公益財団法人ベネッセこども基金

助成団体紹介

2024活動報告|「病気という経験を力に変えて」ライフアドベンチャーカリキュラムのあゆみ

一般社団法人 Child Play Lab

病気・障がいを抱えるこどもの学び支援

助成期間を終え、活動の成果をご報告いただきました。事業の詳細などは以下からご覧ください。

2024年事業紹介 入院中の小学生を対象にした、ライフアドベンチャー教育のモデルづくりと検証事業

事業の目的 事業の内容 事業の結果 事業の成果 自己評価 課題および今後の展望

事業の目的

一般社団法人Child Play Lab. では、「病気のこどもたちが、自身の病気という経験を力に変えて、自分らしく生きていくことができる社会の実現」をめざし、入院中から一時退院中・退院後の小学生を対象に、入院スターターキット「アドベンチャーBOX」の配布や、伴走プログラム「アドベンチャーASSIST」の実施をしています。
課題ととらえているのは、病気を抱えて生きるこどもたちが、病気という経験を力に変えて自分らしく生きることに困難が伴うことがあるということです。治療後の社会生活になかなか適応できなかったり、「自分は他と違う」と感じてしまったりと、病気を負の体験としてとらえるのではなく、その経験があったからこそ得られた感性や力を信じて、その子自身がその子らしい人生を送ることができるよう、その過程を共に歩んでいくことをねらいとしています。

事業の内容

2024年度は具体的に、①「小学生の頃に入院経験がある人を対象にした、入院中の過ごし方に関する実態調査の実施」と、②「入院スターターキット『アドベンチャーBOX』を活用したプログラムの実施」を行いました。
①の調査を通じて、病気という経験を力に変えていくためのライフアドベンチャー教育としてのコアカリキュラムを策定すると共に、コアカリキュラムを土台に「アドベンチャーBOX」を作成している点がポイントです。

事業の結果

年度はじめに行ったことは、現場の知見と国内外の論文を突き合わせながら、入院中から退院後までを俯瞰できる〈ペイシェントジャーニー〉第 1 版を作成したことです。入院中・退院後の30 名を超えるこどもたちを対象に聞き取り調査を行い、療養生活上における課題と、"遊び"がもたらす意義についての再定義を行いました。
また、夏休み(7〜9 月)には、群馬県立小児医療センターと愛媛大学医学部附属病院の2 施設でアドベンチャーBOXワークショップを実施しました。病院内でのBOX導入は配布含めて累計65人に及び、院内でのWS参加者数は合計19人という結果になりました(9月末時点)。夏休みのワークショップの実施を踏まえ、当初小学校3-4年生を対象に開発をしていたBOXではありましたが、高校2年生の男の子が3時間集中して絵本を仕上げていた事例、1歳の女の子が親御さんと一緒に参加して楽しんでいた事例があり、1人で安全にキットを活用できる年齢は小学生3-4年生が対象ではあるものの、親御さんや医療従事者が同席のもとであれば1歳〜高校生まで幅広く遊べるキットであることがわかりました。
さらに12 月から翌3 月にかけて、追加でこども14 名・保護者14 名・医療者22 名・自治体8 名、計58 名へのオンラインヒアリングを実施し、安全基地の確保、第三者による伴走、家族全体の心理的安全性といった共通ニーズを整理しました。その成果として、ライフアドベンチャー教育の新版「アドベンチャーASSIST」のカリキュラム試案を策定し、小学生4名に対し〈週1オンライン+月1対面〉のハイブリッド伴走を試験導入しています。

「君だけの絵本を作ろう!ワークショップ」の様子

事業の成果

実際にアドベンチャーBOXがこどもたちの手に行き届き、「自分たちのためだけに作られたBOXというのが嬉しい」「飽きずに何度も遊べて楽しい」「病棟の他の子がアドベンチャーBOXを持っていて、欲しくなりました」などと、少しずつ広がる中で満足度が向上していることを再認識しました。また医療者からも「普段もっと時間をかけてこどもと遊べたらいいなと思っていたので、こういうキットがあると助かります」などのお声もいただき、現場での必要性を強く実感しました。

こどもたち一人ひとりが、自分だけの絵本を創作していく

自己評価

これらを踏まえ、年間を通して改めて見えた アドベンチャーBOX の役割は以下の二つです。
①質の高い "遊び" の提供:限られた病棟環境でも安全に没頭できるクリエイティブ体験を届けること。
②"人と人" を結ぶ架け橋:こども自身が言語化しにくい想いを、遊びを通じて表出させ、スタッフや家族が受け止め深める場をつくること。

①に対しては、この一年を通して質の向上を図ることができた一方で、②に関しては、試行の中で「話せる人が欲しい」「会えることが励みになる」というこどもたちの声がくり返し聞かれ、プロダクト単体で開始当初の目的を果たすことに関しては限界があることも感じました。しかし、人が介在することで BOX が潜在ニーズを引き出す強力なツールになることも確信したため、次年度においては伴走プログラム「アドベンチャーASSIST」への導入や併用も視野に入れながら活用を模索していきたいと思っています。また、同時に、箱詰め・在庫管理など運営コストが増大する課題も顕在化し、現体制ではボランティアマネジメント負荷も高いため、組織規模拡大と合わせて効率化策を検討していく予定です。

課題および今後の展望

病気という経験を力に変えて、自分らしく生きていくというゴールのもと、最重要になってくるのは、"誰と出会い、誰と共に時間を過ごすのか"ということだと改めて痛感した1年でした。アドベンチャーBOXの開発をVol.0 から Vol.3 へと歩みを進める中で見えた核心は「BOX=出会うきっかけ」という再定義に尽きます。改めて安全面と没入度を磨き上げるうち、長期入院児から出た「誰かとお話しできる箱が欲しい」という声が象徴的でした。次年度は、一時退院中・退院後の伴走プログラム「アドベンチャーASSIST」を通じて、こどもたち自身が「病気という経験があったからこそ」「その子だからこそ」の強みを活かし、自分らしく人生を歩んでいくことのできるような時間を共にしていくべく、事業を構築していきます。また、ASSIST が明確に機能し、伴走効果を示せた段階でこそ、出会うきっかけとして、入院スターターキット「アドベンチャーBOX」の全国配布を検討し、1人でも多くのこどもたちに届けていけたらと考えています。

アドベンチャーBOXが人との出会いのきっかけになれるよう、これからも届けていきます

一般社団法人Child Play Lab.

代表理事

猪村真由 さん

1999年生まれ。小学生の頃、友人を小児がんで亡くしたことをきっかけに、医療者を志し始め、慶應義塾大学看護医療学部に入学。NPOや行政でのインターンを経験後、2021年に病児のあそび支援を行う医療系学生を対象にした医療系学生のコミュニティを立ち上げ。50名を超える学生とともに、病棟ボランティアや大学体育会/企業と連携したチャリティイベントの企画/運営を行っている。
また、2024年には、小学生を対象にしたライフアドベンチャー教育のモデルづくりと検証事業を目的とした一般社団法人Child Play Lab.を立ち上げ。現在は第1弾として、入院生活を送っているこどもたちの療養環境・療養体験のアップデートを目指し、入院中のこどもたちに特化した遊びブランド「POCO!」を手がけている。

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