助成団体紹介
2021活動報告|部活動を通した子どもたちの変化と成果
特定非営利活動法人 サンカクシャ
2年目の助成期間を終え、実行項目の1つである「部活動を通した子ども・若者の変化」についてご報告いただきました。
事業の詳細などは以下からご覧ください。
2020活動報告|『学習性無力感』をもつ子ども・若者への新しい支援方法「部活動」を通した子どもたちの変化と成果
「部活動」活動2年目の内容 「部活動」を通した子ども・若者の変化 事業の成果指標開発について 1年間の総括&次年度に向けて 次年度に向けて
「部活動」活動2年目の内容
若者と色々な大人との交流の機会を増やすことで、徐々に社会参画するための準備ができ、仕事の手前の交流機会ができればということで「部活動」という立ち位置で活動を実施しました。
去年に引き続きオフラインによる交流を増やしたかったのですが、コロナ禍ということもありオンラインによる活動が中心となりました。
●部活動「オンライン英会話」の活動について
オンライン英会話は、4〜7月までの間、月に1回実施しました。
参加した若者はコロナ禍でほぼ外出をしておらず、オンラインで参加できる活動があることがとても大きかった様子でした。
英会話に興味ある若者にとってはとても良い機会になったようです。
ただ、英語に対して苦手意識を持っている若者も少なくなく、結果としては継続して参加する若者は数が限られてしまいました。
今回、オンライン英会話の部活動に協力してくれたのは、企業のボランティアの方々で、期限付きの活動という形になりました。
継続的な活動については、英会話に興味がある若者がいる場合に、定期的にボランティア活動をしていただける大人を見つけて実施していきたいと思います。
●部活動「オンライン交流会」の活動について
オンライン交流会では、社会人と交流しながら、世の中にはどんな仕事があるのか、どうしてその仕事を選んだのか、その仕事のやりがいはどんなところか、など聞く機会を設けました。
普段の生活の中ではあまり接点の無い職種の人から、仕事やプライベートに渡るまで色々な話しできる機会は良かったと感じています。
一方で、初対面の人とのコミュニケーションはどうしてもハードルが高くなる部分があり、大人と若者がいかにフラットに仲良くなるか、という点においては課題を感じました。
今回の活動を通して、やはりオフラインで人の体温を感じられる距離感の中で、大人も若者も同じ目線で同じものに挑戦する環境こそ、ぐっと距離を縮めることができる大事な要素だと改めて気づきました。
●部活動「オンライン居場所」
オンライン居場所は、コロナ禍でできるだけ対面を避けつつも交流する機会を確保しようと実施しました。
大人はスタッフやオトナリサンが参加し、雑談や人狼のようなゲームを中心に、交流とお互いの近況報告だったり、ちょっとしたことの相談だったりをしていました。オンライン居場所については関係づくりはばっちりで、参加している若者も緊張することなく、普段の居場所活動とそう変わりない様子で参加していました。
コロナ禍で外に出たくない若者にとっては大事な交流の場になっていたように感じています。
課題でいうと、参加する若者の数や大人が限定的だった点です。この部分については、先にも延べた通りオンラインからオフラインの繋がりづくりに注力したいなと考えているため、拠点にくる若者や大人を少しづつ増やしていきます。
「部活動」を通した子ども・若者の変化
●Rくんの変化(部活動「オンライン交流会」に参加)
初対面はどうも苦手、敬語もうまく使えないし、ちょっと肩書きあるような大人との交流はとても苦手意識を持っていたRくん。
たまに、オンライン越しの社会人相手に、失礼なことも発言してしまうこともありました。悪気があるというよりも、苦手意識の抵抗感から自然と発してしまう感じでした。
苦手意識がある中でも、どうにかして社会の中でちゃんと仕事していけるようになりたいという気持ちも持ち合わせていました。
そんな中、定期的に開催されるオンライン交流会に、時には参加して、時には参加を辞めたりしながら、少しづつ、いろんな人と会話に挑戦していました。
伴走しているスタッフや、一緒に参加している若者から冗談言いながらも良くない発言に対して指摘されたりする中で、発言に対して相手がどのような感情を抱いたのか、相手の気持ちを徐々に考えられるように変化していきました。
最初の方はそのような態度でしたが、交流の回を重ねるごとに、「ありがとうございます」や「ごめんなさい」という発言が徐々に増えていきました。
振り返ると1年前は彼から「ありがとう」という言葉を聞けるイメージがなかったのですが、今ではちょっと照れ隠しをしながらもまっすぐに「ありがとう」が言えるようになっています。
いきなり社会人的な会話は難しかったが、遊びやゆるい交流を徐々に重ねるごとに、他者との関係の築き方を徐々に学んでいるように思います。
●Sくんの変化(部活動「英会話」)
コロナ禍で感染に対して非常に警戒していたSくんは、基本オンラインでのやりとりだけで、関わり始めた2021年4月当時は、表情が全くなくてどんなことを考えたり感じたりしているのかわからない状態でした。
元々、色んなことに興味なさそうなタイプでしたが、新しいことへのチャレンジに対してのハードルは低いようで、スタッフに誘われることがあれば、色々と挑戦していました。
特定の趣味がない中で、英会話については割と興味を持っていたようで、2021年4月頃にはサンカクシャ外で、英会話を習い始めたようでした。そのような状況の中で、サンカクシャ内でも社会人交流の一貫で英会話で交流する機会を設けることになり、サンカクシャでもできるならということで積極的に参加するようになりました。
やはり好きなものへの取り組みは積極的になりやすいようで、始めは緩く会話する程度だったところから、徐々にディベート形式でやってみよう、と内容が変化していきました。
最近はディベートするのをとても楽しんでいる様子で時折り笑顔も見せるようになっています。自分の意見を聞いてほしいという傾向も強くなっているようで、英語以外にも教育について熱く語ることが増えているようです。
自分の好きなことで周りが承認してくれて、その積み重ねが自信となって他の部分にも良い影響が出ているように感じています。
事業の成果指標開発について
成果としては、上記のような若者の変化が非常に大きいと感じています。
若者に繋がる大人が徐々に増えて、それぞれとの交流の中から少しづつ、自分への理解や自信に繋がったり、他者への理解が深まることでコミュニケーションのとり方などが徐々に変化していく。ちょっとの成功体験を積み上げていくことで、新しい挑戦にも抵抗感を持ちつつも、どうにか一歩目を踏んでみようという若者が増えました。
また、活動に関わる大人も増え、大人側の若者とのコミュニケーションのとり方にも変化をみることができました。
大人側はどうしてもこれまでの社会人生活の中で、肩書きやミッションを中心としてコミュニケーションをとってしまいがちですが、それでは若者側は引いてしまったり、本音を話せないケースがあり、始めの頃は大人からのコミュニケーションのとり方の悩みが多く見受けられました。
活動を積み重ねる中で、相手を評価したりするのではなく、同じ事柄に取り組みながら、着飾らないでコミュニケーションする中で、若者と大人が勝手に仲良くなれていけた印象があります。
定量的な成果については、指標開発を行ったために、若者側の変化はより可視化できました。今後は一人ひとりの変化をより定量的にみることができて、活動にも反映できるように体制をつくります。また、大人側の変化については測定してこなかったため(若者にフォーカスしすぎて意識出来ていなかった)、次年度は体制づくりをしていきます。
団体運営という点では、指標開発と団体の活動整理ができたことが大きいです。
指標開発については、若者の変化として大事に見ていきたい観点として、自分に対しての自身的な部分と、他者との関係構築という大きな2点を置くことができ、中項目としても全15項目で変化を観察する体制が見えてきました。若者が変化した際、その大項目のどんな点が変化しているのか、以前より言語化して周りで支援して頂いている方に伝えやすくなったと感じています。
この指標開発を進める上で、団体としてのあり方、目指したい方向性を再整理したり、事業構造自体どうあるべきか、1年間を通して、経営陣だけではなくスタッフ全員で考える機会を多く持つことができました。
年度はじめの頃は、団体としての活動メッセージがスタッフ内でうまく浸透していなかったために、事業間連携がうまくできていなかったところもありました。そのことによる団体としての若者への機会損失もあったり、周りにいてくれるオトナリサンの活動参加の体制がうまくつくれていない課題がありました。
これを年間を通して何回もワークショップやみんなで活動を考える機会をつくることができたことで、各々の担当の活動を各々がつくりつつも、お互いの活動を意識しつつ、若者を中心においた時に、みんなでどんな機会があるといいか、考えて連動できる体制ができつつあります。
これは部活動という事業だけに限らず、サンカクシャにとっては大きな成果と感じています。
1年間の総括&次年度に向けて
肩書を外して、若者と大人がいかに仲良くなれるか。その先に「人とのつながり」「しごと」「すまい」の大きく3つの軸を中心に、血縁を超えて生きていくを支え合える関係性、コミュニティづくりを引き続き進めていきたいと考えています。
その関係づくりで大事なことはアジェンダのある会話ではなく、雑談のような自由度の高い機会の中で、ひとり一人が素の自分に近い状態でお互いのことをより理解していけるような関係づくりを進めていきます。
この関係性をまずはスタッフ感同士で取れる関係性を築き、若者、オトナリサンと徐々にそのような関係がつくれるように活動を展開したいと考えています。この関係性こそとても重要で、ここまでいくと、各々が自発的に相手に対して「何か貢献したい」という感情が芽生えるし、各々が自発的にいろんな活動をしていきたいと思って活動してくれるのでは、と考えています。
ここに重点を置き、部活動のような枠にはめて活動をつくっていくのではなく、関係や感情から活動が発生していくように、その仕組みづくりに挑戦したいと考えています。
昨年度は0に近い状態から、スタッフ中心に活動を設計して動きがでていく体制を整える期間でした。今年度については、スタッフ、若者、オトナリサンの垣根を超えて、各々の興味関心をベースにみんなで活動をつくっていく体制づくりに挑戦します。
荒井 佑介さん
1989年埼玉県出身。約12年前より、ホームレス支援や子どもの貧困問題に関わり始める。生活保護世帯を対象とする中学3年生の学習支援に長く関わっていたが、高校進学後に、中退、妊娠出産、進路就職で躓く子達を見たことから、NPO法人サンカクシャを立ち上げる。