公益財団法人ベネッセこども基金

助成団体紹介

最終活動報告|児童養護施設でくらす子どもたちの「生きる力」育成事業

特定非営利活動法人 HUG for ALL(東京都)

経済的困難を抱える子どもの学び支援

2019~2021年度の助成期間を終えられた特定非営利活動法人HUG for ALLより、3年間の取り組みと成果についてご報告いただきました。

事業目的:児童養護施設でくらす子どもたちが未来に希望をもち、これからの社会で生きていくために必要な力を身につけることができるようにすること

助成事業の概要|児童養護施設で暮らす子どもたちに、「安心できる居場所」を提供し「生きる力」を育む



本助成の活動開始時は団体を立ち上げて間もない頃でしたが、3年間で着実に成果を残されました。
学習だけではなく、学習に向かう力の向上への着目した点や、児童養護施設で過ごす時間以外のコミュニティの仲間となる視点など、目指すことが徐々に変化していったことにも大変意義があると感じました。
団体のウェブサイトの改訂をプロボノと共に実施されたことは、他の団体にもぜひ知ってほしい外部支援の利用例でした。サイト改定の効果も数値としてあらわれるなど、3年間の活動でたくさんの成果を残されました。今後のご活躍も期待します。



1年目の活動内容と結果 2年目の活動内容と結果 3年目の活動内容と目指す状態 3年目の結果 課題および今後の展望

1年目の活動内容と結果

① コアサービスの見直し・確立
小1~中2の児童に対して、「学力」と「体験・進路」の二軸でサービスの見直しを行った。特に学力については、小・中学生共に検討を重ねて支援を実施。小学生はアセスメントやプリント学習を通した「算数クエスト」と、読解・表現力・語彙力向上のための「作文&かるた」を使ったまなびの支援にトライした。中学生は「テスト前勉強会」として、定期テストの点数UPにつなげるためのまなびの機会を提供した。

② ボランティアサポート本格化
コミュニケーション目標・計画を立てて、ボランティアをサポートするためのしくみづくりを開始。ボランティア同士のコミュニケーション活性化のための施策を開始した。

③ 最低限の団体基盤構築
新たに「スタッフ組織」を作り、それぞれのチームが担当事業を推進する形で事業を行った。また、寄付額50万円を目指して寄付基盤の整備を行った。


<結果>
◆学力向上に向けたプリントや教材を用意してもそもそも「まなびに向き合う意欲」がない場合、高学年でも低学年の内容にしか取り組まないなどの課題が見えた。本質的な課題が「学ぶ意欲」にあることに気づき、学習内容の見直しが必要だと感じ始めたタイミングでコロナ禍となり、施設訪問ができなくなった。

◆新加入のボランティアメンバーのサポートも含め、年間複数回の施策を通してボランティアサポートを行うことができた。

◆2019年度のスタッフ組織トライアルが、2020年度の新たなスタッフ組織化につながった。また、年間寄付額は58万円と目標値を達成した。

2年目の活動内容と結果

① コアサービス確立と拡大準備
コロナ禍をきっかけに、子どもの支援内容を見直し、まずはオンラインでの対話型支援を継続。一方で「サービス検討プロジェクト」を立ち上げ、HUGメンバーといっしょに「HUG for ALLが子どもたちに提供すべき価値」を再定義した。その定義を踏まえて、12月から「生きる力」を育むための対話型まなび支援プログラムをスタートした。また、支援先2施設目とは、2021年度の支援開始を見据えた準備を開始した。

② コミュニティ企画・設計・運用
「コミュニティチーム」が発足し、ボランティアをコミュニティとしてとらえたサポートを開始。「コミュニティキャピタル診断」で組織アセスメントを行い、その結果も踏まえた施策検討を進めた。

③ 事業継続のための団体基盤構築
2020年度に新スタッフチームを組織化。現場運営・コミュニティ・事務局とHFAの事業運営を大きく3チームに分けて業務を推進した。また、サービスグラントのプロボノプロジェクトによりホームページの改訂を行った。

<結果>
◆コロナ禍によって新たな支援方式をとらざるを得なかったことと、サービス検討PJでHUG for ALLの目指す「生きる力」を明確に定義し、プログラムの概要を固めることができたことで、プログラムを子どもたちの「生きる力」に本質的につながる内容へと改訂することができた。
また、中3生に対しては、進路支援とあわせて面接練習等を実施し、4名全員が志望校に合格することができた。

◆「コミュニティ」としてのボランティアサポート開始により「強くあたたかい組織」を目指すという方針が定まり、組織をよりよくするための施策を考えるための土台を作ることができた。

◆新しいスタッフ組織により、現場・コミュニティ・事務局業務が円滑に進められるようになった。また、ホームページの改訂により、ボランティア希望者の自然流入が増えるなど、団体としての発信力を強化することができた。

大人にとっても「安心できる居場所」になるコミュニティづくり
リニューアル後のHUG for ALLホームページ

3年目の活動内容と目指す状態

① 支援先拡大準備
1施設目の支援対象を高校生まで拡大して現場運営を行いつつ、2020年度にパッケージ化したサービスと、その成果を元に、支援2拠点目候補施設に対して、プログラムをそのまま適用できるか、カスタマイズが必要かを判断してトライアル導入。HUG for ALLのサービスの詳細設計とマニュアル化も推進していく。さらに、職員支援の実施に向けて、サービスの検討とトライアルを行う。また、その支援のために必要なヒト・モノ・カネを集めるためのプロジェクトを組織化しつつ、そのプロセスをマニュアル化できるようにノウハウを収集。2022年度以降の支援先拡大に向けた準備を行う。

② HUG for ALLコミュニティの構築
HUG for ALLで支援した子どもたちを将来にわたって支援することを想定し、HUG for ALLに一度でもかかわったボランティアに長く関わってもらうためのコミュニティを構築。
HUG for ALLコミュニティに関わる入り口と出口を明確にすると同時に、それぞれ必要な打ち手を打っていく。ボランティアのライフステージに応じた関わりのグラデーションも想定し、定期的な訪問や時間の確保が難しくても、担当した子どもの成長を長く見守ることができるしくみをつくることで継続しやすい形を構築する。

③ 事業拡大のための団体基盤構築
業務内容に応じた報酬を支払っていくことを前提として、週3日以上のメインスタッフは代表含め2-3人、週1-2日副業としてHUG for ALLに関わる「社会副業」という新しい働き方を選択できる状態を構築する。約10名程度。事務局担当スタッフによって団体運営が回るように完全に引き継ぎが完了して整備されるとともに、新Webサイトの運営による広報施策も本格的に展開し、寄付と自主事業による収益拡大を目指す。

3年目の結果

コロナ禍や事業自体の方向性の見直しなどもあり、「当初目標通り」ではないものの、団体の次の一歩に向けて着実に3年間を積み重ねることができた。

① 支援先拡大準備
支援する施設の数を増やすことよりも、現在支援している2つの施設で、幼児~退所後25歳くらいまで継続した支援プログラムを構築すること、HUG for ALLにかかわる"信頼できる大人たち"のコミュニティを作り、そこに退所後の子どもたちを迎え入れるモデルを作り上げることに注力するという方針を決めることができた。小学生向けの「まなびクエスト・あそびクエスト」と、中高生~退所者向けの「はたちクエスト」をHUG for ALLの支援プログラムとして、プログラム開発・改訂を進めることができている。

オンライン版まなびクエストの様子

② HUG for ALLコミュニティの構築 これまで築いてきたHUGメンバー・スタッフの「強くあたたかい組織」を土台に、より緩やかに子どもたちを見守る進退できる大人たちと、退所後の子どもたちまでを含めた「HUGコミュニティ」をつくること、そのコミュニティ自体もHFAの事業として大切に育んでいくことを決め、コミュニティ設計・運営にも注力をする方針を定めることができている。

③ 団体基盤の構築
当初予定とは異なるものの、2019年の第1フェーズ、2020年~21年の第2フェーズを経て、2022年度には団体の体制を再構築し、新たなフェーズに向けた組織づくりを行うことができている。資金調達は2022年度以降の課題ではあるが、新体制のもと資金調達にも注力しながら、自主運営ができる組織を目指す。

課題および今後の展望

◆各クエストプログラムは、より子ども一人ひとりの「生きる力」を育むことができるように、実際の子どもたちの反応や施設職員さんのニーズも踏まえて改訂を重ねていく。

◆HUG for ALLの支援児童が初めて児童養護施設を退所する2024年の春に向けて、HUGコミュニティの構築や、子どもたちの迎え入れ方を決めて、施設退所後も継続的に子どもたちに寄り添い続けるしくみを構築する。実際の子どものニーズに合わせて、HUGコミュニティでの施策なども検討するとともに、HUGコミュニティ自体も参加するすべての人にとって価値があるものになるよう設計・運用を行っていく。

◆上記を実現するため、一人ひとりがそれぞれの希望するかかわり方で、主体的に業務に取り組むことができるような、新しい組織体制・組織制度を構築する。また、その体制づくりのためのリソース獲得にも注力し、HUG for ALLの活動を応援し、支えたいと思ってくれる人・法人を増やしていくための活動を行っていく。



特定非営利活動法人HUG for ALL

代表

村上綾野 さん

Teach for Japan松田氏の講演会で、日本の子どもの7人に1人が貧困状態であると知り、子どもの貧困に関わるさまざまなボランティアに関わり始める。児童養護施設出身者のための奨学金プログラム「カナエール」に2013年より参画した縁で現支援先施設から相談を受け、子どもたちの学習支援を行うプロジェクトを立上げたことをきっかけに、NPO法人HUG for ALLを設立。2021年4月から、企業勤務を週4日、HUG for ALLを週3日(平日1日+土日)という新しい働き方に挑戦中。

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