助成団体紹介
最終活動報告|参加及び学びの意欲が低い子ども若者を支援するためのモデル開発事業
特定非営利活動法人 サンカクシャ
2020~2022年度の助成期間を終えられた「特定非営利活動法人 サンカクシャ」より、3年間の取り組みと成果についてご報告いただきました。
事業目的
自立への意欲が低い学習性無力感を感じている若者への支援のステップ及び体制を構築したいと考えている。
若者たちが社会参画に向かっていくために、他者と交流しながら体験を得ることのできる部活動を安定して継続できる体制を構築する。
部活動を通じて、好きなことや楽しいと思えることに対して主体的に動けるような環境や、今はまだやりたいことがなくても、誰かの好きなことや楽しいことに触れることで、自分自身の心のうちと向き合うきっかけを提供し、具体的な社会参画支援への橋渡しを行う。
サンカクシャさんは、若者世代の「学習性無力感」に着目し、若者目線で自分の「好き」から社会とのつながりを育てていく事業を行いました。成果の見えにくい分野ですが、成果の指標化にもトライ。コロナ禍の3年間でしたが、支援の仕方も、指標開発も非常に先駆的な、モデル性の高い取り組みとなりました。今後もサンカクシャさんの活動に注目していきたいと思います。
1年目の活動内容と結果 2年目の活動内容と結果 3年目の活動内容と結果 課題および今後の展望 3年間の助成を振り返って感想
1年目の活動内容と結果
<活動内容>
部活動を大きく、IT、文化部、運動部に分類し、それぞれが最低月1回以上活動ができるような体制を構築する。
6部活が月1回なので、月6回の活動が安定的に運営できるような体制を整え、どのようにしたら若者が継続して参加するのか、どのような体制であれば、安定的に運営ができるのか、運営体制に関する知見を溜めて、仕組み化の土壌を作る。地域や企業との関係作りや連携の体制も合わせて構築。
<結果>
初年度は、12の部活が立ち上がった。(タイピング部、デザイン部、ウェブ広告部、動画編集部、英語部スペイン語部、オンライン料理部、フットサル部、カフェ体験部、エクセル部、ライティング部、ボードゲーム部)
2年目の活動内容と結果
<活動内容>
部活動がもたらす学びの効果を調査研究し、意義や成果を明らかにすると同時に、オンラインで交流と学びを深められるコンテンツの開発及び運営体制の確立する。
・オンライン交流プログラム
ゲームや進路相談など、オンライン上で、若者と社会人が交流できるプログラムを開発する。
・オンライン学習プログラム
新しいことにチャレンジしてみたいという若者に対して、社会人と一緒にPCスキルやITツールの使い方、デザインなどを学ぶ機会兼交流の機会を設ける。
・指標開発
成果や効果を可視化し、共感者や連携先を増やすために、効果検証レポートの作成を行う
<結果>
オンライン英会話4回、オンライン交流会3回、オンライン居場所32回/参加人数のべ124名 レポート2回
他社評定(大人視点)のべ193名分、自己評定(若者視点)のべ34名分取得
3年目の活動内容と結果
<活動内容>
若者たちが安心して他者と交流しながら体験を得られる「部活動」を安定かつ継続的に実施できる体制の構築。
活動実施の際のコミュニケーションの場として活用できるコミュニケーションツールの整備も並行して実施する。 また、プログラムの効果を可視化できる効果検証レポートを作成し、その活用方法について検討する。
<結果>
▼部活動について
職員やボランティア(以下オトナリサン)、若者の声からプロジェクトを発足。 アクティビティが増えていくに従って、ジャンル分けがなされていき、それらが「ブカツ」としてサンカクシャのコンテンツの一形態となって継続していくことを想定。
▼指標開発について
若者の状態を、大きく2つの観点「自己認識(7項目)」「他者との関係性(8項目)」から、スコアにして表現する指標を開発。 年に2〜3回のアンケート調査を実施し、各プログラムの参加状況と照らして効果検証を行うことを想定。 2022年度内では2回のアンケート調査を実施。
▼コミュニケーションツール開発について
「OSIRO」を活用したオンラインコミュニケーションが可能な場を提供。主にサンカククエストや、イベント実施の際に若者とスタッフ、オトナリサンの3者間の連絡ツールとして活用。
<事業の成果と評価>
▼部活動について
ユニーク数41名、のべ209名の若者が活動に参加。アート体験や映画鑑賞、読書会など、継続的に実施できる活動が生まれたほか、農体験キャンプやeSports施設でのゲーム大会など、非日常を強く体感できるイベントを実施。
▼指標開発について
第4回では35名の若者の自己評定を取得。他社評定は54名分を回答。 第5回では33名の若者の自己評定を取得。他者評定は43名分を回答。 他者評定の推移を見ると山なりの形で推移していることが見てとれた。
一方で若者の自己評定はジグザグに変化しており、本人が前回調査からの経過として回答していない、もしくは本人の心の中でより一層の葛藤を繰り返している可能性が示唆された。
▼コミュニケーションツール開発について
51名の若者が登録している。主にサンカククエストやイベントの告知及び参加メンバーの連絡ツールとして活用。 SNSなどでは公にできない気持ちを綴り置く場として活用する若者が増えてきている。
課題および今後の展望
▼部活動について
この1年間の活動全体を通して、サンカクキチ(上池袋拠点)のような特定の空間としての居場所だけでなく、その周囲に活動単位で参加できるコンテンツが散在していることの有用性を感じるに至り、部活動の意義を改めて認識することができた。また同じ活動に集中して取り組むことで、参加者の間に共通の体験と認識が生まれ、関係構築を円滑に行うことができた。今後は団体内の活動のバリエーションを増やすことと並行して、地域のコミュニティなどと連携しながらサンカクシャ以外にも若者たちが参加できる活動の場を増やすことでより広義の居場所の拡張を行なっていく予定。
▼指標開発について
過去5回の実施を経て、一定の傾向を観測することができた一方で、若者たち自身が感じている自身の変化という点においてはこのデータをどのように活用していくかは引き続き議論を要すると考えている。 若者たちの自己評定は良くも悪くも回答したその時点の状況が強く反映されるため、ある指標の数値が3から2に推移していたとして、これが必ずしも下がっていると判断できない。(五段階評定の天井感覚がその時々で上下するため)よって自己評定の推移を見て若者の状態を断定することはできないため、現場で関わっているスタッフの感覚を中心に据えながら、補完的に活用していくのが良いのではないかと思われる。
▼コミュニケーションツール開発について
当初想定していた3者間でのオンライン上での交流を中心とした活用にはまだハードルがあると感じている。LINEをはじめとしたSNSと比較して一つの機能に特化していない点や、Android端末に対応したアプリケーションがないことなどが原因として考えられる。一方でイベント周知の機能は順調に活用できていることから、今後はこの機能を中心とした活用を進めていき、イベント実施のバリエーションを増やしながらコミュニケーションの接点を増やすことでオンラインでの交流ツールとしての側面を整理していく。
3年間の助成を振り返って感想
コロナ禍という未曾有の状況下において、試行錯誤の繰り返しでした。オンラインでの交流は、頻度と参加ハードルの低さという点では非常に有用な側面がありつつも、関係の深さという点においてはオフラインに優位性がありました。特に3年目以降はコロナ禍が一定の落ち着きを見せたことでオフラインでの活動を充実させることができました。生活困窮を支援するにあたって、取りうる選択肢を増やすという点において体験から学びを得ることには非常に意味があると考えています。
体験の不足や機会の貧困は、想像以上に深刻な課題です。土台となる知識や体験を礎として社会参画に臨むべきところ、その土台がないとなると取れる選択肢はかなり狭くなってしまいます。子どもと大人の間にいる若者たちにとっては、体験を積む時間ももちろん必要だけれど、それ以前に生きていくために必要な稼ぎを得なければ生活を維持できず、結果として必要な体験を得ることができないまま、苦境が続いてしまいます。
今回の助成で、居場所や居住支援から社会参画の橋渡しとなる活動を一つ作ることができました。大変感謝しております。
荒井 佑介さん
1989年埼玉県出身。約12年前より、ホームレス支援や子どもの貧困問題に関わり始める。生活保護世帯を対象とする中学3年生の学習支援に長く関わっていたが、高校進学後に、中退、妊娠出産、進路就職で躓く子達を見たことから、NPO法人サンカクシャを立ち上げる。