公益財団法人ベネッセこども基金

助成団体紹介

2022活動報告|小児がん患者に対する学習支援および心の発育のサポート

特定非営利活動法人 勇者の会

病気・障がいを抱える子どもの学び支援

助成期間を終え、活動の成果をご報告いただきました。事業の詳細などは以下からご覧ください。

事業の目的 事業の内容 事業の結果 事業の成果 自己評価 課題および今後の展望

事業の目的

勇者の会は、小児がんなどの患者とその家族を支える会です。病気で維持療養中のため人ごみに行けない子どもたちに対しての支援だけでなく、就労支援までを長期にわたって行っています。
退院と同時に突きつけられる社会との現実。病気により髪の毛が抜けてしまうことや感染症の危険のため、ケア帽子やマスクをしての通学や生活が長期間続きます。もちろん、退院前には病院と学校間で復学支援会議(帽子やマスクが原因でいじめがないよう、今後の学習スケジュール等)を行ってから退院しますが、現実は過酷です。いじめ・心の病・長期の勉強の遅れと不安から不登校となる子が多数いるのが現状です。
また年間を通して多種多様の感染症にさらされる脅威と命のリスクに向き合う中、日々不安と共存し暮らしています。感染が確認されたらすぐに家での拘束状態を余儀なくされます。

そんな子ども達のために勉強支援している団体は当時、北海道にはまだ一つもありませんでした。だからこそ必要不可欠だと感じ、活動を始めました。子ども達の体調に応じて院内にあった分校のような教室でストレスにも最大限に配慮しながら勉強サポートをし、同時に孤立しがちな家族との悩みの共有の場となるよう強く願い活動している次第です。
病気で遅れた勉強を取り戻し、その子が社会に出ていけるまでを長期間に渡りフォローアップしていく思いです。

事業の内容

小児がんの子ども達は病気になる時期によって、その家族が置かれる状況が一人一人違いますので、その子にあった状況に合わせてサポートをしています。

【幼児教育】オンライン授業・週1回~週2回 30分~40分

現役の保育士スタッフが保育の指導計画書に基づき、3・4・5歳児がその年齢で身に付けられる"出来ること"をその子に合ったペースで学べる環境を心がけ、幼稚園に通えない事を諦めるのではなく、少しでも幼稚園に通った気持ちになれるようにしています。

■時間になったら、お道具箱を用意し席にすわる
■季節の行事を大切にし、その時期の手遊びや粘土遊び・お絵描き・図工に取り入れる
■絵本の読み聞かせは、会独自で絵本をパソコンに取り込み絵本を動す工夫をし、表情や声の反応をみながらお子さんを呼びかけ楽しませることが出来ています。

指導計画に則ったお勉強以外にオンラインの中で子どものペースに合わせ、ままごと遊びやその子の好きな遊びを楽しみ子どもと打ち解けることで、子どもとスタッフの信頼の構築をはかり、お母さんと離れてオンライン授業を出来る環境づくりをしています。
オンライン授業のあとにも子どもの体調に配慮しながら課題制作を与え、授業の後にも楽しんでもらえるよう取り組んでいます。

オンライン幼児教育で粘土遊び(丸い食べ物つくり・数のお勉強)
パネルシアターにて読み聞かせ

対面で会えた時には、対面でしか味わけない入園式やミニ運動会、親の懇談会を行いました。
保護者のかたは、病気の我が子に対する不安はもちろんのこと、幼児期に病気になった事による目に見えてわかる発達の遅れ、また幼稚園に入ることが出来ないため地域での保護者間の交流が希薄なことなど様々なことに不安を抱えています。そのため保護者の心のサポートも大変重要であると感じており、月1回保護者のオンライン交流を会を行い、保護者自身が孤立してしまわないような環境つくりもしています。

幼児入園式&ミニ運動会・夜には親の茶話会(病気の悩みを参加7家族でお話・お父さんの交流会も実施)


【中学生・高校生】週2回~3回 テスト期間・週4回~5回 冬期講習・夏期講習各2日間

■学校の教科書と学校でのみ購入出来るワークブックを学校側にお願いし購入させてもらい、それを元に勉強サポートを行っています。
学習の遅れがある生徒には、在籍学年に関わらず過去の学年や小学生の基礎までもさかのぼり、定期テスト時は二週間前からテスト勉強をメインとし予想問題を考えサポートをしています。そして定期テスト終了後にはスタッフで会議を行い、各学校のテスト問題と点数を鑑み今後のサポートスケジュールを見直しし次の勉強に繋げています。

■今年度受験生を2名受け持ったことで、行きたい高校へ向けて勉強を進めながら、北海道学力コンクールの過去問題を本番さながらに受け、全道基準の実力が身に付いているのかどうかの判断材料とし、そこで勉強基準を見直しながら勉強サポートに取り組みました。
高校偏差値に関する書籍を購入し、生徒の実力が希望する高校に合致するのか等を参考にしてサポートしました。
その子の希望の高校やその先の進路と病気の兼ね合いのことも考えて、将来のことについて親身にお話させて頂きました。

■中学生生徒が入退院を繰り返す中で、欠席日数や勉強の遅れ、提出物の確保を学校と生徒の間に入って交渉し、配慮して頂けるような提案をいたしました。

中学生への勉強サポート(タブレットの黒板機能を活用)
中学生の卒業式(OMO7旭川星野リゾートにて)


【高校生】文系・理系と目指す大学の違いに応じてそれぞれの先生に担当してもらう工夫をしております。そして統括してのサポートを現役の高校教師スタッフにお願いし、進路相談やアドバイスをお願いしております。



レンタルルームにて受験生の対面勉強サポート(北海道学力コンクール・四者面談にて進路指導計画)


中高生の生徒へ関しては、スタッフは現役の高校教師、塾にて高校生を担当している大学生スタッフ、不登校コーディネーター、元小中学校の教員退職者スタッフが担当し、また中高生の時に自身ががんを経験した大学生スタッフが連携し勉強や心のサポートに心がけています。


事業の結果

生徒1人に対し先生は教科ごと担当3人チーム制(大学生2名・社会人1名)とし、大学生スタッフには大学のテスト前1ヶ月間はボランティアをお休みしてもらい、社会人スタッフが交代してサポートするなど、勉強が遅れてしまわない様に配慮しております。
勉強サポートの方法としましては、週2~3回で1回の勉強は90分~120分とし、生徒によっては休憩を挟みつつ行っております。また、定期テスト二週間前にテスト範囲が学校から出された後は、週4~5回と回数を増やしたり、勉強サポート以外の時にでも質問を受けたりと毎日対応しております。

■3ヶ月に1回
・生徒・保護者・先生・代表理事の四者面談(60分)
・生徒と勉強の二者面談(30分)
・三者面談(30分)
〇保護者と代表理事の二者面談(60分)
〇生徒と代表理事の二者面談(60分)

〇は、先生と生徒の相性や勉強の理解度、保護者から見た勉強サポートや体調の様子を代表が面談管理し、勉強時間や回数、担当の先生の変更等配慮させて頂いています。

■1ヶ月に1回
・先生との全体会議120分
・生徒担当の先生スタッフによる報告会議60分行っております。
学習サポート場所は自宅からZoom、また、学校の都合で自宅に帰る時間がない大学生に限りレンタルルームを借りる事もあります。対面授業では、レンタルルームを借りて3時間(90分~120分勉強・60分先生とのカードゲームや交流会)を組み合わせて行っております。

事業の成果

LINE電話からZoomに変更したことでフリーズや音のタイムラグ、携帯電話が熱をもってしまうことが改善され今まで以上にスムーズに勉強支援の時間を延ばすことが出来、勉強以外にもコミュニケーションがとりやすくなりました。
各中学生のワークブックを買わせて頂いたことで、生徒のクラスの勉強の進み方がわかりスムーズに勉強支援がしやすくなりました。
コロナ中にも関わらず、一度も勉強サポートを止めることなく、感染者を一人も出すことなくサポートを続けることが出来ました。

自己評価

Zoomでの勉強サポートに切り替わった事で、お互いの顔を観ながらのサポートが可能になりました。その結果、内容を把握出来たかを表情より見ることが出来るようになり、子どもたちが理解できていないのに、「わかりました」と返事をする事があっても、表情から本当に理解しているのかを読み取り、スタッフからの声掛けを変えたり、教え方を工夫しながら子どもに寄り添った指導をし、それを積み重ねることにより少しずつ理解度が上がり、勉強がスムーズになることで遅れた勉強を取り戻すことが早くなっていきました。

課題および今後の展望

今回、札幌市の保健所が小児慢性のご家族へのアンケートを取った結果、最も困っていることが学習支援であるとの事でした。その中でも中学生の勉強が最も多かったと言う結果に札幌市が学習支援に力を入れることが決定いたしました。そのような中、北海道ではデータも何もななく一からのスタートであると思っていた中、勇者の会が5年も前から勉強支援をしていた評価を認めて頂き、札幌市難病対策地域協議会『小児慢性特定疾病部会』とのプロジェクトへの参加をすることになりました。

2017年から勉強支援をしてきた中で、幼児教育から高校生まで支援をすることが出来ました。就労支援までを目指し活動する中でベネッセこども基金を通じて、香川県で同じように病児の支援をされている未来ISSEYさんと繋がらせて頂きました。
今年7月から、未来ISSEYさんが実施するマイスター教室に勇者の会の子どもたちも参加させて頂き、また同時に勇者の会のスタッフも勉強させて頂き、3年後就労支援に向けて頑張りたいと思っております。

今年からスタートさせたハイタッチネットワーク(小児がんの子の親が立ち上げた団体の連携活動)に、香川県の未来ISSEYさんが参加してくださることになりました。将来、全国の団体と連携を取り、小児がんや重い病気をかかえる子どもたちの情報交換などを行い地域格差を減らすような活動をしたいと思っております。

講演会に関しては、今年からはもっと力を入れ北海道以外のところにも力を入れていきたいと思います。我が家の病気の体験を通して命の大切さについてお話しし、『当たり前の生活が一番の幸せである』ということを伝えていきたいと思っております。

勇者の会はファミリーハウスを利用した患者家族の声を聞き、患者の立場に立った新しい形の体感型・勉強託児施設を併設したファミリーハウスを作ることを目標に活動しています。
そのハウスは、一時ではなく長期に渡り入院中や、入退院を繰り返す病気の子どもやご家族の一番必要としていることを全面支援(付き添い保護者の食事提供・買い物代行・簡易ベットと布団の貸出・ポケットWi-Fi・動画視聴サービスを入れたタブレットの貸し出し・外泊時の荷物預かり・きょうだい支援(託児・ミニレクレーション)・病院や入浴施設への送迎・退院後の家族旅行・退院後の長期サポート)していきたい考えております。
また、北海道情報大学情報メディア学部の協力を得て体感型アート(プロジェクションマッピング)を製作し「何かを創造する事が楽しいという体験を通して、入院している子どもたちが一時でも痛みを忘れ楽しむ」という研究を続け、ファミリーハウスに取り入れる事にも挑戦していきたいと思っております。

勇者の会

代表

阿部美幸 さん

2016 年に長男が小児がんに罹患したことをきっかけに、2017 年11 月に勇者の会を設立。病気の子どもの為に勉強支援をしている団体は当時、北海道だけにはまだ一つもありませんでした。だからこそ必要不可欠だと感じ、活動を始めました。入院生活や自宅での維持療法のために人混みに行けない子どもたちを対象とした学びや体験の支援を行っています。チャリティイベントや講演会などの活動も精力的に実施しています。

何度にもわたる抗がん剤治療の中で、何度にもわた って髪の毛が抜けてしまいますが、最後の治療まで抜け落ちなかった髪の毛の事を子ども達が『勇者な髪だね、退院して最後まで残っていたら、一本でも大事にしてトリートメントしてあげようね』と話していた事から【勇者の会】と名付けました。

Tシャツに刻まれた【勇者の会】のロゴの絵は・・・
●勇者→勉強支援の意味である、鉛筆・消しゴム・定規
●の→"の"の上に最後まで残った髪の毛が3本記されています。
●会→ファミリーハウス
をあらわしています。

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