プログラム活用事例
防犯 【一般社団法人日本セーフコミュニティ推進機構(大阪市)】地域全体で安全力の向上を目指す! ~セーフコミュニティ~
一般社団法人日本セーフコミュニティ推進機構(大阪市)
「セーフコミュニティ」をご存知でしょうか。安心・安全なまちづくりを目指して、地域コミュニティが一体となって取り組んでいる自治体に対して与えられる国際的な認証です。
今回は、この国際的認証を日本で推進する一般社団法人日本セーフコミュニティ推進機構(大阪市)を訪問し、取り組みが始まった経緯や、現状についてお話をうかがいました。
(右から:日本セーフコミュニティ推進機構白石陽子代表理事と今井久人事務局長)
最初にセーフコミュニティが始まったのは、1970年代。スウェーデンの人口3万人ほどの小さな町でした。当時、子どもが鍋をひっくり返して大やけどを負うなどの不慮の事故が立て続けに起きたため、町全体で情報を共有し、地域の子どもの安全を守ろうという目的で始まりました。
「仰向けで手足を動かすことしかできなかった赤ん坊が、ハイハイして動き回る、手にしたものを口に入れる、歩き出す、走り回る、上にあるものをつかんで落とす、高いところによじ登る、外飛び出す、動くものに乗る...。そんなふうに、子どもは成長するごとに新しい行動をする、そのたびに新しい危険と遭遇し、ときに怪我をする。保護者は、その経験から、『これは危ない!』と気が付いて、危険なものを遠ざけたり、注意を言い聞かせたりします。しかし、子どもが成長すれば、また次の危険と遭遇します。小さなケガばかりでなく、人生を左右するような事故も起きてしまう...。それを地域みんなで防ごうとしたのです。」と、日本セーフコミュニティ推進機構代表理事の白石陽子さんは言います。
(白石陽子さん)
その町では、保護者、行政、学校、地域の人々、病院、ローカルテレビ局や新聞社の関係者が集まり、「どうして事故が起きたのか」、「どうしたら予防ができるのか」、「どうしたら情報を各家庭に伝えられるのか」などを話し合い、対策を講じました。これが、セーフコミュニティ運動の始まりです。そして、その成果として、子どもの事故が5年間で約3割も減ったのです。
この取り組みを、スウェーデンのカロリンスカ大学(研究所)が注目し、研究をはじめました。1989年、WHO(世界保健機関)との協働のもと「セーフコミュニティ」の概念が盛り込まれた「マニフェスト」が宣言され、全世界への普及活動が始まりました。それから27年間で、セーフコミュニティの認定を受けた自治体は約370団体。現在、アメリカ、ヨーロッパ、アジアなどの地域単位に支援組織として「セーフコミュニティ支援センター」と、認証機関として「セーフコミュニティ認証センター」が設置されています。
日本でのセーフコミュニティの取り組みは、2005年に始まりました。立命館大学大学院で地域福祉と行政広報・広聴について研究していた白石さんですが、セーフコミュニティについて調査していた教授の依頼で、スウェーデンのセーフコミュニティの本部に渡ったのがきっかけです。制度を学び帰国した後、白石さんら数名で日本セーフコミュニティ推進機構を設立し、日本の自治体への導入を推進することになりました。
「韓国や台湾は、1990年代後半からセーフコミュニティが導入されており、日本は遅れていました。日本は、世界的に見ても安全な国だと思われてきたために、安全への問題意識が低かったのだと思います。でも実際は、事故も事件も決して少なくないですよね。日本の多くの人たちは、安全を行政に頼りすぎる傾向があると感じました。不安を感じたら『街灯をつけてほしい』『信号を設置してほしい』『交番を増やしてほしい』...とまず行政にお願いする。それもよいのですが、より大切なことは、まちの安全づくりに住民もふくめてみんなが一体となって取り組むことです。行政は対応できる範囲に限界があり、地域は地域、家庭は家庭で、それぞれ限界があります。安全なまちを目指すみんなが繋がって横ぐしを通すことで、安全力は高まるのです」と白石さんは言います。
地域住民、関連組織、行政などからなる分野横断的な組織「乳幼児の安全対策委員会」がつくった子育て中の保護者対象の啓発リーフレットやポスター。将来子育て世代になる大学生と一緒につくることで若い世代の意識向上も目指しました。「どうやって使ってもらえるか」「実践してもらえるか」を考え、乳幼児の保護者がよく行く場所(ドラッグストアなど)や参加する機会(乳幼児健診など)を調査して配布しました。(京都府亀岡市)
2008年3月、京都府亀岡市が日本のセーフコミュニティ認証自治体第一号として認定されました。世界で132番目の認定です。それから現在(2018年2月2日現在)までに日本では、15の自治体が認証を受け、認証に向けて活動を続ける自治体もあります。
セーフコミュニティの認定を受けるためには、認証センターが定める「7つの指標」を満たすべく組織体制を作り、実際の活動をスタートさせ、長期的に継続できるとみなされることが必要です。日本セーフコミュニティ推進機構は、そのサポートを行っています。
セーフコミュニティの認証を受けるためには、どのような組織体制を作ればよいのでしょうか。同機構の設立メンバーの一人である今井久人事務局長は以下のように解説します。
(今井久人さん)
「まずは、自治体の部署の垣根を超えたチームワークの下、地域の事故や事件の状況を調査し、その地域特性に従って、すべての性別、年齢、環境、状況をカバーするセーフティ・プロモーションを作成する必要があります。2015年に認証を受けた埼玉県秩父市では、交通安全委員会、高齢者の安全対策委員会、子どもの安全対策委員会、犯罪の防止対策委員会、災害時の安全対策委員会、自然の中の安全対策委員会、自殺予防対策委員会の7つの重点課題の対策委員会を作りました。各委員会は11人から23人の委員で組織されています。組織の作り方としては、自治体の担当課のなかで担当者を設置し、そこから地域の中で活動するキーパーソンに声をかけて、メンバーに加わってもらうプロセスが一般的です」
秩父市の「子どもの安全対策委員会」では、小中学校、保育所、民生委員・児童委員、PTA、警察署、市の子ども課の職員等が委員に、「自殺予防対策委員会」は、医師会、薬剤師会、病院、高齢者相談支援センター、商工会議所、警察署、消防署、公共職業安定書、保健所、社会福祉協議会の職員等が委員となっています。各委員会は定期的に対策を話し合い、さまざまな予防活動、啓発活動に取り組んでいます。
サポートや見守りが必要な人々が安心・安全に暮らせる町づくりを、町ぐるみでしていく。隣近所の繋がりが薄くなりつつある現代社会において、地域の絆と安全を取り戻す、とても大切な取り組みだと思います。
▼セーフコミュニティ『7つの指標』
- コミュニティにおいて、セーフティ・プロモーションに関連するセクションの垣根を越えた組織が設置され、それらの協働のための基盤がある。
- 全ての性別、年齢、環境、状況をカバーする長期にわたる継続的なプログラムを実施する。
- ハイリスクグループと環境に焦点を当てたプログラム、及び弱者とされるグループを対象とした安全性を高めるためのプログラムを実施する。
- 根拠に基づいたプログラムを実施する
- 傷害が発生する頻度とその原因を記録するプログラムがある。
- プログラム、プロセス、そして変化による影響をアセスメントするための評価基準がある。
- 国内及び国際的なセーフ・コミュニティネットワークへ継続的に参加する。
一般社団法人日本セーフコミュニティ推進機構 :http://www.jisc-ascsc.jp/index.html