助成団体紹介
未来につなぐ記憶を学ぶ「子どものための地元の思い出サロン」 -輪島市門前町の歴史と伝承を語り復興するために-
Learning Crisis研究会
令和6年能登半島地震で被災した子どもの学びや育ちの支援活動助成 活動報告
- 代表者名
- 柴田 邦臣
- 事業名
- 未来につなぐ記憶を学ぶ「子どものための地元の思い出サロン」 -輪島市門前町の歴史と伝承を語り復興するために-
支援地域/支援対象者/活動期間 活動地域や支援対象者の状況 支援の内容・方法 成果 考察
支援地域/支援対象者/活動期間
■活動地域
石川県輪島市
■支援対象者
能登半島地震の影響により避難所や仮設住宅での生活を余儀なくされたり、ないしはさらなる二次避難先で暮らすことになって、地元から切り離されて影響を受けている幼児・児童らとその家族
■活動期間 2024年1月10日~6月30日
活動地域や支援対象者の状況
■支援時の状況
能登半島地震でもっとも被害を受けたのは「子どもたちがこれから地元で成長し、そこを支える人材として育つ」環境と、その可能性であるといえる。
私たちが1月10日から支援に入っている輪島市・門前町は、市役所など輪島市の中心部からは国道の不通が続き今なお切り離され、家屋崩壊や断水で避難生活が長引いた上で、ようやく入居が進んでいる仮設住宅も、家庭の事情などによって分散して入居する地域も少なくなく、支援の手は特に不足している。
門前町で問題になっているのは、まず第一に「子どもたちの疎外感」である。遠く離れた二次避難先ではもちろん、地元に残った子どもたちも通常の生活・学習にはまだまだ程遠く、「地元が立ち直っている」感覚を得ることができていない。「安心して遊び、学び、育つことができる地元」が失われたまま、子供にとっては長い貴重な数ヶ月が過ぎようとしている。このままでは門前町の子どもたちは十分、地元への愛を育てることができず、さらなる流出や過疎化を加速しかねない。
さらに発災より数ヶ月経つ中で、被災されたご高齢世帯の分断はますます進み、それぞれが孤立を深めてきている。街が無事だった頃は、歴史の長い能登地方ならではの年中行事、家庭行事が多く、親戚や近所付き合いで頻繁に顔を合わせる機会が多く、それが地域のネットワーク、さらには次世代への歴史の伝承の土台となっていた。しかし被災がひどかった門前地区では、年中行事に必要な品物や、記念の品などが蔵の中に埋もれてしまって取り出すことができないなどして、行事を催したり共有したりする機会が失われてしまっている。
總持寺以来の700年の歴史を誇るこの地域の復興のためには、このような祭祀、年中行事、家族行事の再開と、そのための支援が不可欠となっている。
支援の内容・方法
「子どものための地元の思い出サロン」は、能登半島地震のひどい被害に対し、地元への愛を確認し、今後、門前町を主体的に支える人材を育む土台を用意するために、被災して大半の家財が埋もれてしまっていて、身動きが取れなくなっていらっしゃるご高齢の方をサポートし、地域の記憶や思い出を語り合う場を、もう一度取り戻すために開催される。
具体的には、避難生活をするお年寄り向けのお茶会と、子どもたちが遊べる遊び場を、避難所や仮設集会所で同時に催し「地元の歴史を学ぶサロン」として実施した。
①櫛比地区
対象者:櫛比地区で避難生活を送る幼児・児童・生徒、および地域の思い出を伝承するご高齢の避難者。延べ96名。
期間:サロン開催は2024年3月〜6月30日、そのための門前町での活動は、1月10日〜6月30日
場所=門前避難所、門前東小学校、禅の里交流館
支援方法=思い出の写真、資料、記念品などを展示し、能登のお菓子などを揃えてお茶会を開催。タブレットなども導入。
実施者=研究会メンバーである駒澤大学・金沢大学などから教員、大学院生、大学生など、延べ29名で実施。
②黒島地区
対象者:黒島地区で避難生活を送る幼児・児童・生徒、および地域の思い出を伝承するご高齢の避難者。延べ36名。
期間:サロン開催は2024年3月〜6月30日、そのための門前町での活動は、1月10日〜6月30日
場所=黒島拠点施設。現在は黒島支援隊と仮設住宅集会所での開催を計画中。
支援方法=思い出の写真、資料、記念品などを展示し、能登のお菓子などを揃えてお茶会を開催。タブレットなども導入。
実施者=研究会メンバーである駒澤大学・金沢大学などから教員、大学院生、大学生など、延べ10名で実施。
③道下地区
対象者:道下地区で避難生活を送る幼児・児童・生徒、および地域の思い出を伝承するご高齢の避難者。延べ25名。
期間:サロン開催は2024年3月〜6月30日、そのための門前町での活動は、1月10日〜6月30日
場所=ありんこの家、道下仮設住宅集会所
支援方法=思い出の写真、資料、記念品などを展示し、能登のお菓子などを揃えてお茶会を開催。タブレットなども導入。
実施者=研究会メンバーである駒澤大学・金沢大学などから教員、大学院生、大学生など、延べ16名で実施。
■実施頻度、回数
輪島市門前支所・社会福祉協議会門前支部との連携のもと、当地のボランティア団体を取りまとめる連絡会議に参加している、シャンティ国際ボランティア会、黒島復興応援隊、災害支援NPOありんこと連携を深め、それぞれの地域で以下のように開催することができた。
・櫛比地区=門前避難所(含小学校)にて2回、禅の里交流館にて3回、計5回開催。現在も月1回、定期開催中。
・黒島地区=黒島拠点施設にて計3回開催。現在は黒島支援隊と仮設住宅集会所での開催を計画中。
・道下地区=ありんこの家で2回、道下仮設住宅集会所にて1回、計3回開催。現在も月1回、定期開催中。
■告知方法
地元向けに各避難所の掲示板への掲載していただき、チラシを作って配布していただいた(チラシは補足資料に添付)。
また、毎週水曜日開催の社会福祉協議会門前支部「連携会議」で定期的に案内していただいた。
また、3月24日の「雪割草祭」での新聞、SNSなどでの広告を契機に、二次避難されている方々へもご案内をいただいた。そのネットワークを活かし、現在でも告知している。
成果
(1) 歴史の深い「輪島市門前町」の思い出を、被災された方々自身が実感できた
門前町は、總持寺祖院や、国指定の重要伝統的建造物群保存地区である黒島地区など、能登半島の中でも特に「豊かな歴史」を活かして作られてきた地域である。この地域の復旧・復興は、まさにそのような歴史の中で、生活が営まれてきたということを思い出していただき、取り戻していただけるようなサロンを準備し、順調に定期開催することができた。
(2) 思い出を象徴する記念品・写真などを壊れたご自宅から取り戻していただく手伝いをすることができた
「思い出サロン」を準備しテスト開催するなかで、能登半島地震の特徴として、崩れてしまった広いご自宅のどこかに「思い出の記念品や写真」が埋まってしまっている、というご依頼を多々いただくこととなった。
そのため、社協や連携団体と協力し、学生ボランティアを派遣して、それらの救出や整理のお手伝いをすることとなった。被災者の方々にはとても喜ばれ、それを契機に、自分たちの地域の思い出や歴史を見直すきっかけにしていただくことができた。
(3) 次世代への継承として、子どもたちや学生ボランティアと語り合う機会をつくることができた
「思い出サロン」の目的の一つが、地域の歴史を次世代に伝承していく手伝いをすることにある。震災を契機に、門前町は予想を上回る少子化が進み、なかなか子どもたちへの伝承は困難になってきているが、連携団体との関係を深め、道下地区など比較的子どもたちが残っている地域に傾注するなどの工夫をすることができた。また、学生ボランティアとして、同じ石川県に所持する金沢大学や近隣の富山大学の学生を誘ってサロンを開催することで、次世代への伝承に繋げることができた。
考察
能登の中でも、特に豊かな歴史に寄り添ってきた門前町地域においては、年中行事や家庭行事といった伝承の積み重ねが、どれほど重要であるかがよくわかった。
一方で、高齢の方々は自宅が被災し、そういった記憶や思い出を示す品々・写真などが埋もれてしまっていたのは予想外で、そのために学生を派遣するなどの工夫が必要になった。また一部地域ではあっという間に本当に子どもがいなくなってしまい、子どものいる地域に絞っての活動となったが、これも今後の門前地域の困難さを予見しているともいえる。
本研究会は駒澤大学と總持寺祖院の縁もあり、助成終了後も以下の2点で研究プロジェクトとして支援継続を目指している。
(1) 地域の伝承の核となる「お祭り」や「家庭行事」への支援
「能登はお祭りの半島」で、祭祀、お祝い事などの家族での行事が多いことが、「思い出サロン」の活動でわかってきた。定期開催化した「思い出サロン」に加えて、駒澤大学や金沢大学などから学生ボランティアを派遣し、若い人手が必要なお祭りの支援をするとともに、「思い出の伝統料理」などを仮設集会場で一緒に作り子どもと食べるイベントなど、家庭行事の伝承に貢献できるイベントを企画していきたい。
(2)地域の思い出・記憶のデジタル化とクラウドなどでの共有
「思い出サロン」にタブレットとパソコンを導入できたことで、デジタル機器に妙味のある方々の関心をいただくことができるようになった。
地域の共有の思い出である「お祭りの写真」や「学校の写真」なども、「ぜひみんなで見てほしい」とお預かりできるようになっている。それらをデジタル化して地域の皆さんと共有するご許可もいただき作業も進められているので、ぜひデジタル化とクラウドでの共有に踏み出したい。
最初の土台を築くために、貴基金のご助成は欠かせないものであった。門前町の歴史に10年寄りそう基盤を築いてくださった、この度のご助成に深くお礼申し上げます。