コラム
防犯 地域と子どもの防犯対策 Q&A
専門家コラム:防犯編VOL.88
担当:市民防犯インストラクター 武田信彦
コラムをご覧いただき、ありがとうございます。今年も全国各地で市民防犯の視点から、地域や子どもたちを守るための防犯対策や、身を守るコツなどについてお伝えしています。各会場では、ご質問やご意見などもいただいておりますので、よくある質問を通して、防犯対策のポイントを述べたいと思います。
Q.「子ども110番の家」、意味はあるのですか?
→A.子どもの防犯対策に欠かせない存在です!
いわゆる「子ども110番の家」について、その存在意義に疑問を抱く人たちも増えているようです。最近では全国的に設置数が減少傾向にあり、その背景にも「意味がないのでは?」といったモチベーション低下が垣間見えます。コラムvol.86でも取り上げていますが、①子どもだけになりやすい環境が広がり、②子どもを狙う犯罪が後を絶たない、という状況のため、増やす理由はあっても、減らす理由はないのです。
一方、「登録者が信用できるのか?」といった不安の声も聞かれます。不安を払拭しつつ、設置を活性化させるためのポイントとしては、①活動意義を正しく伝える、②禁止事項も明記する、③設置者の目線で選べるデザインにする、④研修など定期的なフォローを実施する...などがもとめられます。「なぜ必要なのか」を含めて、子ども110番の家の存在意義の再確認や、時代に合わせたリニューアルが必要な段階だと感じています。
Q.PTAの見守り活動、やめてもよいですか?
→A.無理なく取り組む工夫を考えてみましょう!
いま、PTA活動へのモチベーション低下が広がっています。学校と保護者が連携し、子どもたちの安全や健全な育みのために大切な取り組みなのですが、負担感や意識低下によってはPTAそのものの存在意義を見失いかねません。とくに、通学路の見守り活動は、児童の安全にとって欠かせない取り組みです。防犯対策の視点から「なぜ必要なのか」を正しく理解いただき、無理なく参加できるアイディアを練ることがもとめられます。
一方、活発に活動されているPTAの皆さんもいらっしゃいます。SNSやアプリを駆使して情報共有をしたり、がんばり過ぎないよう配慮したり、見守り活動のデザインをリニューアルして楽しく参加できる雰囲気を生み出したり。代々のバトンを受け継ぐだけではなく、現役の皆さんが主体的に取り組む中で、時代の変化をくみ取りながらスタイルを確立しているように見えます。たとえ形を変えながらでも、見守り・助け合いの環境を守っていただければと思います。

Q.見守りアプリは、防犯効果がありますか?
→A.防犯対策をサポートする存在です。
いわゆる「子どもの見守りアプリ」は、各社から提供されています。アプリの機能には、位置情報を知ることができる、特定の場所を通過した際に通知が入る...などがあります。これらのアプリの多くで「見守り」というワードが用いられていますが、どちらかといえば「行動確認」に近い印象を受けます。そもそも、見守りとは、ピンチの際に大人が対応できる環境のことを指します。たとえば、東京都品川区が独自に運用する児童見守りシステム「まもるっち」は、緊急時に端末のストラップを引っ張ると、ブザー音とともにセンターの担当者とハンズフリーで通話ができるというものです。状況に応じて、センターから警察や学校等の関係機関へ通報・連絡もされることから、「見守り」といえるシステムです。
位置情報を知らせるアプリについても、お迎えに行くために活用するなどすれば防犯効果が高まりますが、アプリに加入したことで生じる大人の安心と、実際の子どもの安全確保は別ものであることも十分に理解しておくことが必要です。子どもだけでの行動が増えるのであれば、「自分を守る力」をしっかり身につけておくこと。見守りアプリは、あくまでもサポート的な位置づけであるべきです。
Q.危ない人、危ない場所を教えてください
→A.人は断定できません。場所よりも瞬間に注目を。
「不審者ってどんな人ですか?」「危険な場所はどこですか?」― 私は「不審者」というワードは使いません。防犯対策を弱め、さらには差別すらも生み出す危険性があるからです。悪意・犯意は、一部(危険な物を持っているなど)を除いて外見ではわからないことがほとんどです。警察庁のデータを見ても、児童への加害行為を行った人の年齢分布は、中高生から高齢者までさまざまです。男性のみならず女性も含まれています。悪意・犯意ある者を特定の年齢層やキャラクターにしぼらず、相手がどのような人でも、言動に対して注意を向ける必要があります。だからこそ、コミュニケーション力が欠かせないのです。
そして、"危険な場所"についても、暗い道、汚い道...など特定のシチュエーションを決めつけることは、防犯意識をかえって弱めてしまいます。特定の場所ではなく、「子どもだけになる瞬間」にこそ注意しましょう。通学路上だけではなく、子どもだけでの外出時、集合住宅の敷地内、家族とのお出かけ先等、あらゆるシーンで「子どもだけになる瞬間」が生まれます。いかなる場面でも防犯意識・対策を忘れずに。
Q.子どもと一緒に家庭でできる防犯の練習はありますか?
→A.あります。一緒に練習することはとても効果的です!
子どもがもつ「自分を守る力=防犯力」は、くり返し確認することがとても大切です。とくに、保護者の皆さまとともに練習いただきたいのが、予防力=観察力です。子どもたちは大人よりも周りへの視野がせまいので、体を使って横や後ろをしっかり確認することがもとめられます。一人になったとき、信号待ちのとき、駐輪場に入るとき、集合住宅のエレベーターや外階段を利用するとき、玄関でカギを開けるとき...などは「だるまさんが、ころんだ!」のように振り返る動きを忘れずに行いましょう。振り返る動きには、①対処(逃げる、助けてを伝える)が速やかに行える、②悪意・犯意ある者に対して抵抗力(コントロールされない力)を示すことができる等...大きな防犯力を発揮します。
さらに、一緒にお出かけする際には、ときどき立ち止まって「ここからいちばん近くで、助けてくれそうな所はどこ?」と投げかけてみてください。ひとりになったとき、助けてくれる所をたくさん知っていれば、万が一の際に「逃げる」が速やかに行えるようになります。公共施設、なじみがある所、そして、子ども110番の家など。また、お店や施設等を利用する際は、保護者の皆さまとともにあいさつをすることをおすすめします。あいさつは、見守りや助け合いを育む大切な力です。人へ「助けて!」を伝える際の基礎練習にもなり得ます。暮らす地域の中でゆるやかなつながりを育むことは、子どもの防犯対策上も大切な底力となります。
武田 信彦 さん
犯罪防止NPOでの実践活動を経て、2006年よりフリーの講師として活動。「市民防犯」のパイオニアとして全国で講演やセミナーなど多数実施するほか、中央省庁の助言も務める。子どもたちを対象とした体験型の防犯セミナーも好評を得ている。著書には「活かそうコミュ力!中高生からの防犯」(ぺりかん社)ほかがある。