公益財団法人ベネッセこども基金

プログラム活用事例

防犯 【日の出小学校お父さんの会、日の出南小おやじの会(浦安市)】子どもたちの安全を守る「おやじ」の底力 ~親子豆まき防犯パトロール~

日の出小学校お父さんの会、日の出南小おやじの会(浦安市)

子どもの安心・安全を守る活動

photo_03.jpg

 

◇「親子豆まき防犯パトロール」

 

 節分の豆まきと防犯がコラボしたイベントが開催されました。千葉県浦安市の日の出小学校と、日の出南小学校の保護者と児童が参加した「親子豆まき防犯パトロール」です。日の出小学校お父さんの会と、日の出南小おやじの会が主催となり、実施されました。

 

 当日の正午過ぎ。日の出小学校体育館には約70人の児童が集合。保護者が扮する鬼たちに向けて、子どもたちが元気に豆まきを行います。

 

photo_05.jpg

 

 大きな声を出して近づく鬼たちに驚き、後ずさりする子どもたち...。ほどなくして、号令とともに、事前に子どもたちが作った豆箱にいっぱい盛られた豆を握って、反撃の「豆まき」がスタート、鬼たちが逃げまわる展開に。そして、浦安警察署の交番のおまわりさんたちが鬼を確保して、無事に、豆まきは終了。みんなで豆の片付けを行います。 次に、イザという時、大声を出して逃げることができるようにするための訓練を兼ねた「大声コンテスト」を行った後、いよいよパトロールへ出発。この日の気温は4度。凍える寒さの中でも、子どもたちは元気に街の安全を確認し、防犯啓発の掛け声をかけながら、日の出南小学校へ向かいます。

 

photo_04.jpg

 

 さて、ゴールの日の出南小学校のグラウンドでは、おやじの会やPTA等の方たちが、朝早くから準備していた、石焼きいも、ホットココア、焼きウィンナーが出迎えてくれました。本格的な石焼きいもの屋台は、器用なおやじの手作りで本物以上。寒い中、ほっぺたを赤くしながら、歩いてきた子どもたちは大喜び。もちろん、大人たちにとっても頑張った自分たちへのご褒美です。身も心も温まり、大成功でした。 地域の警察署も協力して行われた防犯イベントを通して、子どもたちは自分たちを、見守ってくれる大人たちの顔も覚えたことでしょう。

 

photo_06.jpg

 

◇日の出小学校お父さんの会、日の出南小おやじの会の設立の経緯

 

 近年、全国的に増えつつある「おやじの会」は、保護者による任意団体で、1980年代に生まれ、今や全国で4,000団体を超えていると言われています。その名のとおり、おやじ=父親たちによる自主的な地域活動です。

 

 その活動内容は、それぞれのおやじの会によって様々。「親子豆まき防犯パトロール」を開催した浦安市の2つのおやじの会は、とても活発に活動しています

 

 JR京葉線新浦安駅、南側に広がるベイエリア。大型分譲マンションが立ち並ぶ地域に、日の出小学校と、日の出南小学校があります。おやじの会が出来たのは、日の出小学校お父さんの会が2004年、日の出南小おやじの会が2005年です。発足のきっかけは、同地域のマンション開発が進み、児童数の増加にともない日の出小学校の学区が2つに分かれることになったのがきっかけでした(日の出南小学校は2005年創立)。

 

photo_01.jpg

(今回お話をうかがった須田哲史さん)

 

 「あの頃、全国で子どもの殺傷事件が相次ぎ、浦安市でも刃物を持った男に小学生が追いかけられる事件が起きました。ここは、学区内に一戸建ての家が少ない、マンション中心の地域。私を含め、住民のほとんどは、都心の職場と自宅を往復する生活で、隣近所の付き合いもほとんどありませんでした。新しいマンションが次々に建ち、知らない人がますます増える...、故郷を実感できない子どもたちが増える...そんな中で、児童数の増加に伴い、小学校が2つに分かれることになり、父親たちは不安を感じていました。日の出小学校では、発足したばかりのお父さんの会に180人も登録したのです。」と、立ち上げに参加した須田哲史さん(元日の出小学校PTA会長)は言います。

 

◇2つの「おやじの会」が取り組んだこと

 

 2つのおやじの会は、手探りの中で活動をスタート。浦安市小中学校PTA連絡協議会の防犯部会にも参加し、市内各地域の子ども見守り活動の情報収集から始めました 。

 

 「まず始めたのは、防犯パトロール。毎朝、数人で手分けして地域を自転車でぐるぐる走り、子どもたちにあいさつをしました。また、お父さんたちに防犯パトロールの腕章を配り、毎朝の通勤時、駅までの道のりで腕章をつけて歩いてもらったのです。何ヶ月か続けていたら、ある会合で地域の方から、『あの地区は、子どもたちがあいさつをしてくれるようになった』と聞き、うれしくなりました。」(須田さん)。

 

 次に取り組んだことは、浦安市役所の防犯課との連携。不審者情報を含む、子どもの被害が起きやすいエリアや時間の情報を提供してもらい、防犯パトロールを効果的に行うヒントにしたとか。 「朝8時台の登校時、午後3時の下校時、さらに夕方5時から6時に、子どもに関連する事件が集中していました。そこで、3つの時間帯を重点的にパトロールする『835運動』を始めました。ただし、午後3時と5時は、会社員は日の出地区にいませんので、地域の方たちにパトロールをお願いしました。835運動は、今も続いています」(須田さん)。

 

 また、商業施設や浦安市に働きかけ、子どもに帰宅を促すメッセージを流すようお願いした。市のチャイムも、冬季期間は「午後4時30分になりました。子どもたちは気をつけておうちに帰りましょう。地域の皆さんも見守りをお願いします。」とメッセージが流れるとか。このような地域の連携を活かした見守りがスタートして13年以上が経ち、おやじの会のメンバーも入れ替わったりしていますが、バトンはしっかり引き継がれています。

 

 防犯活動は、継続することが大切です。住民が関心を向けている地域では、犯罪発生の機会が減少するだけでなく、いじめや非行の予防にもつながります。しかし、「防犯パトロールそのものは、意外と地味で孤独なものなのです。自分たちがパトロールすることで何も起きないことが一番ですし、特に、注目を浴びるわけでもないですから」と須田さん。

 

 子どもたちや住民にとって大切なことと分かっていても、その継続はなかなか大変なことです。続けるための秘訣はあるのでしょうか。

 

photo_02.jpg

 

◇活動継続の「秘訣」

 

 そこで大切なのは、コミュニケーション。おやじたちが「楽しい!」と感じること、それを共有して共感することが、継続の秘訣だと須田さんは言います。そのことは、初期の頃におやじの会が企画したイベント「親子夜間パトロール」で実感したそうです。 「その時、パトロールの楽しさに初めて気づいたのです。大人と子どもが拍子木を叩いて『火の用心~!』と言って歩いていると、マンションの住民がベランダに出て、手を振ったり、声をかけたりしてくれるのです。それがすごい喜びと励みになりました」と須田さんは言います。 ちなみに、パトロールの後には、焼きマシュマロ、焼きいも、豚汁、花火などのお楽しみが。子どもたちは、地域活動を通して、住民から喜ばれる、褒められる、知り合いが増える。さらに、スペシャルなおやつや楽しみを味わえる。これは、貴重な体験です。2ヶ月に1回、毎回50人以上の親子が参加する大きなイベントに発展しました。

 

 おやじの会では、防犯パトロール以外にも、学校内の樹木剪定、地域安全マップづくり、街の落書き消しや清掃、約400世帯が小学校のグラウンドに集まる「お月見の会」など、多くの人が参加する企画を実施しています。年に一度の大イベント、「デイキャンプ」は、OBも含めて80人ほどのおやじの会のスタッフと一層の盛り上がりを演出する卒業生も力となり、趣向をこらした遊び、ワークショップ、BBQ、キャンプファイヤー、学校周辺パトロールと、まる一日、楽しいことを詰め込んだイベント。クオリティも年々上がっているそうです。 また、両小学校を卒業したおやじOBは、同地区の日の出中学校サポータズクラブに入って、こうした活動を継続する方が多く、小中学校のおやじたちが連携して、小中学生を対象にしたキャリア教育も実施しているのだとか。裁判官、パイロット、レーサー、JAXA職員、IT技術者、経営者...など、様々な職業に就いている父親たちが社会人講師となり、活発な教育サポート活動も行なっているそうです。

 

photo_07.jpg

 

 子どもたちが喜ぶイベントの成功こそが、おやじたちの喜び。反省会と称して飲み会を行い、おやじ同士の関係も深まっていきます。 もともと、希薄化する地域のつながりや子どもたちの安全確保など、危機感の中で生まれたおやじたちのパワーが、いま、子どもたちのみならず、地域住民や関係機関をも巻き込んだ大きな安全安心の輪を支える底力になっています。アイディア豊富なおやじたちの活躍から、まだまだ目が離せません。

SNSでこの記事をシェアする

一覧に戻る