公益財団法人ベネッセこども基金

コラム

防犯 どうする?!"助け合い"と"警戒心"のバランス

子どもの安心・安全を守る活動

専門家コラム:防犯編VOL.87
担当:市民防犯インストラクター 武田信彦


子どもへ声をかけてはいけないの?!

 令和7年を迎えました。安全で穏やかな一年になることを祈るばかりです。
さて、新年早々、各地で防犯に関する研修や講演等を行っています。各会場では、参加者の皆さまから質問や感想、ご意見等をいただきます。その中で最近増えている声が、コミュニケーションの難しさに関するもの。

「子どもたちへあいさつをしたら、"知らない人とは話さない!"と言われた...」
「見守り活動をする中で、子どもたちへ声をかけにくい...」
「児童たちへあいさつをしてもよいのでしょうか?」

 世代を超えてあいさつを交わしている、健全なコミュニケーションが育まれている地域もまだまだ多い一方で、コミュニケーションがとりにくくなっているケースも増えているようです。
 そんな中、令和6年12月4日の中日新聞に私の記事が掲載されました。記事のタイトルは「防犯と助け合い、両立必要」。地域の中で、具合が悪そうな子どもへ声をかけたところ、拒絶されてしまった...という読者の声に答える形で、地域防犯の現状や見守りのポイントを解説しました。こちらの記事は、東京新聞へも掲載されており、「東京すくすく」のサイト内でも配信されています(※2)。

 地域でコミュニケーションを交わさない...。人々のつながりが希薄になりつつある現代では、仕方のないこと...のようにも感じますが、じつは子どもたちの防犯対策上、まさに"危機"ともいえる状況なのです。

見守り・助け合いが欠かせない!

 こちらのコラムでもくり返し述べていますが、いま、子どもの防犯対策は待ったなし!の状況です。なぜなら、通学路や地域の中で「子どもだけの瞬間」がたくさん生まれており、子どもが被害に遭う犯罪の多くも「子どもだけの瞬間」に発生しやすいからです。地域の人々の善意による見守り・防犯ボランティア等の活動は、「子どもだけの瞬間」を減らすためにも大きな防犯力となり得ています。人が姿を見せることが犯罪防止の力となり、悪意・犯意ある者が近づきにくい雰囲気を生み出すのです。

 なお、政府も見守り・助け合いによる地域防犯を推進しており、通学路での見守りをはじめ、ライフスタイルに合わせた「ながら見守り」や「青パト(車両によるパトロール)」など、さまざまな防犯ボランティア活動を後押ししています。

 プライバシーの観点から、地域住民同士の濃密な関係性は生まれにくくなっているものの、子どもたちを守る防犯対策の観点からは、あいさつを交わす程度のゆるやかな関係性は、地域の安全のためにも欠かせないものなのです。もし、地域内でのコミュニケーションを拒絶するような風潮が広がれば、間違いなく見守り・助け合いの環境は弱体化します。それは、「子どもだけの瞬間」が増え続ける社会の中で、犯罪から子どもたちを守れない環境が広がることにもつながるのです。



人との接し方と防犯指導のバランス

 私は、防犯上のコミュニケーション不全の原因は、地域防犯と防犯指導のズレにあると考えています。ここでいう防犯指導とは、児童・生徒へ防犯対策を伝える機会のことです。

 地域防犯 = 見守り・助け合いなど人との関係性を育む中で安全を守る
 防犯指導 = 知らない人に気をつけろ...等、人との関係性を絶つようなメッセージ

 とくに、防犯指導では、防犯=犯罪への対策に特化して伝えるという大人側の心理が強く働くことにより、「知らない人」「不審者」「犯罪者」といったワードが主語として多用される傾向があります。これは、子どもたちが「知らない人は、怖い人」とインプットされることにつながります。

 私が実践する防犯指導は、「人との接し方」の延長と捉え、コミュニケーションをベースとした生きる力を引き出す時間であると考えています。また、悪意・犯意ある者の存在を伝えるとともに、見守り・助けてくれる人々の存在を伝えることも忘れてはいけないことです。

 最近、教職員研修で増えている質問は、「あいさつと防犯の両立」です。「子どもが、人とあいさつをすることで、悪意・犯意ある者と接触してしまう恐れがあるから、あいさつそのものを止めた方がよいのか...」と悩まれる先生が多いように感じます。
 大切なことは、あいさつと身を守ることの違いを知ることです。あいさつは、どのような相手とも交わして問題ないことです。信頼が生まれ、見守り・助け合いの力も育まれます。万が一の際に「助けて!」を伝えるための練習にもなります。一方、身を守るためには、悪意・犯意ある者に心身をコントロールされてはいけないのです。誘い、お願いごと、違和感をおぼえる声かけには、相手がどのような人であれ、「できません!」と断ること。危険を感じたら逃げることも必要です。

 すなわち、人との接し方を知る、練習をする中で、様々なやりとりを再現し、適切に練習することがもとめられるのです。あいさつをする or しないの二択で防犯対策を決めることはできません。子どもたちがピンチの際に「たすけて!」が言えなくなる危険性もはらみます。

 いま、地域のコミュニケーションを大切に、人と人との接し方をベースとしたていねいな防犯指導が必要だと感じています。


Go! Go!! 市民防犯推進プロジェクト

市民防犯インストラクター

武田 信彦 さん

犯罪防止NPOでの実践活動を経て、2006年よりフリーの講師として活動。「市民防犯」のパイオニアとして全国で講演やセミナーなど多数実施するほか、中央省庁の助言も務める。子どもたちを対象とした体験型の防犯セミナーも好評を得ている。著書には「活かそうコミュ力!中高生からの防犯」(ぺりかん社)ほかがある。



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