公益財団法人ベネッセこども基金

助成団体紹介

最終活動報告|公営団地集会所を活用した寺子屋とアウトリーチ型学習支援による地域協同システムの構築

特定非営利活動法人 暮らしづくりネットワーク北芝

経済的困難を抱える子どもの学び支援

2020~2022年度の助成期間を終えられた「特定非営利活動法人 暮らしづくりネットワーク北芝」より、3年間の取り組みと成果についてご報告いただきました。

事業目的
子ども達が放課後の生活場面の中で学習習慣を身に着け、地域や保護者がそれを応援し、そしてそれらの世帯が地域で孤立することなく進路選択時の豊かな自己選択を可能にし、学校や住民が理解し支え合う体制を構築する。

事業紹介|地域で暮らす人たちが「出会い・つながり・元気」を求めて



暮らしづくりネットワーク北芝さんは、地域の子どもたちに対して、従来型の学習内容に特化した支援ではなく、いかに地域住民・学校・保護者・行政が協働して効果的&持続可能な支援をし続けるか、を目指して活動をされてきました。ロジックモデルを活用し成果指標を明確にするなど、着実な進行と見える化で事業を進めていらっしゃいます。こどもを中心に、大人たちが手を取り力を出し合うモデルを作られた暮らしづくりネットワーク北芝さん、今後のご活躍も期待しています。



1年目の活動内容と結果 2年目の活動内容と結果 3年目の活動内容と結果 課題および今後の展望 3年間の助成を振り返って感想

1年目の活動内容と結果

<活動内容>
これまでの地域での教育活動の素地はあったものの、本事業を1から組み立てるために奔走した一年となった。

①こどもの学習支援に関しては子どもたちの利用への検討、保護者との面談、学習の到達度のすり合わせ、教材開発などを通して子どもたちの学習の場への定着をはかった。

②運営委員会に関しては発足にあたり特に行政部局への丁寧な説明共有を行った。また運営委員会でも子どもたちを福祉的な観点で見つめる作業をともに検討したり、先行事例の学びなど丁寧に開催を重ねた。

③サポーターに関しては人材の安定的確保にむけ、大学関係での発信、個別つながりの中から地域の大学年代層への声掛けを実施、導入にあたり研修などを実施した。

<結果>
①学習支援
・団地集会所を会場利用し、個別(1対1)~小集団(サポーター1名に対して子ども2名)の学習支援を開始。17時~19時の時間に週4回、9家庭17名(近隣の小学校1年生から中学校3年生まで)が参加している。こちらが想定していたドロップアウトなどなく、子どもたちの多くは週に一度のてらこーちを意識して参加することができていた。
・地域住民宅で小集団学習を実施し、地域で応援する仕組みを試行的におこなった。
・保護者懇談では学習の様子をフィードバックし、家庭での様子を聞き取り、今後の学習について方向性をすり合わせる機会となった。

②運営委員会
運営委員会では本事業の意味や目指す像の共有から始まり、各先進地事例の学習、事例検討等を通した福祉課題へのアプローチ方法、保護者アプローチについて、などを議論した。これらを通して、個別の学習課題の背景にある家庭・養育環境、保護者の学歴、学校での課題など、学習を通して見えてきた福祉課題に対して、学校と保護者、地域との連携のありかたについて一緒に考える機会を持てた。

③サポーター活用
・大学等へ呼びかけ及び登録サポーターへの説明会を実施した。以降追加募集も行い、その都度説明会を実施。その結果15名の登録を確保した。うち11名が実働している。
・サポーターの交流会を実施し、お互いの学習の様子や学習方法、悩みや成果について共有する場をもった。
・研修会として「部落問題と教育」「発達障がいについて」をテーマに外部講師を招いて学ぶ場をもった。

<アウトプット>
・こどもたちの状況、情報を管理するための管理表
・こどもたちのモチベーションアップのためのスタンプシール
・サポーター募集チラシ

スタンプシール

2年目の活動内容と結果

<活動内容>
学習支援自体は、1年目と変わらず実施し子どもたちの学習習慣の定着を追っていった。この1年も新型コロナの影響もあり、オンラインでの実施と併用型で進めた。
保護者会も実施している。運営委員会は委員全体で集まる回数は減り、日常の連携へと移行していく1年となったが、運営委員会でのつぶやきからセミナー実施へとつながった。
また、2年目には本事業の成果指標策定にも取り組んでいる。サポーター活用に関しても大学関係への呼びかけ、登録サポーターへの研修や視察を実施した。

<結果>
①学習支援
・実施の枠組みは変化なし。10家族16名の参加があった。(2名引越しの為終了、受験終了のため3名終了)
・保護者会では、日常の子育ての中の困りごとや、てらこーちを始めてからの子どもたちの様子や変化など、たくさんのエピソードが聞けた。

②運営委員会
・ロジックモデルを活用した評価指標を作成し、それを活用するためのデータ収集・分析のために、3月よりてらこーちの日々の記録案をつくった。
この指標をつくるプロセスの中でてらこーちに関わる職員やサポーターが、目指す像や状態像を議論、言語化できたことは貴重な機会となった。
・運営委員会での特に学校現場からの困りごとから、学校教育現場と地域との連携をテーマにセミナーを実施した。(武田緑さん講師「色とりどりの地域教育~みんなで描くこどもの育ち~」)学校と地域とが連携する実践事例や学校現場が抱える課題について参加者同士(教職員、地域住民、行政職員)でともに学び、意見を交換できる場となった。

③サポーター活用
・講師を招き、学習についてや子ども達とのかかわり方についてのセミナーを実施。事例検討なども用いながら学習の場に至るまでの子どもの周辺で起こっていることや背景などを具体的に考えられる機会になった。
・先進地視察として箕面市で活動をすすめる「NPO法人あっとすくーる」を見学。どのように学習を進めているのか、サポーターがどんなフォローをしているのか、比較しながら具体的な話をすることができた。

サポーター視察の様子

<アウトプット>
ロジックモデルイメージ図


3年目の活動内容と結果

<活動内容>
枠組みは例年どおり変えず、2年目に実施した成果指標づくりに基づいた日々の振返りフォームを4月から刷新。
助成金終了後を見越した議論の場を多くもった。また、保護者会で次年度以降の取り組みについて意見交換を実施した。

<結果>
成果指標をもとにデータが蓄積されることで、こどもの変化を追いやすくなった。
今年度は、助成終了後にどのような形で継続するのか、保護者や地域関係団体、行政関係との意見交換の場を多く持った。
3年間の実践の中で、本事業の意義が十分伝わっていたこともあり、特に地域団体からの意見としては、学習を通して子どもたちの選択肢を増やしていくこの取り組みは、実際は隣保事業ではないが「隣保事業的」である「隣保機能」を有しているとの評価もあり、次年度以降の継続に関しても理解を得ることができた。

保護者との意見交換でも、てらこーちに期待している機能がそれぞれ(当たり前だが)違うこと、3年間での子どもの変化など話を聞くことができた。てらこーちの良さを生かしどういった形で実践を残せるのか。保護者や地域、行政それぞれ単独で負担するのではなく、それぞれが協働的に参画する仕組みで継続していく方針を打ち出すに至った。

学習の様子

課題および今後の展望

こどもたちが学習に向かうフェーズには、「勉強どころではない」「勉強したくない」「勉強少ししてもいいかな」「勉強がんばりたい」簡易に言えばこういった段階があり、てらこーちでは「勉強したくない」層を少しでも「勉強ちょっとやってもいいかな(後ろ向きでない状態)」に向けるところにフォーカスして実践してきた。
そのためには学習に向かう前の段階「安心な場と思える」ことやサポーターとの信頼関係の構築を重視してきた。

3年間で子どもたちがてらこーちを自分の居場所と感じ、家でも学校でも出ない話をサポーターの大学生にはしている様子を見ると、第一段階はクリアしたのではないかと感じる。
こういった結果としては見えづらい変化を、保護者と共有したり、関係機関に意義を伝える際に難しいが大事にしてきた。また、学習という切り口で保護者と子どもを真ん中に話ができるということもこの事業をやる大きな意味ではないかと感じる。

一方で学力という観点でいうと週に一度のてらこーちだけで十分なはずはなく、学校での基礎学力の底上げはもちろん、家庭での声掛けや押出しも不可欠になる。このあたりを丁寧に共有しながら進めることができるかという点は、継続していくにしても課題になる。

3年間の助成を振り返って感想

3年間あっという間だったが、とても学びの多い3年間だった。
単なる学習支援の現場運営だけでなく、地域で協働していける仕組として運営委員会を発足し関係機関含めて支援、協働のあり方を協議できたことは今後の継続運営にも大きくプラスになった。これを機に学校との日常での連携でも、学習に関する情報共有や検討にスムーズに入ることができた。

また2年目に約半年間かけて実施した成果指標づくりに関してはベネッセこども基金事務局の丁寧な伴走がなければ実現できなかった。
先の見えない指標づくりのプロセスの中で、「子ども」「保護者」「サポーター」ごとにどういう状態をイメージしていくのか、を細かく言語化した経験も、この事業を担う職員にとって(大変だったが)形に残せた結果となった。
また、日々の現場でのデータ集約方法にも反映することができたこと、今後の事業運営する際の軸がはっきりとしたことなども大きい。

正直にいうと、助成金を活用するという"縛り"がなければここまで丁寧に細かく事業運営できてたかというとそうではないと感じる。
運営に関わる機関との連携、事業運営の成果軸を意識したこどもの情報の積み上げ、変化の定点観測、最前で関わるサポーターの丁寧なフォロー...などは、どんな形での学習支援においても実践していくことが重要だと感じるし、この3年間でつくってきた協働の仕組みを活かしながら助成終了後も継続していければと考えている。



特定非営利活動法人 暮らしづくりネットワーク北芝

事業担当者

埋橋 美帆 さん

まちづくりの拠点となるコミュニティスペースづくりや多様な人が集えるカフェのたちあげ、イベント企画等の企画開発業務に従事。2015年より連繋団体であるイーチ合同会社企画開発業務に携わったのち、2018年より指定管理施設である「らいとぴあ21(箕面市萱野中央人権文化センター)」にて組織マネジメントや地域教育部門コーディネーター、総合生活相談事業の相談員を務める。

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