助成団体紹介
2022活動報告|病気のあるこどもの創作・表現の機会を提供する「こどもアーティスト」ワークショップ
認定特定非営利活動法人 ラ・ファミリエ
助成期間を終え、活動の成果をご報告いただきました。事業の詳細などは以下からご覧ください。
2022年事業紹介|病気のあるこどもの創作・表現の機会を提供する「こどもアーティスト」ワークショップ
事業の目的 事業の内容 事業の結果 事業の成果 自己評価 課題および今後の展望
事業の目的
認定NPO法人ラ・ファミリエでは、病気のあるこどもとその家族の悩みに寄り添い、相談支援や相互交流支援、きょうだい支援や学習支援などを行っている。
病気で入院や自宅療養をしているこどもたちへの学習支援の意義は、学習空白の補填だけではなく、病気や治療から離れて自分らしい時間を過ごすことができ、年齢に合った学習やおしゃべりなどの「こどもらしい」時間が、生活意欲や成長発達につながると考えている。
しかし、ラ・ファミリエでの学習支援は、主要5教科がメインで、美術や音楽などの実技教科ができていないのが現状だった。これらの創作・表現活動は、言葉以外の自己表現の機会として、こどもたちの成長に必要である。
また、新型コロナウイルスの影響で、病院の面会自粛や退院後の登校自粛が続いている。こどもたちは家族や友人等と会う機会が減少し、孤独感を抱えていたり、単調な日々のルーティーンの繰り返しで経験不足に陥っていたりすることもある。
よって、病気のこどもたちの成長発達に不可欠な経験の機会として、実技教科、特に図画工作・美術や音楽などの創作・表現活動を病棟内で実施することが必要であると考えた。
事業の内容
大きく3つの取組を実施した。
①プロのアーティストと協働した病棟内等でのアート活動
松山市近郊の病院2カ所とラ・ファミリエ事務所内にて、プロのアーティストと協働したアート活動を実施した。活動内容については、入院により経験しにくいこと、病気による活動制限があっても楽しく表現活動ができ達成感が得られること等を、アーティストや病院職員等と協議しながら決定した。
病棟は面会制限があったため、アーティストのレクチャー動画を撮影・編集し、その動画とアート材料を病棟に届ける形を取った。
②こどもたちの作品の展示会、理解啓発活動
①で作られた作品たちの展示会を、愛媛大学医学部附属病院と愛媛県美術館にて開催した。
また、実施したアート活動や展示会について、団体HPやFacebook、公式LINE、月刊便りにて活動報告を行った。
③入院中の創作表現活動に関するアンケート
アート活動に参加した病気のあるこどもたちとその家族、当法人に登録されている方を対象に、入院中及び自宅療養中のアート(創作表現)活動の機械の有無、希望するアート活動(美術、音楽、ダンス等)などについて、紙面またはWebによるアンケートを行った。
●アンケートの内容
・アート活動の感想(楽しかったか、参加して良かったか)
・好きなアート活動(文化・芸術活動)
・入院中にアート活動をする頻度
・入院している間にもっとやりたい、やってみたいアート活動
・こどもたちへのアート活動の必要性(保護者より)
事業の結果
①プロのアーティストと協働した病棟内等でのアート活動
a)富久千愛里先生の富久だるま
愛媛県内でだるまや起き上がりこぼしを製作している富久千愛里先生に講師をお願いし、病棟のこどもたちに、だるまの作り方を教える動画と材料セットを届けた。
病棟のこどもたちは、看護師さんと一緒に、動画を見ながら だるまの絵付けにチャレンジした。合計13名の病棟のこどもたちが、だるまの絵付けに参加した。

b)ホリグチさん先生の拭子人形
愛媛県のアーティストであるホリグチさん先生に講師をお願いし、病棟のこどもたちに拭子人形の作り方を教える動画と材料セットを届けた。病棟のこどもたちは、動画を見ながら、拭子人形を作った。合計14名の病棟のこどもたちが、拭子人形づくりに参加した。

c)早崎雅巳先生の抽象画
愛媛県のアーティストである早崎雅巳先生に講師をお願いし、クレヨンの抽象画を教えてもらい、動画を作成した。ラ・ファミリエ地域こどものくらし保健室に集まったこどもたちが動画を見ながら、抽象画にチャレンジした。
d)アテナルミエール たまいえりこ先生の傘のシャンデリア
愛媛県松山市にこどもの自由な創作アトリエArtspaceアテナルミエールを開業している、たまいえりこ先生に講師をお願いし、ビニール傘で作るシャンデリアの作り方を教えてもらい、動画を作成した。

e)ラ・ファミリエ アートDays!
ラ・ファミリエ地域こどものくらし保健室にて、病気のあるお子さん等を対象に、アーティストさんのアートにチャレンジできる期間を設けた。
「ラ・ファミリエ アートDays!」では、富久千愛里先生、ホリグチさん先生、早崎雅巳先生、たまいえりこ先生の4名のアーティストさんのアートのうち、希望するアートにチャレンジした。期間中に延べ30名がアートに参加した。
②こどもたちの作品の展示会、理解啓発活動
病棟や地域こどものくらし保健室でのアート活動により、合計で57個の作品ができた。その作品たちの展示会を、愛媛大学医学部附属病院と愛媛県美術館にて開催した。
「つながる ふれあう かんじる 病気のあるこどもの創作表現ワークショップ作品展覧会」
a)愛媛大学医学部附属病院での展示会
・日時:2023年2月10日(金)〜2月26日(日)
b) 愛媛県美術館での展示会
・日時:2023年2月28日(火)〜3月5日(日)
・期間中に340名ほどの方が来場し、こどもたちのアート作品や病気のあるこどもたちの創作表現活動に関するポスターを観覧した。愛媛県美術館での展示では、多くの人に来場してもらえるよう、展示と並行してアーティストさんのワークショップも行った。
また、アート活動や展示会について法人HPや公式LINE、Facebook、月刊便りで報告し、理解啓発を図った。



③入院中の創作表現活動に関するアンケート
アート活動に参加した病棟、また当法人登録の病気のあるこどもたちとその家族を対象にアンケートを配布し、患児・患者16名、保護者23名、また病棟のスタッフ3名から回答が得られた。
アンケートより、アート活動は「こどもの成長」「入院生活における心の安定」「創作の楽しさ」「こどもの経験」などのために必要であるという回答が得られた。
事業の成果
①入院しているまたは自宅療養中のこどもたちが、普段触れる機会の少ない創作・表現活動に参加したことで、自由に発想しそれを表現することの楽しさを実感できた。この経験ができたことで、こどもたちそれぞれの今後の創作・表現活動への意欲向上へ寄与し、その活動の積み重ねがこどもたちの成長発達につながると考える。
②こどもたちや保護者の実際の声から、入院中の創作・表現活動の実際の実施状況と「創作・表現活動は必要である」という言葉などを得ることができ、ニーズに対して実際の活動が追いついていないという課題、今後の活動の必要性が示唆された。これらが明らかになることで、今後の病棟での活動の継続性に寄与することができ、また、他の地域での活動の普及のための根拠となり得ると考える。
③入院中にアートを作り、退院後にその病院での展示会を見に来たこどももいた。展示会の存在が、表現したものを誰かに見せる・伝えるといった経験の達成感、また自己肯定感に繋がったと考える。また、展示会における理解啓発により、今まで病気のあるこどもの生活等について意識していなかった地域の方の興味・関心が生まれる一助となったと考える。
自己評価
病棟と連携を図りながら、こどもたちにアートを届けることができた。また、展示会には想定を超える来場者が訪れ、多くの人に病気のこどもたちの存在やアート活動の必要性について周知啓発することもできた。病棟とのつながりもでき、これからの活動の継続性ができた1年間だったと考える。
課題および今後の展望
こどもたちから「入院中にやってみたい」創作・表現活動についても教えてもらった。こどもたちの経験の機会を絶やさない、積み重ねて成長発達につなげていく、そしてこどもたちに楽しいことを届けていきたい!ので、活動は今後も継続していきたいと考えている。
檜垣 高史 さん
小児科医として病気のあるこどもやご家族と関わる中で、こどもたちやご家族には多くのハードルがありそれぞれ個々にあった支援が必要であると感じ、現在の活動につながっている。
愛媛大学大学院医学系研究科 地域小児・周産期学講座 教授
認定特定非営利活動法人ラ・ファミリエ 理事長
愛媛大学 移行期・成人先天性心疾患センター センター長