公益財団法人ベネッセこども基金

助成団体紹介

2022活動報告|乳幼児期のLTCの子どものインクルーシブ教育・保育の推進と橋渡し支援モデルづくり事業

認定NPO法人横浜こどもホスピスプロジェクト

病気・障がいを抱える子どもの学び支援

助成期間を終え、活動の成果をご報告いただきました。事業の詳細などは以下からご覧ください。



【助成先訪問】認定NPO法人横浜こどもホスピスプロジェクト運営の「横浜こどもホスピス~うみとそらのおうち」を訪問しました!



事業の目的 事業の内容 事業の結果 事業の成果 自己評価 課題および今後の展望

事業の目的

「横浜こどもホスピス~うみとそらのおうち」は、生命にかかわる病気や状況(Life-threatening conditions: LTC)によって治療や療養を中心とした生活を送る子どもと家族を対象とする施設です。LTCの子どもと家族は、制度の狭間で孤立し、心理社会的に大きな負担を抱えています。病院や自宅以外に過ごせる居場所は少なく、同世代の子どもが経験する"遊び"や"学び"の機会が制限されやすくなります。

LTCの子どもの教育・保育は、通常に加えて、個別の疾患や病状に応じた心身への配慮や対応が求められます。本事業では、乳幼児期のLTCの子どもの教育の機会の保障のために、地域の現状と課題を共有し社会的認知を高めること、臨床および教育の実践家とともにLTCの乳幼児期の子どものインクルーシブ教育・保育の推進や橋渡しの支援モデルをつくりながら、LTCの乳幼児期の子どもに向けたより良い教育システムのあり方について考えていくことを目的としました。。

事業の内容

【事業1】乳幼児期のLTCの子どもの教育・保育における地域の現状と課題の共有 LTCの子どものインクルーシブ教育・保育をテーマとしたワークショップを行い、参加者と学びを深めながら、地域の現状と課題を整理し共有します。

【事業2】乳幼児期のLTCの子どものインクルーシブ教育・保育の推進と橋渡し支援モデルづくり こどもホスピスで個別の発達や疾患および病状に応じた遊びや学びを提供しながら、LTCの子どもと家族が安心して過ごせる人的・物的環境を提供し、地域の医療機関や教育機関と連携しながら、個々のケースに対して関係者と課題を整理し橋渡しの実践を協力して行います。

事業の結果

【事業1】 LTCの乳幼児期の子どもにかかわる医療および教育関係者に対するワークショップを2022年6月に開催し、地域の保育所・こども園・幼稚園の園長など30名ほどが参加してくれました。ワークショップ以外には、個別の意見交換会やこどもホスピスを見学してもらっての意見交換などを複数回実施しました。

【事業2】 6ケースの子どもと家族、関係者と課題を整理しながら協働して、ケアを展開することができました。

LTC in the communityワークショップ① 事業1ワークショップ


LTC in the communityワークショップ② 事業1ワークショップ
LTC in the communityワークショップ③ 事業1ワークショップ

事業の成果

【事業1】 ワークショップの参加者のアンケートでは、地域の課題の認知の度合いは「とても深まった」が45%、「深まった」が55%と全員が前より深まったと評価していました。「子どもの病気に関する情報の把握」「保育園に通園するまでのプロセス」「保育園での医ケアの対応状況」「保育園における看護師の配置」「医ケアが必要ない病気の子どもの入園」「園と親とのかかわり」などについて、地域の現状と課題について率直な意見交換を行うことができました。今後に向けて、「みんなの悩みを地域に戻していけるとよい」「地域ごとに異なるシステムがあるので、他の地域の取り組みを知れるとよい」「地域が置き去りにしないで、向かっていけるように。みんなで育て合える、そういう子育てに地域が変わっていかないといけない」「自分の園でできること・できないことをはっきりしていけるとよい」といった認識の変容の声が聞かれました。

【事業2】 6ケースのうち、半数が血液がんと、同じ病気の子どもであり、病気と特性や治療プロセスが類似することから、同様のタイミングや内容の困難さを感じていました。 入園や復園にあたっては、治療の副作用や留意点の理解と共有、脱毛など見かけ上の変化があるため病気について周囲の理解をどのように得るか、過不足ない配慮を得るためにどこまで病気の情報を共有することが必要なのか、長期にわたる入院治療のため筋力低下があるため同年代の健康な子どもと同じ活動や毎日の登園が難しいこと、感染症の予防対策が必要なことなど共通する問題を抱えていました。 いずれのケースも毎日の登園が可能となるまでは、頻度に差はあるものの、同年代の子どもと比較して経験しにくいことや不足する遊びや学びの時間を持つために、治療中から継続してこどもホスピスを利用されていました。家族は、こどもホスピスでの自然な活動から子どもが体力や自信を取り戻していく様子を確認することで、徐々に登園できる頻度を増やしていきながら社会復帰していかれていました。

自己評価

事業1を通して、地域の保育所・こども園・幼稚園の園長や教諭と顔の見えるつながりをつくっていけたことで、ハードの問題への対処には時間がかかるため難しいが、事業にのインクルーシブ教育の実現につながるようなこどもホスピスとの連携を個別の事例をもって探っていこうという前向きな協働が可能となったケースが複数ありました。 1回のみのワークショップの開催となってしまい、参加がなかった地域の保育所・こども園・幼稚園などには、LTCの子どもの教育・保育を受ける機会の確保の重要性を伝えると同時に「こどもホスピス」との連携促進のための周知をはかりました。いくつかからフィードバックがあり、こどもホスピスの見学をしてもらいながら、今後の連携のかたちなどの意見交換の場につなげることができました。 事業全体を通して、現状と課題における関係者の関心や社会的認知の変化、個々のケースにおける具体をもってのLTCの子どもの社会参加とQOL向上に向けての協働の姿勢を実感することができました。

課題および今後の展望

2021年9月18日に「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律(医療的ケア児支援法)」が施行されて、横浜市が「横浜市医療的ケア児・者等支援促進事業実態調査」が実施、さらには2022年9月に「保育所等における医療的ケア児受入れ推進ガイドライン」ができました。そのことによって、本事業計画を立案した時点には明らかになっていなかった現状と課題が、行政単位での調査によって明確化がはかられ、社会状況が大きく変化していったという状況があります。今後は、こどもホスピスを利用される個別のケースを通して、地域の関係者との連携の経験知を積み重ねていきたいと思います。こどもホスピスが担える役割や貢献できることを整理し、効果的な連携をはかれるよう展開していきたい。

認定NPO法人横浜こどもホスピスプロジェクト

代表理事

田川 尚登 さん

6歳の次女を亡くしたことがきっかけとなり、小児医療現場の環境改善に役立つ活動を始める。2005年より建設費用の寄付を募り神奈川県立こども医療センター近くに患者家族滞在施設リラのいえを開設。活動中に英国から世界に広がっているこどもホスピスの存在を知る。2013年に看護師からの遺贈をきっかけに建設資金を集め、2021年11月に「横浜こどもホスピス~うみとそらのおうち」が完成し運営が始まる。

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