コラム
防犯 女性を狙う犯罪が多発...防犯対策は?
専門家コラム:防犯編VOL.91
担当:市民防犯インストラクター 武田信彦
重大事件が相次ぎ発生
最近、とくに女性を狙った重大事件が相次いで発生しています。刃物が用いられた事件では、大変残念なことに命を落とされた方たちもいらっしゃいます。もはや市民防犯(一般市民ができる防犯)の限界を超えているともいえる重大事件を防ぐためには、法律、取り締まり、再犯防止、地域等の連携など社会全体で取り組む必要があります。
一方、犯罪と直面してしまうのは私たち一人ひとりです。女性のみならずすべての方たちが活用できる防犯対策について、メディア各社の取材等へ対応した中からポイントをQ&A形式で紹介します。
ふだんから意識しておきたい防犯対策
Q. 持ち歩ける防犯道具はありますか?
A. 防犯ブザーや身の回りの物を使いましょう
原則として、人に危害を加える可能性のある物は持ち歩けません。刃物や警棒などを持ち歩くことは法律に抵触します。また、催涙スプレーやスタンガンについても、その使用にあたっては加害リスクが生じることを覚えておきましょう。なお、ストーカー等の被害リスクが高まっている状況などで持ち歩きたい場合は、必ず所轄の警察署へ相談してください。
誰でも持ち歩ける防犯道具は、防犯ブザーです。高音が出ることで、①(声が出ない状況でも)SOSを知らせる、②逃げる隙をつくる...といった効果が期待できます。一人になった時などで不安を覚えたら、必ず手に持つことをおすすめします。人気の無い駐輪場などに入る際は、一瞬だけ音を鳴らすことで周囲へ警戒心を発信することもできます。本気で逃げる場合は、自分が逃げる方向と逆の方向へ投げ捨てることで、分身の術のように相手を一瞬戸惑わせることができます。
また、刃物等から致命傷を負わないためには、身の回りにあるかばんやノートパソコン、雑誌などを盾として「防護」を行いましょう。それらが無い場合は、着用している物、傘、周囲にある物などすべて用いて「抵抗」を行いましょう。
Q. リスクが高まる場所はどこですか?
A. 一人になる"瞬間"です
危険な場所のイメージとしては、暗い道、汚い道などが連想されるかもしれませんが、防犯対策としては「場所」ではなく「瞬間」に着目することが重要です。令和2年度に警察庁が犯罪被害の実態調査を経て公表した「女性のための安全サポートブック」では、被害発生の9割が「一人になる瞬間」と指摘しています。最近発生している重大犯罪も「一人になる瞬間」を狙って実行されています。時間帯、明るさ、雰囲気を問わず「一人になる瞬間」には注意をしてください。また、なるべく一人にならない振る舞い方も効果的な防犯対策といえることです。
Q. 尾行されるリスクを減らすには?
A. 360度へ観察力を発揮しましょう
人を尾行する行為は、悪意・犯意をもつ者が「人は後方を見ない=隙が生まれやすい」と考えている表れです。「一人になる瞬間」を狙って犯罪行為を実行する危険性があるため、なるべく早く気づいて対処する必要があります。そのためには、周囲、とくに後方へ意識をむける"観察力"が欠かせません。駅を出たとき、信号待ちをしているとき、コンビニ等から出たとき、集合住宅の敷地に入るとき、オートロックを解除するとき、エレベーター・外階段を利用するとき、そして、自宅の玄関ドアを解錠するときには、必ず周囲とくに後方へ意識を向けてください。道を歩いているときは、片側に寄って振り返ると死角がなくなり、確認しやすくなります。振り返るという行為は、「危険を察知する効果」とともに、「抵抗力を示す効果」が期待できます。「この人はコントロールできなさそうだ」と思わせることが何よりも重要なのです。
Q. 不審者の特徴とは?
A. 言動で判断しましょう
じつは「不審者」という言葉そのものが防犯対策を難しくさせています。「不審者」は「怪しい人」を想起させますが、本来、外見や第一印象ではなく、あくまでも言動を見て"防犯的違和感"を察知することが重要なのです。
悪意・犯意ある者は、犯罪行為を成功させるために悪知恵を用いて欺いてくることもあります。お願いしてくる、誘ってくる、助けてほしい...あの手この手で「二人きり」の場面に誘導しようとする...などの行為には強い違和感を覚えてください。優しそう、困っていそう、まじめそう...などの印象に左右されることなく、言動をみて防犯的違和感を働かせてください。

こんなときはどうする?場面別の防犯対策
Q. エレベーターを安全に利用するコツとは?
A. 乗り込む前が重要です
エレベーターは、①動き出すと逃げられない、②声を出しても外部へ聞こえない、③身を守るための最低限の距離感を保てない...などの理由から、「最も身を守りにくい環境」といえる場面です。エレベーターに乗る前の段階で生じる"防犯的違和感"を大切にしてください。少しでも違和感を覚えたら、先に通す、電話やメールが着信したフリをして離れる...など、自然にかわすことがコツです。
Q. 宅配を装ってくる犯罪にも警戒すべきですか?
A. その警戒心は正しいです
たとえ、オートロックの自動ドアや防犯カメラが設置されている集合住宅であっても、悪意・犯意ある者の侵入を100%防ぐことは不可能だからです。
最近では、商品・食品の配達も日常化しているため、配達業者を装って侵入を試みる者がいることも十分想定されます。可能であれば、ドアを開けないで受け渡しできる方法=置き配や宅配ボックスの活用などがおすすめです。
Q. 尾行されていると感じたとき、どんな対処方法がありますか?
A. さりげない確認と110番通報を
自分の後方を歩いている人へ意識を向けることは、身を守るために大切な"予防力"といえる力です。悪意・犯意をもつ者かもしれない、歩く方向が同じだけの人かもしれない...。見極めはとても難しいことです。そんな時は、少し遠回りになっても、あえて道路を横断して逆方向(来た道を戻る)へ移動してみるなどしてみましょう。それでも後をつけて来る、明らかにこちらを狙っている...といった防犯的違和感を覚えたら、①コンビニや駅など人がいる所へすぐに移動し、②110番通報で保護を要請してください。なお、執拗に後をついてくる...といった不安を与える行為を警察では「前兆事案」と呼び、法的に犯罪に至らないケースでも、重大化を防ぐべく対処するようになっています。迷わず110番を!
Q. 周囲へ助けを求めるときのコツは?
A. 人を特定して伝えると効果的です
明らかに危険を覚える事態が発生したのであれば「助けて!」と叫ぶことがもっとも伝わりやすいです。万が一、声が出ない場合は、高音の防犯ブザーを鳴らすことで広範囲へSOSを知らせることができます。また、人物を特定して声をかけることで意識を向けてもらえやすくなるので、店舗等へ駆け込んで助けを求めたり、「そこの配達の人、助けて!」などピンポイントでSOSを伝えたりするのも効果的です。
Q. オートロックの自動ドアがあっても安心ではないのですか?
A. あくまでも個人の防犯力を補完する位置づけです
オートロックの自動ドアは、関係者以外の侵入を防ぐとともに、挟み込みなどの事故防止の視点からも設計されています。ドアが閉まるまでには、人の出入りに加えてやや長めの時間が設定されていることがほとんど。また、人感センサーも内蔵されているので、閉まりかけていても手や足を入れれば再度開いてしまいます...。
オートロックや防犯カメラ等の防犯設備は、あくまでも個人の防犯力を補完する存在=サポート役であるということ。設備だけで侵入を100%防ぐことは不可能です。ゆえに、各部屋の玄関ドアや窓の施錠、敷地や建物へ入る際の防犯意識は欠かせないことです。
Q. 帰宅時にコンビニ等を利用する際、気をつけることはありますか?
A. 店舗を出たら、後方を確認しましょう
コンビニ等の店舗は、万が一の際に逃げ込める場所、安全に通報できる場所としても頼れる存在です。一方、夜間は日中に比べても店内の様子が外からはっきり見えてしまうため、悪意・犯意ある者に目をつけられてしまうリスクもあります。さらに、駐車場が併設されている店舗の場合、人が乗っている車が停まっていても違和感がないため、悪意・犯意ある者が待ち伏せをすることも考えられます。①停車中の車のそばを通らない、②店を出たら周囲を確認する...などの防犯対策を行ってください。
武田 信彦 さん
犯罪防止NPOでの実践活動を経て、2006年よりフリーの講師として活動。「市民防犯」のパイオニアとして全国で講演やセミナーなど多数実施するほか、中央省庁の助言も務める。こどもたちを対象とした体験型の防犯セミナーも好評を得ている。著書には「活かそうコミュ力!中高生からの防犯」(ぺりかん社)ほかがある。