公益財団法人ベネッセこども基金

助成団体紹介

2020活動報告|TEDIC10年間の活動年表の作成から見えた成果について

特定非営利活動法人 TEDIC(宮城)

経済的困難を抱える子どもの学び支援

2020年度の活動の実行項目の1つである定性価値・バリューの抽出、見える化の進捗についてご報告いただきました。

事業概要|地域社会資源の定性情報の可視化を実現するために



TEDIC10年間の活動年表の作成から見えた成果について

1年目活動目的 
<支援における定性価値・バリューの抽出、見える化>
TEDIC10年間の活動年表について 1年間の総括と2年目に向けて

1年目活動目的 <支援における定性価値・バリューの抽出、見える化>

石巻の子ども支援団体は震災10年を経て、大きな転換期を迎えています。復興財源の終了、支援人材の不足、支援団体同士の連携、考えなければならない事柄は山積している一方、生きづらさを抱える子どもたちのニーズは増える一方です。(宮城県は4年連続、不登校児童数全国最多:文部科学省2020)

TEDICにおいても、複数の制度・事業を組み合わせ、行政・民間問わず緊密な連携体制を築けることが出来るようになった一方で、関係機関からのリファーや、緊急支援の要請に耐えうる組織基盤が築けていないことに気付く時期でもありました。

そこで、TEDICでは本事業を活用し、様々な方向からこれまでの10年間を振り返る選択をしました。「法人が大切にする価値とは何なのか」「現場の価値とは?」「なぜ、支援の属人化が起きてしまうのか」「10年間でTEDICが子どもたちと歩む中で起きた変化は何だったのか」。
そのような問いを自分たち自身に投げかけ、過去や現在の取り組みから、「法人としての在り方(≒ミッション)」「支援観(支援現場におけるポリシー)」を抽出、可視化、共有知にしていくことを目的にしました。

TEDIC10年間の活動年表の作成について

■調査方法
①立ち上げメンバーへのインタビュー(3人)
②過去(7年間分)のボランティア活動感想集のテキスト分析(継続中)
③石巻市子どもの生活・学習支援事業を利用している、子ども及び保護者へのインタビュー / テキスト分析

■気づき、新たな発見
子どもへのヒアリングでは「学習に対して変化があったか?」「家族との関係に変化があったか?」「友達との中で変化があったか?」等の項目で半構造インタビューを行いました。
これまで事業評価の一環で子どもにアンケートを実施したことはありましたが、記述は少なく、本音までは見えませんでした。それが、今回の調査では良い面も悪い面も含め、インタビューの中で本音を聞くことが出来、ありがたいことに、ポジティブな反応が多く、現場の人間にとっては、自分たちのやってきたことが報われた調査でもありました。

一方で、ある子どもは「昔のほうが楽しかった。昔は遊びにも行っていた」という事を言ってくれ、委託事業が増え、制度の中で救える子どもが増えた一方、気軽に来れる場所ではなくなったのではないか、子どもと距離が出来てしまったのではないかといった気づきを得ることもできました。

今回、実施したヒアリングの結果は学習・生活支援事業の年度末報告にも反映させていただきました。今後、市とも協議し、こういった子どものリアルな声が事業に反映されるよう、市と一緒に検討していく予定です。

また、これまでを振り返った際に特徴的だったのは、行政・民間の支援機関と対話や協議を繰り返してきた点、だということにも気づけました。委託事業を受託したこと自体も法人にとっては大きなターニングポイントではありました。前述のように、ポジティブな側面もあれば、ネガティブな面もあります。石巻市の特徴としては、市の担当者が現場の声を本当に尊重してくれる点です。

受託開始直後から、事業のあり方について繰り返し議論を重ねてきた成果が、一目でわかるのが事業の仕様書です。  団体内に言語化されているものが少ない一方、市が事業を発展させていったプロセスにTEDICが現場の声や、価値を埋め込んでいった成果は大きいと考えました。以下が価値を盛り込まれた仕様書の変化です。

▼2019年以前の「事業の目的」
この事業は、貧困の連鎖を防止するため、生活保護受給世帯を含む生活困窮世帯の子どもに対する学習支援を行うことを目的とし、生活困窮者自立支援法(平成25年法律第105号)に基づく事業として実施する。

▼2021年の「事業の目的」
この事業は、以下の3点を目的とし、生活困窮者自立支援法(平成25年法律第105号)に基づく事業として実施する。
(1)生活保護受給世帯を含む生活困窮世帯の子ども(以下、「子ども」という)に対し、学びの場、安心安全な場、多様な価値に触れられる機会を保障することで、子どもが本来持っている力を引き出す。
(2)保護者を含む世帯の状況に応じて、必要な社会資源の紹介、つなぎ支援を実施することで子どもの育つ環境を整える。
(3)本事業への市民の参加を積極的に促すことで、子どもの育ちを見守る、子どもの応援者を増やす。

インタビューでの子どもたちからの「声」をテキスト分析をかけた結果。

1年間の総括と2年目に向けて

1年目の取り組みで過去の価値は可視化出来ましたが、現在も支援の属人化は継続中のため「支援プロセスのブラックボックス化」は継続してしまっています。現場は目の前の子どもたちに向き合うことで精一杯なので致し方ない部分はあります。
ただ、これは持続可能ではありません。誰かが退職してしまったら、事故など突発的な事由で休職になってしまったら、活動が止まってしまったり、質が著しく下がってしまいます。そこで、取り組もうとしているのが、<支援プロセスのオープン化と蓄積>です。具体的な流れは以下の通りです。

①現場実践
②現場後の振り返り(子どもファイル、チューター、ユースワーカーファイルの更新)
③報告会
④共有知(コモンズ)としての冊子の更新

①~③までの流れは特段、目新しいものでもないと思います。TEDICにおいても、①②はこれまでも実践し続けてきました。ただ、①②で終わってしまっていたことが、課題だというのが1年目の取り組みで気づくことが出来ました。振り返りが支援者やボランティア自身のの学びにはなっていたものの、それが事業のアップデートや共有知にはなっていなかったのです。(③、④が実施できない、要因のひとつは人手不足。採用活動中※本事業外)

そこで、今年度は③報告会、④共有知(コモンズ)としての冊子の更新を導入します。
③報告会では月に1回、事業報告書やケース検討資料を使った会を行うことで、個人に蓄積されている支援実績の共有を図ります。そして、そこで出た好事例や、改善案を更新していくのが④共有知(コモンズ)としての冊子の更新です。冊子は複数あり、現時点では「TEDICにおける現場活動のポリシー(方針)」、「学習・生活支援」、「子ども若者総合相談センター」「石巻圏域社会資源」となっています。
それぞれ、構成は異なるのですが1年目に行った年表や過去の学生ボランティアの声、その他各事業の仕様書や関連法などをまとめたものになっています。2021年度はこれらを更新して共有知を蓄積していきます。

内部向けに事業や活動内容をまとめた冊子。職種毎に作成しスタッフに配布

特定非営利活動法人 TEDIC

副代表

鈴木 平さん

大学卒業後、IT企業を経由して、2014年より子ども支援NPOに参画。在職時に「人が育つ環境をつくる」をテーマにしたユースソーシャルみやぎを設立。 その他、子ども向けキャンプや体験活動を提供するNPOの事務局も務め、2017年より、NPO法人TEDIC理事就任、2019年より現職。事務局業務及び、地域、ボランティア、子どものコーディネーション活動を行う。



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