助成団体紹介
2024活動報告|アーティストによるワークショップを通じた病児の創造的体験の場づくり
特定非営利活動法人 芸術家と子どもたち
助成期間を終え、活動の成果をご報告いただきました。事業の詳細などは以下からご覧ください。
2024年事業紹介 アーティストによるワークショップを通じた病児の創造的体験の場づくり
事業の目的 事業の内容 事業の結果 事業の成果 自己評価 課題および今後の展望
事業の目的
・入院や通院のために楽しい体験の機会が少なくなりがちなこどもたちを対象にした、アーティスト・ワークショップの開催や動画コンテンツ配信を通して、こどもたちの心のケアを行いました。そして、こどもたちの表現力、想像力、創造力等を刺激し、潜在的な可能性を引き出すとともに、自己肯定感や前向きに生きる力、主体的に生きる力を育成し、小児患者の成長を促すことを目的としました。
・また、事業を通して、病院内の様々な立場のスタッフや新しい病院との連携や協力を生み出すことで、活動の定着と他地域への活動の波及を図ることを考えました。
事業の内容
実行項目➀:埼玉県立小児医療センターでのワークショップの実施
埼玉県立小児医療センターの遺伝科集団外来や、病棟に入院中のこどもたちに向けて、プロのアーティストによるワークショップを実施しました。参加するこどもたちの状態に合わせた内容で、プロのアーティストによる表現にふれ、身体表現、音楽、美術等の表現ワークショップで楽しく自己表現する機会を提供しました。
実行項目②:埼玉県立小児医療センターでのオンライン・ワークショップの実施と動画コンテンツ配信
対面で、決まった場所、時間で開催されるイベントだと体調や都合を合わせて参加しづらいという場合でも、アートにふれる体験を提供したいと考え、埼玉県立小児医療センターに入院中のお子さんや外来のお子さんとそのご家族を対象にしたオンライン・ワークショップを実施し、動画コンテンツを配信しました。オンラインを活用することで、病気に向き合うこどもたちが、どこにいてもアートに出会い、表現することを楽しめる時間をつくりました。
実行項目③:新規施設とのネットワーク形成と活動の発信
次年度以降の活動の定着や展開を目指して、新しい小児病院への働きかけや、ショートムービーの製作による活動の発信に取り組みました。
事業の結果
実行項目➀:埼玉県立小児医療センターでのワークショップの実施
ワークショップ実施回数:計4日間6回(病棟では1日に2回実施)
参加者:計50名(遺伝科集団外来のこどもたち15名+病棟に入院中のこどもたちとその保護者延べ35名)
アーティスト:若鍋久美子(打楽器奏者)、長与江里奈(ダンサー・演出家・山猫団主宰)、井上貴子(俳優)
アシスタント・アーティスト:鳴海碧(ピアニスト)、北園優(音楽家)、大村太一郎(音楽家)
実行項目②:埼玉県立小児医療センターでのオンライン・ワークショップの実施と動画コンテンツ配信
ワークショップ実施回数:計2日間4回(1日に2組ずつ実施)
参加者:病棟に入院中や外来のこどもたちとその保護者など 計8名
アーティスト:新井英夫(体奏家・ダンスアーティスト)
アシスタント・アーティスト:板坂記代子(ダンサー・美術家)、はしむかいゆうき(演奏家)
実施校項目③:新規施設とのネットワーク形成と活動の発信
新規施設とのネットワーク:1施設(静岡県立こども病院)
ワークショップ実施回数:1日2回(午前中に外来ロビーで1回、午後に病棟内で1回実施)
参加者:計35名(外来のこどもたちとその保護者20名+入院中のこどもたちとその保護者等15名)
アーティスト:棚川寛子(舞台音楽家)
アシスタント・アーティスト:加藤幸夫(俳優)
事業紹介ショートムービーの製作と公開:1本

事業の成果
埼玉県立小児医療センターでは、遺伝科集団外来の取り組みは初めてだったこともあり、実施してみることで改善点などが明らかになり、それを次のワークショップに活かすという、病院との連携を深めながら事業に取り組むことができました。病棟やオンライン・ワークショップでは、保護者も一緒に楽しめることの良さや、小さい頃から入退院を繰り返していて、「入院=つまらない」というイメージになりがちだが病院で楽しいことを提供できたことが良かった、などの感想をいただき、普段なかなか味わえないアートを通して、こどもたちやそのご家族に、表現することや人と関わることを楽しんでもらうことができたと思います。
ワークショップ参加者のアンケートには、「かわいい楽器がつくれて楽しかったです」「思ったより集中しててびっくりしました」「絵本の読み聞かせの迫力があって面白かった。一つひとつの澄んできれいな音で鳴り響かせて合奏でき、楽しかった」「こどもも楽しそうにしていて、私(保護者)も嬉しいです」「遊んで嬉しかった。また遊びたい」「楽しかったこと。1つ目、ギターを演奏できたことです。2つ目、みんなと楽しく演奏したことです」「いろんな音を(こどもに)聞かせたくてやってきました。生の音はいいなと実感しました」「知らない楽器をさわったり、みんなで海の音を演奏したのが楽しかったです」などの感想がありました。
初めてワークショップを実施した静岡県立こども病院では、人が自然と集まってきて楽しんでくれていたことや、普段のイベントにあまり参加しない年代のお子さんも、こどもたち同士で声をかけあって参加してくれて良かったという感想をいただきました。また、参加したこどもたちや保護者の方のアンケートからも、「絵本の読み聞かせ、こどもは音にびっくりしていたのですが、迫力があってすごかったです。あまり見慣れない楽器にふれあえて良かったです」「病院で不安や待ち時間で悶々とする時間を、少しでも楽しい時間にしていただき、嬉しかったです」「楽器を使いながらの読み聞かせは初めてで私(保護者)も楽しめました」「いろいろな楽器を使えて楽しかった」「いろんな音をまじえた絵本の読み聞かせは五感を刺激してくれて、聞いていてとても楽しかったです。娘もたくさんの楽器にふれて楽しんでいました」と、新鮮な体験を楽しんでくれたことが伺えました。

自己評価
2つの病院での、遺伝科集団外来や病棟、対面やオンラインを活用した様々な形のワークショップを通して、いろいろな環境にあるこどもたちにアプローチして、当初目標を達成することができました。計画から、動画コンテンツの配信本数をオンライン・ワークショップに替えた部分はありましたが、結果としては、病気に向き合うこどもたちそれぞれの状況に適した形で、直接的なコミュニケーションを大切にしながらプログラムを提供することができ、アンケートからも参加者の満足度が高かったことが伺えたので、十分な成果を得ることができたと考えています。
課題および今後の展望
オンライン・ワークショップに参加したお子さんが、それが動画コンテンツとなることを楽しみにしてくれていたり、病院スタッフからも継続したいという声を聞いているので、私たちとしても安定的に事業を継続していきたいと考えています。今回お世話になった病院はもちろん、作成したショートムービーを活用して、新たな病院とのネットワークをさらに広げながら、取り組みへの理解者や支援者を拡大して、安定した事業の継続につなげていきたいと思います。
堤 康彦 さん
1965年東京生まれ。慶応義塾大学経済学部卒業。87~97年東京ガス㈱に勤務。99年より独立。現代芸術家を小学校等へ派遣しワークショップ型授業を実践する活動「ASIAS(エイジアス)」をスタート。2001年NPO法人化。
03年「アサヒビール芸術賞」受賞。04~16年、「トヨタ こどもとアーティストの出会い」ディレクター。18年「第12回よみうり子育て応援団大賞」奨励賞受賞(主催:読売新聞社)。19年「第13回未来を強くする子育てプロジェクト」「スミセイ未来賞」受賞(主催:住友生命保険相互会社)令和5年度文化庁長官表彰受賞。著書に、「こどもたちの想像力を育む アート教育の思想と実践」(共著/佐藤学・今井康雄編)他。