもの親においては「インターネット上のトラブル、危険」が不安と答える人が多くなっています。
 2023年にこども家庭庁が発足し、政府が取り組む子ども政策の司令塔となり多方面からの子どもの見守り強化が進められています。
 特に、乳幼児、子ども、高齢者介護に必要な見守りに、近年発展目覚ましいAIがどんどん参入しています。

 AI搭載子ども見守りロボットは、AIがあらかじめ子どもの行動を把握・学習し、アプリを入れて子どもに持たせると位置情報から子どもの居場所を確認できるというものです。
 子どもの行動パターンをAIが学習すると、
 ・普段行かない所にいる
 ・決まった時間の交通機関に乗り遅れた
といった子どもの非常事態をすぐ保護者に通知してくれるのですから、安心できる!という声が多いのもうなずけます。

 でも...見守りAI/GPSを信頼しすぎてしまっているがゆえに、機器にまかせっきりになってはいないでしょうか?

持たせておけば、本当に安心なの?

 教育委員会の情報モラル講座では、地域・保護者の方々にネットモラルなどについての教材用動画を視聴していただき、自由に感想を話し合っていただいています。

 以前講座で視聴した動画には、たとえば次のようなものがあります。
 主人公は小学生の女の子。家族の愚痴やモヤモヤした独り言を、ネットで知り合った相手に話すようになります。しかし相手は同世代の女の子になりすました、悪意ある成人男性。そうとは知らず女の子はその相手と会う約束をしてしまい、一人で出かけることに。人気のない公園の片隅で会い、危うく連れ去られそうになる...という内容です。
 動画の中で、子どもが一人で出かける場面では、保護者は子どもの顔を見ず、口頭確認もしっかりしないまま送り出してしまいます。
  =「スマホを持たせているからいつでも連絡が取れる。」
  =「いざとなったら見守りAI/GPSをつけているから安心。」
動画の保護者の涼しげな横顔からは、そんなつぶやきが聞こえてきそうです。

 視聴後のグループトークでは、
「《誰と、どこで会い、帰宅は何時か》を確認せず、子どもの顔もしっかり見ないで送り出している場面がある」というところに気付く保護者はあまり多くなく、むしろ年配者のほうが真っ先に気付くという傾向が見られます。
時代の流れ、と一言で片づけられない、子ども単独での外出の際の声かけ・見守りの意識の変化にハッとさせられる瞬間です。

 ネットモラルについては、ほかにも文科省作成の啓発短編動画※が多数あり、ご家庭でも気軽に視聴していただくことができます。

 大切な子どもを見守ってくれる小さな機器。
その小さな機器は、万能でしょうか?どんなに多機能で優れた機器でも、それが全く役に立たない場面を想像してみてください。子どもの無事と安全を願って持たせた機器...それは子どもの体にくっついて正確に作動していてこそ力を発揮できます。
 ・機器をつけているランドセル、靴、衣服を放り出したり、脱いだりしてしまった
 ・機器を入れたお守り袋を体にかけていたが、ひもがちぎれてどこかで落としてしまった
 ・機器が壊れた
 ...またこれは、あってほしくないのですが、
 ・悪意ある第三者の手に渡ってしまった
など、リスクはあちこちに潜んでおり、決して「持たせたからもう安心」ではない、むしろ、見守りAI/GPSを頼りにし過ぎないことが大切だと思います。

保護者が 子どもとできること

 最新のAI搭載見守り機器を持たせてもリスクを回避しきれない...というのであれば、何をすればよいでしょう?
 一番の基本は、危機管理をふくめ、なんでも話しやすい環境を普段から作っておくことです。保護者が留守がちなご家庭もあるでしょう。またそうでなくとも日中は子どもだけでの行動が多くなるこの時期だからこそ意識して、家族みんなが、「いってらっしゃい」「おかえりなさい」「どこに」「だれと」「何時ごろに帰る」といった声をかけ合うことは、とても大切だと思います。 

家庭では、
 ①学区、地域で危険の潜んでいる場所、ポイント、不審な人物・ものについて確認し合う(回覧板の警察ニュースなど)
 ②学校・地域の見守りパトロール活動等に参加し、情報収集・意見交換する
 ③地域の危険情報お知らせアプリ、自治体からの犯罪情報メール等を活用する

子どもには、
 ①危険に遭遇したときは、
  ✕「キャーッ」よりも
  〇「助けてー」、「だれかー」とさけぶことを教える
 ②子どもが逃げ込めるコンビニ、お店などをいっしょに確認する
 ③公衆電話の存在と、かけ方を確認する
など、スマホや見守り機器だけに頼らず、家族みんなでおたがいを気にかけ、声をかけて見守り合いましょう。地域の子どもたちの見守りも同様です。

そもそも、AI搭載見守りGPS を持たせようと思う子どもは、小学校に入学し自分である程度行動ができるようになる6~14歳。...ちょうど少年期の時期で、幼児期にはぎゅっと握っていた保護者の手を徐々に離し、一人での活動範囲が広がっていくころでしょう。登下校、部活動、習い事、子どもだけの外出...。保護者の知らない行動や想定外のことも起こりえます。保護者の不安・危機管理意識が高くなるのとは裏腹に、子どもには自我が芽生え、行動の管理・監視を嫌がることもあるかもしれません。せっかく機器を持たせても、反抗して持たなくなったり、自分勝手にoffにしたりしては活用できません。そうした場合には、保護者も目を配ることの難しさを感じるでしょう。

 小学校高学年から中学生のころは、反抗する一方で、甘えたい・自分を見ていてほしいという、こころと身体が「大人と子どもの半々」という時期です。
 「いつも見ているよ。」
 「あなたが大切だよ。」
 「何かあったら話を聴くよ。」
保護者が『聴く耳』と『見守る目』をもって、それを子どもに発信し続けることで、目に見えない結界のようなものを張って子どもを守ることになっていくのではないでしょうか。
そして青年期(15~24歳)へと、大人の階段を駆け上がっていくのです。

子どもの成長とともに保護者と子どもの関係や家庭環境は変化します。その目まぐるしい変化は、戸惑い、悩み、揺らぎ、時に痛みを伴います。本当に家族の悩みは尽きることがありません。
子どもが無事に独り立ちするまでの道程で、成長に合わせて保護者も接し方・見守り方を変えることが必要でしょう。「育児=育自」ともいわれる所以です。

つらい時、道の先が見えなくなった時に原点に立ち返らせてくれる、ネイティブアメリカンの古くからの言い伝えを紹介します。
大自然の中、部族内の厳しい掟と共に生き抜く先住民の知恵は万国共通です。(提唱されたのは、山口県下関市の教育者である緒方甫(おがたはじめ)先生です。)

   《 子育て四訓 》
 乳児は しっかり肌を離すな
 幼児は 肌を離せ、手を離すな
 少年は 手を離せ、目を離すな
 青年は 目を離せ 心を離すな


**見守りAI/GPSを持たせるなら、次のようなポイントを確認しましょう**
①時期
いつ(何歳)から持たせるかは、家庭や子どもの生活パターンによります。

②機器の選び方
・デザイン・持ちやすさ...ランドセル・服・靴につけられる形のものや、お守り袋のように体にひもで下げられる形のものなどさまざまあります。子どもの好みのデザインで持ちやすい形のものを選びましょう。子どもが持ちたいと思う方法で持ち方をカスタマイズしてもよいでしょう
・価格...本体5,000~6,000円+見守り料金月額500~600円くらいが多いです
・機能...子どもから保護者への発信通知ボタンやボイスメッセージ送信機能があるとより安心です。多機能で優れた機器がたくさん開発されています
・位置情報の精度...屋外と屋内では取得できる位置情報の精度がちがう場合もあります

③購入にあたって
子どもによっては、保護者に行動を監視されているようで反発する場合も考えられます。
GPS端末のこと、機器のサービス、仕様(メンテナンス)、目的 をまず保護者が理解して、「なぜ必要か」「なぜ持ってほしいのか」をしっかり子どもと話し合い、子どもが同意してから購入しましょう。

基本は家族内でのコミュニケーションを大切に。AI/GPS機器は補助的にうまく活用しながらみんなで子どもを見守っていきましょう。


※文部科学省
「情報化社会の新たな問題を考えるための教材」 (YouTubeチャンネルが開きます)

京都府警察ネット安心アドバイザー、京都市教育委員会情報モラル市民インストラクター、近畿総合通信局e-ネットキャラバン認定講師

菅原 邦美さん

ネットトラブルをきっかけにインターネットについて学びはじめ、ソーシャルメディアを含むインターネットの危険性・依存性について保護者目線で共に学び・考え・話し合い、子どもを見守る学校・地域に根差した啓発活動を続けている。

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