公益財団法人ベネッセこども基金

助成団体紹介

2024活動報告|長期入院中のこどもたちの内面を豊かに育む映像制作ワークショップの実施

特定非営利活動法人 ポプルワークス

病気・障がいを抱えるこどもの学び支援

助成期間を終え、活動の成果をご報告いただきました。事業の詳細などは以下からご覧ください。

2024年事業紹介 病院や自宅等で療養生活を送るこどもたちの内面を豊かに育む、映像制作ワークショップ実施事業

事業の目的 事業の内容 事業の結果 事業の成果 自己評価 課題および今後の展望

事業の目的

このワークショップは、長期入院中のこどもたちがチームを組んで映像制作のさまざまなプロセス[企画、取材、撮影、構成、発信]を経験することを通し、自己発見力・表現力・コミュニケーション力・実現する力・人とつながる力などをはぐくむことを目的としています。

これまで私たちは、映像制作ディレクターとして、児童精神科をはじめとしたさまざまなこどもたちのこころの現場に関わってきました。感受性が豊かで繊細であるがゆえにしんどさを抱えるこどもたちも多く、その分、自分の内面を表現できたときの喜びや成長も大きいことを感じてきました。繊細さを強みにできる機会づくりに貢献したいと考えています。

事業の内容

[実施先]大阪市立総合医療センター 児童青年精神科
[実施時期]7月・8月・9月(ワークショップ全15回、発表会1日)
[参加者]入院中のこどもたち 合計8名
[講師]プロの映像制作ディレクター・撮影技術者・プロデューサーなど

大阪市立総合医療センター。ワークショップの実施先は、児童青年精神科です

事業の結果

Aチーム・Bチームに分かれて、それぞれ映像コンテンツを制作。こどもたちの企画会議の結果、制作テーマは以下の内容に決定しました。

Aチーム:「病院のごはんドキュメンタリー」
栄養部に取材し、病院のごはんがどう作られているのかを取材する。「ごはんをCMのようにおいしそうに撮りたい!」とのリクエストも。
Bチーム:「病院で働くさまざまな人にインタビュー」
小児整形外科医、保育士、事務職員、栄養士、看護師といった、こどもたちが「気になる」多様な職種の方々にインタビューをし、それぞれの思いに迫る。

[スケジュール]
・7月 説明会(こどもたち対象...2回、保護者...1回)
・8月初旬 映像制作ワークショップ開始
1)企画
2)取材
3)撮影
4)構成・編集
5)試写・内容検討
6)ナレーション入れ
・9月中旬
7)映像発表会開催
・10月 ふりかえり(スタッフ)

Aチームのごはん撮影用テーブルセッティング。背景は、たくさんの布や置物から自分の好きなものを選んで、思い思いにアレンジ。個性あふれる仕上がりになりました

事業の成果

ワークショップの最初の時期は、うつむいて視線を合わせることが難しく発言をためらっていたこどもたちも、制作活動を積み重ねる中で自分の意見をそれぞれの形で表現できるようになっていきました。

たとえば、「インタビュー」では、取材相手が心地よく話せる関係性づくりや環境づくりが大切です。そこで、インタビューが核となるBチームでは、こどもたちが、取材をお願いしたい相手にメッセージカードを書き、「なぜ取材させてほしいと思ったのか」、それぞれの思いを伝えた上で取材依頼をした結果、温かくご了承を戴き、協力していただけることになりました。

インタビュー本番の日までは、病棟スタッフの方々がインタビュー練習の相手を引き受けてくださり、こどもたちはあらかじめ考えた想定質問のほか、相手のお話を聞いた上で掘り下げる質問、気持ちのやり取りなど、試行錯誤しながら経験を重ね、みずみずしいエピソードを引き出すコミュニケーションのコツなどを体得していきました。本番当日は、緊張しながらも無事にインタビューを終えることができ、取材相手の方々からも喜んでいただくことができて、こどもたちはほっとしたような笑顔を見せていました。

続く 「撮影」プロセスでは、チームワークや協力が欠かせません。たとえば、Aチームの病院食の撮影では、映像全体を見るディレクター、撮影をする人、食べ物を撮るときのターンテーブルを回す人、明るさを足す「レフ板」を持つ人、食べ物をお箸ですくう人などたくさんの役割があるので、だれに、なぜ、何を、どのタイミングでお願いし協力を得られれば、その映像を実現できるのか?をしっかり考え、コミュニケーションをとることが大切です。
こうして、仲間に声をかけたり助け合ったりする機会を通して、こどもたち同士の会話やコミュニケーションが増え、最初のころは静かだった休み時間が、笑顔や笑い声であふれるようになりました。

撮影期間中、特に印象的だった出来事があります。Aチームの、栄養部の職員へのインタビュー中に、こどもたちが、当初の予定にはなかった「オムライス」に関する質問をして、新たなエピソードを引き出すことができました。
その後編集段階を経て、全体の映像を試写して検討した結果、こどもたちから「どうしても、オムライスを追加撮影して映像に入れ込みたい!」との熱烈オファーが。追加撮影は、業界用語では[ツイサツ]と言ったりしますが、日数も手間もコストもかかることから、慎重に考える必要があります。

そこで、次のオムライスの日はいつなのか?スケジュールとして可能なのか?を献立表から調査し、限られたお昼の時間に、だれのオムライスを、どのタイミングで、だれが撮るのか?などを、こどもたち主体で議論し、しっかり考えた上で、晴れて実現できるはこびとなりました。
だれに指示されたわけでもない、こどもたち発信の、こどもたちの思いが実を結んでの、ツイサツ・オムライス。病院に差し込むおだやかな自然光を生かしながら撮影するこどもたちの姿が、とてもりりしく見えました。

こうして迎えた、集大成となる病院での映像発表会。こどもたちは大勢のお客さんの前で、自分たちの言葉で堂々とメッセージや思いを発表する姿を見せてくれました。中には、今回の映像制作を通して、自身がどういう点で成長したと感じているかを、言語化して伝えることができた子もいました。
発表を見て、感動して涙する病棟のスタッフさんや、こどもたちの姿に感激するご家族の姿もありました。そして、この日の、こどもたちの緊張と自信に満ちた表情を、忘れることはできません。

インタビュー内容に合わせて、後日オムライスを追加撮影!撮影にも慣れ、短時間でテンポよく撮りきる頼もしい姿も(写真を一部加工しています)

自己評価

こどもたちの表情がとても豊かになり、コミュニケーション力が伸び、何か思わぬことが起こった時の対応力も上がり、舞台度胸がついたような頼もしさも見えて、その成長にとても感動しました。映像制作という、「わくわくする入口」と「多くの人へと発信する出口」づくりに、私たちメディア制作者が貢献できることを実感する機会ともなりました。

病院内での活動や取材撮影にあたり、児童青年精神科のソーシャルワーカーの方が間に入って院内各部署との調整を行ってくださいました。また、管理職でもある主治医の先生が内容の相談にも主体的に対応検討してくださり、病棟のみなさんで応援してくださったため、複雑なプロセスもスムーズに進めることができました。会議には、病棟のさまざまな職種の方々や、総務課や栄養部など他部署の方々も入ってくださったので、連携しながら進めることができ、とてもありがたく心強く思いました。

ワークショップや発表会に参加してくださった職員の方々からは、「こどもたちとの話題が増えた」「コミュニケーションが深まった」「こどもたちと関われて、ますます仕事への意欲や実感が高まった」といった、うれしいお声も聞くことができました。こどもたちを中心とした活動が、院内のチームのつながりを強くする一助となれることを感じるとともに、いのちと向き合う医療現場の皆様の日々に、私たちが外部ならではの立場として貢献できることを、これからも追求していきたいと、思いを新たにしました。

課題および今後の展望

大変ありがたいことに2025年度も採択していただけることとなり、さらに広がりのある展開へと歩みを進める段階に移りました。ベネッセこども基金ご関係者の皆様、快く受け入れてくださった病院の皆様、そして集まってくださったこどもたちやご家族に、あらためて感謝申し上げます。
2025年度は「こどもたちの退院後」を見据えた人間関係づくりや環境調整にもフォーカスし、映像制作ワークショップを通して社会資源との接点を創出することや、助成終了後にも持続できるネットワーク構築にも取り組んでいきたいと考えています。

代表理事

西澤道子 さん

映像ディレクター・社会福祉士・精神保健福祉士。長年NHKのディレクターとして、教育エンターテインメント番組や、こども・若者をとりまく社会課題に関するドキュメンタリー番組など、多様な番組の制作を担当。NHKを退職後、メディアを活用して温かな社会づくりを目指そうと当法人を設立。福祉・医療・教育現場と連携したメディア活動を展開している。

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