公益財団法人ベネッセこども基金

プログラム活用事例

防犯 【大阪府内の小学校】子ども自身が考えて身につける!~安全教育プログラム「ひなどり」~

大阪府内の小学校

子どもの安心・安全を守る活動

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 「ひなどり」とは、子どもたちを対象とした安全教育プログラムの名称です。 この日、大阪府内の小学校にて、4年生の児童を対象に「ひなどり」が実施されました。1時限目では、子どものケガの統計や、起きやすい事故などを子どもたちに説明し、4~6名でグループディスカッションを行います。自分たちの周りで実際にどんな事故が起きているのか、さらに、どうすれば事故は防げるのか、それぞれ話し合います。   2時限目では、校区内のエリアごとに、フィールドワークへ出発。子どもたちは、自分たちが担当するエリアで、歩行の安全、人通りの少なさ、ケガが起きる行為...など、自分たちにとっての「危険」をいくつかの視点から探します。教員や地元の消防士たちも付き添いますが、大人たちは少し離れて様子を見守り、その場で答えを教えたりはしません。それでも、子どもたちは、日ごろの経験やフィールドワークでの発見をとおして、次々に危険が予想される場所や機会をみつけていきます。

  

 

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(子どもたちのフィールドワークの模様)

 

 

この日、子どもたちが気づいたこととしては、 「歩道がない、狭い」 「横断歩道がない」 「ガードレールがない」 「落下物の危険がある」 「カーブミラーがない」 「地面がデコボコしている、段差がある」 「スピードを出した車、バイク、自転車が通る」 「暗い、人通りが少ない」 など、注意深く地域を観察し、それぞれの危険性を指摘しています。

 フィールドワークが終わり、教室に戻った子どもたち。続いて3時限目には、街でみつけた危険を予防するための標識やポスターを作りました。そして、4時限目では、その標識について、子どもたち自身が発表を行います。

  

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(子どもたちが作った事故防止用の標識)

  

 子どもたちが作った作品のうち、自治会などの許可が取れたものは、実際に校区内の掲示板に設置します。なお、設置ができなかったものも含め、全作品は、学校の廊下に貼り出されました。それを見た大人たちからは、「子どもの視点では、このように危ないと感じていることが初めて分かった」「子どもたちも日常的にカーブミラーを見ているのだと知った」といった声が上がったそうです。

 「子どもの安全を守れるのは誰か」―この問いに対する答えは、一つではないと思います。地域で子どもたちの安全を守るためには、警察や消防、自治体など関係機関の役割は重要ですし、教員、保護者やPTA、そして地域に住むみなさんの意識も欠かせません。  しかし、どんなに大人が子どもの安全を守ろうと努力しても、事故や事件をゼロにすることが難しいことも事実です。子どもだけで外出する機会も多い日本では、大人の目の行き届かない場所や瞬間が存在し、危険を完全に遠ざけることは不可能だからです。だからこそ大切なことは、子どもたちも、自分の安全に対する意識をしっかり持つこと。子どもたち自身が、危険を遠ざけ、より安全な行動をとることができているかどうかが重要なのです。  安全教育プログラム「ひなどり」を開発した大阪大学大学院人間科学研究科のメンバーの一人、岡真裕美さんは、このプログラムのコンセプトについて、次のように話します。

 

  

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(岡真裕美さん)

  

  

「従来の安全教育では、『川で遊んではいけません』、『あの交差点は使わず遠回りをするように』というように、大人が上の立場から子どもにルールを教えることが一般的でした。それでは多くの場合、『なぜ、してはいけないのか』がちゃんと伝わらない。さらに、素直な子は従うけど、やんちゃな子は従わない...ということも起こります。大人に『○○するな』と言われると、逆にしたくなる子もいるのです。  私たちの『ひなどり』は、子どもたち自身が、学校や街の中に潜む『危険』を探し出し、注意を促す『標識』を作り、さらに、みんなと共有する安全教育プログラムです。ちなみに、『ひなどり』の由来は、「ひょうしき作って なくそう事故を どこで どうする? りかいして」の頭文字からとりました。自分たちで考えるからこそ、『あの川は、下流に深みがあるから危険』、『あの交差点は、信号がなく車が飛び出してくるから危険』といった本質までちゃんと頭に入る。主体性をもって安全に取り組むことで、自分のことを自分で守る『自助力』をつけて欲しいのです。」  実際、手作りの作品を見て、「あれは、○○君が作ったんだよ!」、「○○ちゃんが作った標識だから、守っているよ!」といった会話が、子どもたち同士や子どもと保護者の間にも生まれており、安全意識が高まっているのだとか。

  

  

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(子どもたちが作った事故防止用の標識)

  

 中学校や高校の教師を務めていた岡さんが、子どもの安全教育に取り組むようになった背景には悲しい事件がありました。2012年4月21日、岡さんの夫、隆司さんが、ジョギング中に小学4年生と中学2年生の2人が川で溺れているのに気づき、助けようと飛び込んだところ、中学2年生の男子生徒とともに、命を落としてしまったのです。  「その川は、一見すると浅くて流れもゆるやかで、対岸まで渡れて散歩道にもなっている飛び石(護床ブロック)もあり、子どもたちに『川で遊んでね』って言っているような雰囲気なのです。しかし、じつは、ほんの少し下流に深さ4メートルから7メートルの深みがあり、子どもたちと夫は、その深みにはまって溺れてしまったのですが、その危険があることを、遊んでいた子どもたちも近所に住む私たちも、全く知らなかったのです。」

 そこには、川への侵入禁止の柵も、注意を促す看板も、何一つありませんでした。岡さんは、このような悲劇が二度と起こらないための対策について行政の関係各所と話し合いました。しかし、川での行動は「自己責任における自由使用」が原則ということもあり、その後の安全対策は必ずしも満足できるものにはなりませんでした。そこで岡さんは、命をかけて子どもを守ろうとした夫の遺志を受け継ぎ、学校の仕事を辞め、事故から1年後の4月、大阪大学大学院に入学。そこで、事故防止に心理学的観点から取り組む臼井伸之介教授の指導の下、中井宏准教授とともに、子どもの自助力を伸ばす安全教育プログラム「ひなどり」の開発を始めたのです。 こうして生まれた「ひなどり」は、2014年10月、小学校の校内で初めて実施され、2015年6月には、校区でのフィールドワークを取り入れて行われました。その後、プログラムの検証を行い、子どもたちが教育を「楽しかった!」と好意的に受け止めていることや、教育後に怪我で保健室を訪ねた子どもの数が減少したことを確認しました。今後、全国の小学校にプログラムを活用してもらいたいと岡さんは考えています。

  

  

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(子どもたちが作った学校内の事故防止用の標識)

  

 子どもたちを事件や事故から守りたい― そのためには、関係機関の取り組み、学校や保護者、地域の大人たちの意識も重要ですが、子どもたち自身が身を守る力に気づき、安全を実践することが不可欠です。

  

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岡真裕美さんプロフィール

1980年、香川県生まれ 2002年、奈良女子大学文学部卒業。その後会社員を経て中高国語科教員へ。 2012年、夫を水難事故で亡くしたことから、子どもの事故予防について研究するため、翌2013年、大阪大学大学院人間科学研究科へ入学。 2016年から同特任研究員として安全教育研究や子どもの事故防止啓発活動を行っている。 2006年生まれ、2009年生まれの子を持つシングルマザー。

 

 

 

 

 

  

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