公益財団法人ベネッセこども基金

コラム

防犯 地域と家庭で、子どもを守る防犯対策を

子どもの安心・安全を守る活動

専門家コラム:防犯編VOL.86
担当:安全インストラクター 武田信彦


弱めてはいけない、子どもの防犯対策

 2024年3月4日の熊本日日新聞に記事が掲載されました。テーマは、「子ども110番の家」が全国的に減少している現状について。私は、取材協力とともにインタビューを受けました。警察庁によると、全国の子ども110番の家は、およそ10年で約4分の3に減少したとのこと。高齢化をはじめ、マンションやアパートが建設されるなどの自然減のほか、モチベーションや意識の低下による登録解除も少なくないようです。実際、私の元にも「駆けこまれないから、辞めてもよい?」「そもそも意味が無いのでは?」などの相談が届いています。しかし...

子ども110番の家を増やす理由はあっても、減らす理由はありません!

なぜなら、犯罪被害が発生しやすい「子どもだけになる瞬間」は、ますます広がっており、子どもたちをねらう悪意や犯意も減っていないからです。私の自宅にも子ども110番の家のプレートを設置していますが、その目的は、①子どもたちを守る防犯意識の啓発、②万が一の時に助けることだと考えています。どうやら②が優先されて、①の大切さが伝わっていないように思われます。登録者に対し、意義や目的を説明したり、定期的な研修でフォローしたりといったことも足りていないのかもしれません。

 さて、コロナ禍が落ち着き、防犯に関する研修等も本格的に実施されるようになりました。全国をめぐる中で感じるのは、子どもたちの安全へ心を寄せる皆さんの熱意です。地域防犯における、高齢化、メンバー減少、後継者不足...は引き続きの課題ではあるものの、それぞれの地域では多くの人々によって見守り・助け合いのきずなが育まれています。PTAや保護者世代の皆さんの中にも熱心に取り組みを行っている人たちが大勢おられます。そして、「負担を減らす」アイディアや工夫を活かし、参加しやすい環境づくりにチャレンジしている団体も。個々人のライフスタイルに合わせた活動タイミング、アプリを使った情報共有や報告、身に着けやすいパトロール服のデザイン、オンラインでの研修会等々。参加者に寄り添ったていねいな取り組みは、仲間を増やす底力になると思います。

 いま、子どもたちを守るための見守り等の地域防犯は、「多様な担い手による多様な取り組み」が新たな方向性になりつつあります。連携・協働する警察や自治体、教育委員会等の関係機関にも、現場の声を反映した柔軟なサポートのあり方がもとめられています。
※参考記事vol.81 多様な担い手による、多様な見守りを



防犯対策のポイントは「子どもだけの瞬間」

 こちらのコラムでもくり返し述べているとおり、子どもがねらわれる犯罪の多くは「子どもだけの瞬間」に発生しやすい傾向があります。夏休みは「子どもだけの瞬間」が増える季節のため、防犯対策を忘れずに実施してください。
 ちなみに、「子どもだけの瞬間」は、思いがけない場面でも発生します。

1)通学路や、子どもだけでの外出時

 日本では、小学1年生の頃から子どもだけでの行動が増える習慣があります。通学路においては、可能な範囲での保護者の付き添いや見送り、近所の子どもたち同士での登下校、地域の皆さんの見守りなど、さまざまな力を重ね合わせ、「子どもだけの瞬間」を減らすための対策が欠かせません。
 長期休みには、時間帯を問わず子どもが外出する機会が増え、行動範囲も広がる傾向があります。防犯ブザーを持ち歩く、なるべく人通りが多い道を歩く、助けてくれそうな人を探しておく。さらに、ひとりになった際は、自分を守る力を発揮することを忘れない...など、日ごろから防犯対策を確認しておくことが大切です。
※参考記事vol.41 一斉休校における子どもの安全対策

2)家族とのお出かけ時

 夏休みは、レジャーやショッピング等の施設へ家族みんなでお出かけする機会も増えると思います。お出かけ先でも、子どもの防犯対策は欠かせません。海水浴場やプールでは、利用者を装って盗撮をしている者にも用心しましょう。不審な行動を発見した際は、スタッフや警備員へすぐに知らせましょう。また、ショッピング施設でのわいせつ事件も発生しています。家族と来店していても、保護者の買い物を待つ、ひとりでトイレに行くなどの瞬間に犯罪被害リスクが高まります。不特定多数がいる空間では、悪意や犯意ある者がまぎれこみやすく、トイレや通路には人がいないこともあるので注意が必要です。とくにトイレには付き添いをおすすめします。可能であれば、「みんなのトイレ」を利用していっしょに入る、トイレの入り口から声をかける、などの対策が有効です。

3)家にいる時

 防犯の視点からは、子どもだけでの留守番は推奨できませんが、夏休みには長時間に渡って子どもだけでの留守番をせざるを得ないこともあります。基本的に、住空間はドアや窓をしっかり施錠していれば、安全を確保しやすい空間といえます。とくに施錠が重要なので、ドアと窓のカギはかけることをくり返し確認しましょう。また、万が一の際に連絡ができる体制、事故防止、災害対策についても準備が必要です。
※参考記事vol.41 一斉休校における子どもの安全対策

 また、家族とともに家にいる際も、悪意や犯意が近づきやすい「子どもだけの瞬間」は発生することがあります。スマホやパソコンで外部とつながっている時です。最近では、家の中で家族一人ひとりがそれぞれの端末を操作して過ごす時間も増えています。みんなといる空間にも関わらず、ネット空間において「子どもだけの瞬間」が発生し、悪意や犯意に心をコントロールされる危険性が拭えません。(公財)ベネッセこども基金のコラム内の「ネット」 をご覧いただければ、インターネットでの防犯のコツを知ることができます。ぜひご一読を。

リスクの高まる場所や状況をよく知り、防犯対策のポイントをおさえて、子どもの安全を守っていきましょう。

うさぎママのパトロール教室

うさぎママのパトロール教室主宰
安全インストラクター

武田 信彦 さん

犯罪防止NPOでの活動を経て、2006年より安全インストラクターとして活動を開始。「市民防犯」のパイオニアとして全国で講演やセミナーなど多数実施中。子どもたちを対象とした「安全ワークショップ」も好評を得ている。
著書には「SELF DEFENSE 「逃げるが勝ち」が身を守る」(講談社)ほかがある。



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