コラム
ネット 子どものゲーム利用について、家族で話し合える土台作りを
専門家コラム:ネット編VOL.51 担当:松田 直子
子どもに頼まれてゲームを代わりにプレイしてみたら
子どものゲーム利用について、先日ある保護者のかたからこんなエピソードを聞きました。高校生の娘さんが好んでプレイしていた、あるオンラインゲーム。そのゲームはプレイ時間が長いほどスコアが良くなるしくみで、娘さんから「学校へ行っている間、ゲームを進めておいてほしい」とお願いされました。昔「たまごっち」が流行っていた時に、似たような現象が起こったことを記憶されている方もいらっしゃるのではないでしょうか。さて、最初は頼まれたからと義務感でプレイしていたものの、やっているうちに保護者のかたご自身もそのゲームが楽しくなってきたというのです。さらには腕前も徐々に上がり、ゲーム内のチームメンバーと親しくなるまでに。そのメンバーはもともと娘さんのリアルでの友人だったため、家に遊びに来ることもありました。すると保護者のかた自身もゲーム仲間として技の話題で盛り上がり、いっしょに楽しい時間を過ごしている、とのことです。
このエピソードからは、ゲームが家族間の良好なコミュニケーションを生むきっかけとなっていることがわかります。ネット依存についての研究に早くから取り組んでいる久里浜医療センターの医師によると、ゲーム障害を診断する際の目安の一つに、「本人もしくは家族が幸せか不幸か」という観点があるそうです。勉強などの日常生活や、友人・家族関係といった人間関係に支障がない場合、娯楽としてゲームをする分には問題ないのだそうです。ただ本人がいくら「問題がない」と言っても、保護者が子どものゲーム利用にイライラしたり、ゲームをめぐって言い争いになるような衝突がある場合は、課題があると言えるようです。つまり「好きなゲームに熱中する」ということそれ自体は、このケースのように必ずしも悪い結果につながるばかりではありません。
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まずは子どもの関心事を理解することが大切
子どもはゲームが好きだけれど、保護者のかたはゲームにまったく関心がないというご家庭もあるでしょう。その場合でも子どもがどんなことに夢中になっているかなどは知っておきたいもの。無理にゲームを一緒にプレイしなくても、せめてYouTubeでゲームタイトルを検索し、その雰囲気だけでも見てみましょう。もしそうした機会を持とうともせず、やみくもに「ゲームはよくないもの」と決めつけて利用を制限すると、かえって衝突や反発を招いてしまいかねません。多少でもゲームの内容を理解していれば、ゲームの利用についての話し合いがしやすくなります。ゲーム時間の長さや時間帯、課金、個人情報の保護など、気になる観点はさまざまあるかと思います。なぜ気になるのか、どういった点が問題なのかなどを話し合い、子どもが楽しんでいる点や譲れない点などについても聞きながら、実行可能なルールを話し合って決めていきましょう。
またルールを決めたらそこからが本番で、ルールを守るための工夫も大切です。たとえば利用時間についてのルールであれば、約束の時間が近づいたら「あと5分だよ~」「もうすぐ終わりだよ~」と、予告の声かけをしてみましょう。また、やめやすいタイミングがあるゲームであれば「もう次のターンにはいかないよ」と声をかけたり、きちんとルールを守れたら大げさなくらいほめたりするのもよいでしょう。こうした場合でも、保護者のかたがゲーム内容を知っていることはプラスに働きます。そして、おやつタイムやお散歩など、気分転換しやすい次の行動を促し、ほかのことに興味を向けてみるような工夫も大切です。
ネガティブな決めつけをせず、信頼関係を土台に話し合いを
冒頭で紹介したエピソードでは、具体的なゲームの利用時間など困りごとがあったかどうかまではわかりませんが、少なくとも登場人物の中に「不幸な人」は出てきません。保護者と子どもとの間のコミュニケーションも良好で、楽しんでいる様子が見受けられます。もしこれから先、この娘さんがネット上の人間関係などで悩むようなことがあったとしても、このような良好な親子関係のベースがあれば、おそらく相談しやすいのではないかと想像します。子どものネットやゲームの安全利用のために家庭のルールや機器の安全設定は欠かせませんが、その土台はやはり良好な家族関係です。ネットやゲームのネガティブな側面だけをとらえるのではなく、子どもの興味関心や感じていることなどを理解するように努め、コミュニケーションを意識的にとるようにすれば、それぞれの家庭において大切にしたいことや必要なルールなども見えてくるのではないでしょうか。ネットやゲームの適切な利用には、家族間の信頼関係が大切だと言えるでしょう。
静岡県ネット安全・安心協議会委員
松田直子さん
2003年4月、子育て中の母親たちが中心となり、NPO法人イーランチを設立。「だれもがICTで豊かに暮らせる社会づくりの応援」を活動目的に、主に教育機関などで情報モラル啓発活動に取り組んでいる。また近年のインターネットやスマホ利用の低年齢化を見据え、全国の幼稚園や保育園で乳幼児の保護者向け講座「スマホのある子育てを考えよう」を実施している。一般社団法人セーファーインターネット協会認定インストラクター、静岡県社会教育委員、静岡県人権会議委員、子ども家庭庁(元 内閣府)作成 令和5年度版リーフレット「スマホ時代の子育て」監修。