コラム
ネット 夢中になるのが当たり前...子どものショート動画視聴のどこに注意するべきか
専門家コラム:ネット編VOL.50 担当:高橋 大洋
若い世代のスタンダードは「ショート動画」
「ネット動画といえば無料のYouTube」と思っていませんか?
たとえばNetflixやAmazon prime videoで、ドラマシリーズや映画など、長い動画を楽しむ大人が増えています。その反対に子どもたちには、1本あたり15秒からせいぜい1分ほどの、尺の短い(ショートな)無料動画が大人気です。
その元祖とも言えるアプリはTikTokですが、Instagram(リール)やYouTube(ショート)、LINE(VOOM)が次々とその後を追いました。コロナ禍の間に「ショート動画」はジャンルとして確立された感があります。
はじめのうちは、一般ユーザーが流行の曲に合わせて振り付けをする、「踊ってみた」や「歌ってみた」投稿の印象が強かったのですが、いまでは一般ユーザーだけでなくユーチューバーから各分野の専門家までが、ファッション、ビューティー、グルメ、動物、趣味、勉強、語学、スポーツから政治に至る、あらゆるテーマのショート動画を日々投稿しています。
ショート動画の最大の魅力は、休憩中や移動中など「スキマ時間に気軽に見られる」こと。興味をひく内容がテレビCMほどの短さで完結するので、暇つぶしには最適です。
「手短に要点を知ることができる」ことも大きな魅力。若い世代ほどショート動画を好むのは、情報過多の社会を生き抜いていくための、彼らなりの賢い選択なのかもしれません。
最近の調査結果(※1)では、15-49歳の約半数が週に1度以上YouTubeショートを楽しんでおり、10代ではその割合は約7割にまで高まります。Instagramリールの特徴は、男子より女子に人気が高い点。TikTokの特徴は、利用者の6割近くがほぼ毎日見ると答えるなど、視聴の頻度が他のアプリより高いところです。
別の調査(※2)では、小学校低学年でのTikTok利用率がLINE利用率にほぼ並ぶという結果が出ており、これからの世代にとってショート動画は、当たり前のネットサービスの一つになっていることがわかります。
※1 2023年11月実施『ショート(縦型短尺)動画 に関する調査結果』ADK マーケティング・ソリューションズ
※2 『モバイル社会白書2023年版』 株式会社NTTドコモモバイル社会研究所
手軽さの一方で、懸念される「ショート動画」の注意点とは
ところがこのショート動画には、「ショートならでは」の注意点もあります。おもに3つのポイントが挙げられます。
1.視聴が長時間化しやすいこと
一本一本はとても短いショート動画ですが、YouTubeでおなじみの「関連動画」と同様、それまで見ていたものと近い内容の動画を次々にオススメ表示(レコメンド)する仕掛けが備わっています。そもそも人間の脳は動くものや変化する刺激に弱く、興味のあるジャンルの新しい動画が表示されるとつい注目してしまいます。実際に、平日に1時間以上ショート動画を視聴している人の割合は、アプリによっては3割にも達しています。ショート動画に限りませんが、長時間のスマホ利用は睡眠負債を増やし、昼間のスポーツや勉強のパフォーマンスを低下させ、長期的には心身の不調の原因にもつながってしまいます。
2.メンタルヘルスへの影響リスク
強力なレコメンド機能によって、特定テーマに関する大量の動画に繰り返し接することの悪影響が特に懸念されています。
たとえば自傷行為(方法など)、摂食障がい(理想的な体形やダイエットなど)に関わる動画に一度「いいね」を付けると、関連する動画の表示される頻度が高まります。日常生活では関わりがない人たちによる、短尺ならではの言い切り型の投稿に影響されて「当たり前」の感覚を見失い、行動が変わってしまう可能性があるのです。米国ではTikTokが10代の摂食障がいを助長しているとの報道もあります。
3.投稿ハードルが低くなること
動画は短いほど撮影や編集の負荷が低いものです。特に「踊ってみた」などはある程度決まったパターンの中での表現になるため、投稿デビューの敷居はグッと下がります。投稿後の再生回数も伸びやすく、「いいね」や「フォロー」も獲得しやすいため、ふだんの生活で満たされない子どもほど、投稿に夢中になってしまう場合があります。仲のいい友だちだけが見てくれているうちはよいですが、アプリに備わるダイレクトメッセージで直接連絡を取り合うこともできるため、投稿した動画が、悪意のある大人など他の利用者の目に広く触れることで、誹謗中傷や性暴力被害などのトラブルにつながることも心配です。
大人はどう対応する?お子さまの相談相手であり続けるために
こうしたショート動画を、保護者としてはどのように受け止めればよいのでしょうか。
まず確かめたいのが、主なショート動画アプリは13歳未満の子どもの利用を認めていないという点です。
ただし、あくまでも利用規約としての制限ですので、スマホへのアプリのインストールを保護者が管理できていなければ、自由に使えてしまいます。アプリによっては、利用登録時の年齢(生年月日)に応じて、使える機能が一部制限されるなどの安全対策もありますが、これもお子さまが年齢を偽った場合には効果を発揮しません。
うまく距離を保ち、安全に楽しむためには、少なくとも中学生相当の判断力が求められるアプリだという認識を、あらかじめ保護者のかたとお子さまとの間で共有しておくことが大切です。
そもそも、小学校低学年や未就学の段階では、スマートフォンへのアプリのインストールは保護者が管理することが大前提です。また、小さなお子さまに動画を見せる場面があるご家庭には、YouTube KidsやNHKキッズといった子ども向けのアプリがオススメです。
すでにショート動画を自由に見せてしまっているという場合には、今さら取り上げたり、制限したりすることは難しいかもしれません。うまく付き合っていくことになります。この時に気をつけたいのは、子どもの見ているショート動画の内容を「頭から否定しない」ことです。
保護者の視点では、時間のムダに見えたり、ナンセンスな内容に思えたりするかもしれませんが、そのショート動画を好んで見ている子どもたちにはどこかしらに「響く」部分があるわけです。自分の好きなものを否定する相手には、困った時に相談するどころか、視聴を隠すようになるだけですから、まずは冷静に受け止められるようになることが大切です。
さらにもう一歩踏み込めそうなら、子どもが使っているのと同じ動画アプリを保護者も自分のスマホにインストールしてみましょう。おたがいに「いまこれが流行っているんだよ」とか「これがおもしろかった」などと、オススメのショート動画を共有したり、その内容について異なる視点で話し合ったりすることができれば理想的です。
本当のところ、保護者にとって何よりも大切なのは、スマホ利用の内容の良し悪しよりも、「スマホ以外の時間の過ごし方」に目を向けることです。お子さまが経験したことがないような楽しい遊びやスポーツが、世の中にはまだまだあるはずです。人生の基礎を作るのに大切な子ども時代を、スマホまかせにすることなく、一緒にいろいろな体験の機会を積極的に作っていきましょう。
高橋 大洋さん
フィルタリング開発会社での勤務をきっかけに、「ネットとのつきあいかたをオトナにも分かりやすく」に取り組む。子どもとネットについての調査・研究や教材開発、指導者養成の他、保護者・教員向け研修講師としても活動。著書(共著)『学生のためのSNS活用の技術』(講談社)。子どもたちのインターネット利用について考える研究会 事務局、一般社団法人セーファーインターネット協会(SIA) 事務局、ポールトゥウィン株式会社 契約パートナー、小樽商科大学・帯広畜産大学・北見工業大学 非常勤講師。札幌市在住、子どもは17歳と14歳。