公益財団法人ベネッセこども基金

活動実績

大阪府立大阪南視覚支援学校「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」②交流報告

よりよい社会づくりにつながる学び支援

視覚支援学校の生徒とアテンドの交流

----「未来の私」につながる対話

※前編はこちら

(大阪府立大阪南視覚支援学校「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」①実施報告)

ベネッセこども基金では、「よりよい社会づくりにつながる学び支援」の一環として、社会にはさまざまな人がいることを肯定的に体感する機会創出の支援、そして多様性を自然に尊重する日常をつくるための教育現場の在り方の検討を行っています。

2025年2月4日午後、大阪府立大阪南視覚支援学校において「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」を実施した後、多目的室に、同学校の中学部6名、高等部11名の生徒たちが集まり、そこに、「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」のアテンドとして活躍する視覚障がいのあるスタッフ8名が加わり、生徒たちとの交流の時間が始まりました。

交流

アテンドは普段、「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」で"純度100%の暗闇"を案内し、参加者に新たな気づきを届ける役割を担っていますが、今回は、自らの経験や生き方を伝える語り手として、視覚障がいのある中高生たちと対話の時間を過ごしました。

この交流は、生徒たちが自分の「少し先を生きる先輩」と出会うことで、「未来の私」をイメージできるようになることを目的としています。 普段の授業や生活のなかで、「将来、社会で働けるのか不安だ」という生徒たちの声は少なくありません。

学校では、「視覚障がいがあっても社会で活躍している人たちの話を聞くことで、こどもたちが自信を持てるようになってほしい」「こどもたちの未来への不安を少しでも和らげるきっかけになれば」という期待を込めて準備を進めてきました。

「少し先を生きる先輩たち」との出会い

会場には大きな輪を作って椅子が並べられ、アテンドが生徒たちの間に入るように席に着きました。 初めての状況に、生徒たちの面持ちは少し緊張しています。アテンドの一人が穏やかに口を開くと、空気がスッと和らいでいきました。

「ここにいる先輩たちは、いろんな年代の人がいて、いろんな経験をしている人がいます。 みんなのことも教えてもらいながら、みんなが知りたいことをお伝えできたらなと思っています。 どんなことを知りたいか、教えてもらえますか?」

全員の簡単な自己紹介を終えると、アテンドと生徒が互いにどんなことが知りたいかを共有し、6〜7人の小グループに分かれて対話のスタートです。 その頃には緊張もほぐれ、より近い距離でのやりとりが交わされていました。 好きな食べ物や、好きな場所、日常の暮らしや仕事などから、対話は次第に深まっていきます。

生徒たちは興味深そうに耳を傾けています。 そして、率直な質問がいくつも上がりました。

「白杖を持つことが恥ずかしいと思ったことはありませんでしたか?」
「パソコンってどうやって操作しているんですか?」
「一人で買い物とか、練習しましたか?」
「落ち込んだとき、どうしていますか?」


生徒たちは次々に疑問を投げかけ、それに対してアテンドが一つ一つ、自分の経験を踏まえて答えていきました。

小グループで対話

あるアテンドは、「僕は弱視で、白杖を使って電車通勤をしています。 最初は本当に怖かったけど、何度も失敗しながら少しずつ慣れていきました。 白杖を持ち始めた頃は抵抗がありました。 でも、あると安心できるようになって、今は相棒のような存在です」と話してくれました。

通勤や仕事にまつわるこんな何気ない話から、対話が始まっていきました。 就職活動が大変だったこと、自分なりの工夫や道具を使いながら仕事を続けていることなど、具体的な状況を織り交ぜながら・・・。

暗闇の案内人として活躍するアテンドの多くは、視覚に障がいがありながら、さまざまな仕事や暮らしを実践しています。 「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」の仕事をしながら大学院で学んでいる人、マッサージ師として働く人、パソコンで事務仕事をする人など、その働き方はさまざまです。

あるアテンドは職場での実体験を語ってくれました。

「はじめのうちは、周囲にどんなふうに伝えたらいいのか悩みました。 でも、"わからないことは一緒に考えていこう"と言ってくれる同僚がいて、ずいぶん救われました」

また、別のアテンドは、あん摩マッサージ指圧師の国家資格を取り、福祉施設で高齢者の施術にあたっています。 「最初は就職先が見つからず落ち込んだ時期もありましたが、必要としてくれる人がいることを知って、自分でできることをやろうと思えました」と話してくれました。

パソコンを活用して事務職に就いているアテンドは、「音声読み上げソフトを使えば、メールや書類作成もある程度はこなせます。 慣れるまでは時間がかかりましたが、"自分に合ったツール"を使うことで働く可能性が広がるのを感じています」と語っていました。

話を聞いた高等部の生徒が、静かに言葉をつなぎました。

「ずっと不安でした。 自分が将来働けるのか、周りに迷惑をかけるんじゃないかって。 でも、皆さんの話を聞いて、私にもできることがあるかもしれないって思えました。」

ネガティブな気持ちをどうポジティブに変えられるのか

生徒たちは、次第に自分自身のネガティブな思いもアテンドに話してくれるようになっていきました。

「以前は、地域の学校に通っていて、中学2年生でだんだん目が悪くなりました。 今は左目を失明して、右目は弱視です。 サッカーもしてたけど、そういう前にはできていたことができなくなったり、楽しみが減ったりしてしまって、すごくネガティブになってしまうときがあります。 どうやってポジティブに持っていくのかを教えて欲しいです」

また、違う生徒も次々に正直な気持ちを伝えてくれました。

「私は先天性なので、自分の見え方がいわゆる普通の見え方だと思っていたのですが、みんな見えているのに自分が見えていないということにネガティブになることがあります。 自分の視覚障がいと向き合い始めたのはやっと去年くらいから。 でも、ネットで調べても、視覚障がいってこんな見え方ですよって書いてあるけど、どれも自分とは違って、どうすればいいのか不安になっていました」

「特別扱いされるのが嫌。 自分でできることは最大限したいのに、周りの人はこれもできないでしょとか、してあげてるっていう思いが強いことがあって。 まあ、助けてもらわないと生きていけないかもしれないけど、なんで下に見られるのかなって思う。 地域の学校に通っていたときは、先生も理解してくれなくてしんどいことが結構あった」

小グループで対話2

アテンドは、一方的な励ましではなく、自分自身の経験を「現実の中での具体的な可能性」として話します。

「全く見えない人、見えにくい人、どちらも本当につらい場面があるよね。 私も、こどものとき、つらい経験をたくさんした。 だけど、今振り返ると、嬉しいことのほうが多いかもしれないな。 私くらいの歳になってくるとね、よくもあのときみんな嫌なこと言ってくれたね、ありがとうって感じることがあるんだ(笑)」

生徒たちは、「むしろありがとうって思うの?」「どうしてそんなふうに思えるんですか?」と前のめりになって質問します。

「見えないからこそできることがいくつかあって、この仕事はもう見えない人しかできないよねっていう仕事はいくつもある。 バリアフリー調査の仕事をしたこともあるけど、これは私だからできるんだと自信になった。 この「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」の仕事もそう。 今では見えないことが特技だと思える。 だから、見えないからこそできる仕事しか私は受けないようにしてるんだ。

もちろん、そういう人ばかりじゃないかもしれないけど、少しずつ工夫しながら、自分の特技や他の人にはできないことを見つけたり作ったりすると、それが自信になってまた次の自信になると思う。 だから、それを自信の玉手箱に一つずつ入れていくの。 工夫することはいろんな発想を生み出してくれるしね」

一つ一つの言葉の背後には、それぞれが生きてきたリアルな経験や時間が込められていました。

対話から見つけた、自分らしく歩む未来

交流後、生徒たちは「初めて、視覚障がいのある人が大人として社会で生きている姿を想像できた」と話し、口々に感想を語っていました。

「白杖って、"障がいがある"ことを見せる道具みたいで、持つのがすごく怖かった。 でも今日、皆さんが"相棒"って言ってくれて、考え方が変わった気がします」

「不安だったけれど、"大人になっても大丈夫かもしれない"って思えた」
「頑張れって言われるより、こうして直接話を聞けたのがよかった」
「誰かの話が、自分の未来につながっているような気がした」

ある生徒は、みんなの前でこんな感想を伝えました。

「僕たちは、鳥みたいだなって思う。 鳥は馬のように早くは走れないけど、翼があるから遠くに飛べる。 鳥と馬を比べるようなもんだと思ったら、それって無駄だよなって思う。 なんかそんなイメージが思い浮かんだ」

今回の対話は、見えないことの不便さや難しさを語り合うだけでなく、その中で自分らしく生きていく方法があることを、静かにしっかりと伝える場になっていました。

「見えないからこそ工夫すること、誰かと支え合うことは、特別なことじゃなくて、誰もがしていること」

アテンドの一人が語ったこの言葉をはじめ、皆さんと生徒たちの交流の様子を周りで聞いていた学校の教員、視覚障がいのないスタッフにとっても、深く響く言葉がたくさん見つかった時間でした。

ベネッセこども基金は、この一歩を確実に現場での実践につなげ、社会にはさまざまな人がいるということを肯定的に体感する機会のお手伝いに、引き続き尽力したいと考えています。

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