公益財団法人ベネッセこども基金

助成団体紹介

2025活動報告|「あそびを届ける」から「暮らしに伴走する」へ ~病気を抱えるこどもと家族を支えるアドベンチャーASSISTの1年~

一般社団法人 Child Play Lab.

病気・障がいを抱えるこどもの学び支援

助成期間を終え、活動の成果をご報告いただきました。事業の詳細などは以下からご覧ください。

2025年事業紹介 入院中の小学生を対象にした、ライフアドベンチャー教育のモデルづくりと検証事業

事業の目的 事業の内容 事業の結果 事業の成果 自己評価 課題および今後の展望

事業の目的

Child Play Lab.は、重い病気や長期療養を経験するこどもたちが、病気や治療によって、遊ぶこと、学ぶこと、人とつながること、自分で選ぶこと、自分らしく暮らすことを奪われない社会をめざして活動しています。 本事業では当初、入院中のこどもたちにあそびのきっかけを届ける「アドベンチャーBOX」の実施を中心に、病気を抱えるこどもたちの入院中・退院後の過ごし方や潜在的なニーズを明らかにすることを目的としていました。しかし、前年度および本年度前半の実践を通じて、こどもたちにとって本質的に必要なのは、単発のあそびやイベントだけではなく、退院後・在宅療養期の暮らしの中に継続的に登場し、本人意思または推定意思を起点に、その子らしい生活を一緒に守り直してくれる第三者の存在であることが見えてきました。

そこで本年度は、退院後・在宅療養期のこどもと家族の暮らしに伴走する「アドベンチャーASSIST」のモデルづくりと検証へと事業の重心を移しました。アドベンチャーASSISTがめざすのは、こどもを「特別に支援される存在」に固定することではありません。病気や制限のある環境でも、また制限が一時的に少ない環境でも、こども本人の意思や推定意思を起点に、家族・学校・地域・医療・訪問看護・居場所など、暮らしに登場する人々と共に、その子が暮らし、育ち、学び続けられるプロセスを支えることです。

事業の内容

対象は、小児がんなど長期療養を経験するこどもを広く想定していましたが、実践とヒアリングを重ねる中で、特にDIPG等の小児悪性神経膠腫のこどもと家族において、退院後・在宅療養期の支援ニーズが強く、既存制度の狭間に置かれやすいことが分かりました。そのため、年度後半はDIPG等の難治性疾患を抱えるこどもと家族への伴走を中心に、オンラインでの定期的な関わり、対面訪問、受診同行、保護者面談、医療者・学校・地域資源との連携を組み合わせて実施しました。

ただし、アドベンチャーASSISTの活動の中心は、「好きなことをする」「やりたいことを叶える」ことだけではありません。まず、その子が暮らしている生活そのものを起点に、家族の時間、食事、移動、通院、学校、友人関係、地域との接点など、日常の中に入り込み、その子がその子らしく生活し続けられるための関係性と環境を一緒につくることを重視しました。そのうえで、こどもが好きなことややってみたいことを共に楽しみ、家族だけでは担いきれない第三者としての楽しみ、関係性、成長発達の機会を届けました。 またDIPG等の疾患では、いつか訪れる可能性のある症状進行期や、その子が自分らしく生きることが難しくなる状況を、こども本人、保護者、きょうだい、医療者、学校、地域の人たちなど、暮らしに登場する人物全員で迎える必要があります。そのため、アドベンチャーASSISTでは、こどもと家族だけでなく、医療者、在宅医療、訪問看護、学校、地域の人々ともつながりながら、生活全体を支える導線づくりを行いました。

事業の結果

本年度は、全国15家庭に対してアドベンチャーASSISTによる伴走を実施しました。伴走期間は1〜16か月で、継続率は93.3%(14/15家庭)でした。実施回数は、オンラインセッション187回、対面セッション111回、受診同行16回でした。オンラインでは、ゲーム、雑談、工作、音楽、調べ学習、日々の出来事の共有などを通じて、こどもがその日その時の状態で関われる時間を積み重ねました。対面訪問では、あそびの時間だけでなく、食事、学びや習い事、友達との時間、通院、学校や地域との関係など、あらゆる生活の中に伴走者が入り込みました。 また、保護者や病院関係者、学校関係者との関わりを通じて、こどもの変化や家族の希望、迷い、不安、意思決定に関する声を継続的に把握しました。特に、DIPG等の難治性疾患では、保護者の課題が単なる不安の軽減にとどまらず、「残された時間をどう過ごすか」「その子らしさとは何か」「家族として何を選ぶか」を言葉にし、再選択していく意思決定支援に集中していることが見えてきました。

医療機関連携は7施設、小学校連携は1校となりました。紹介意向を確認できた医療機関、個別事例で実際に連携した医療機関、伴走に伴い訪問診療・訪問看護と情報共有を行った事例がありました。正式な覚書締結には年度内に至りませんでしたが、次年度以降に紹介フローや正式連携へ発展させるための実質的な連携基盤を形成することができました。 さらに、こども・保護者・医療者等へのヒアリングを通じて、アドベンチャーASSISTの提供価値を整理しました。特に、DIPG等の小児悪性神経膠腫領域では、病気、学校、友人、地域、命など、こどもと家族が積み重ねていく喪失が非常に大きいことが分かりました。そのため、喪失体験を「減らせる領域」と「減らせない領域」に分け、学校・友人・地域との関係など、工夫によって減らせる喪失については関係性の維持や再接続を支え、病状進行や死のリスクなど、減らせない喪失については、心理・あそび・グリーフ・意思決定支援を通じて支えるという方向性を整理しました。

どんな状況でもともに遊び、共に暮らします

事業の成果

本年度の最も大きな成果は、アドベンチャーASSISTの価値が、単なる「あそびの提供」から、「生活起点での伴走」へと明確になったことです。 伴走者は、こどもと家族の生活に深く入り込みました。衣食住を含む暮らしの文脈を共有し、家で過ごす時間、通院、家族との会話、学校や地域との接点にも関わることで、こどもにとって伴走者は、単なる外部支援者ではなく、親戚や家族に近いような身近な第三者として機能し始めました。この関係性により、こどもが何でも相談できるだけでなく、相談しなくても伴走者がその子の状態や気持ちを察することができるほど、親密で理解し合った関係性が生まれました。

これは、家族や保護者だけでは与えきれない第三者としての楽しみや成長発達の機会にもつながりました。病気や治療によって学校や友人関係、地域での活動が制限される中でも、こどもが家族以外の大人と安心して関わり、笑い、話し、遊び、時に不安や迷いも共有できる日常の一部が生まれました。保護者にとっても、アドベンチャーASSISTは、家庭だけで抱え込まなくてよいと感じられる存在になり始めました。こどもの変化を第三者と共に見守ること、正解が分からない状況で迷いながら進むこと自体を肯定すること、家族の希望や不安を言葉にすることが、保護者の安心感や納得感につながりました。 成果物としては、伴走者の行動規範、保護者向けフォーム、変容プロセスを記録するシート、ペイシェントジャーニー、医療・患者団体・在宅医療・学校等とのチャネルマップ、紹介導線の仮説整理などを作成しました。これらは、次年度以降に、DIPG ASSISTの中核モジュールや横断原則として整理し、現在属人化している伴走ナレッジ(価値提供・記録・仮説検証)を一般化していくための土台となります。

実はゲーム好きという訪問診療の先生を交え、一緒に遊ぶ時間を設けることで、医療者の枠組みを超えた一人の生活者同士つながりを創出します

自己評価

当初掲げていた参加者数20名以上、正式なMoU締結1件、外部伴走者2名の有償化という定量目標の一部については、年度内に完全達成することはできませんでした。一方で、事業の本質的な価値検証という観点では、当初想定以上の進展がありました。年度末までに15家庭に対して、オンライン187回、対面111回、受診同行16回の高頻度な伴走を実施し、継続率は93.3%(14/15家庭)でした。また、医療機関連携は7施設、小学校連携は1校となり、病院・在宅医療・訪問看護・学校・地域との接点も広がりました。

特に重要な成果は、アドベンチャーASSISTの価値が「あそびの提供」から「生活起点での再創造/生活が侵食されないための支え」へと更新されたことです。伴走者がこどもと家族の生活文脈に入り込み、親戚や家族のように身近な第三者として関わることで、こどもが安心して自分らしく過ごせる関係性が生まれました。また、本人意思または推定意思を起点に、こどもが周囲の人々と共に暮らし、育ち、学び続けることを支える営みとして、ASSISTの本質的価値を整理することができました。そのため、量的な拡大については一部未達があるものの、支援価値の言語化、支援モデルの検証、対象者像の明確化、医療・学校・地域との接続、次年度以降のスケールに向けた土台づくりという点では、概ね目標どおり、かつ一部は当初想定以上の成果があったと評価しています。

課題および今後の展望

今後の課題は、アドベンチャーASSISTの価値を再現可能なモデルとして整理することです。本年度は15家庭への深い伴走を通じて、こどもの変化や家族の安心感、医療者との連携の有効性が見えてきました。一方で、伴走者の経験や関係性の深さに依存する部分も多く、生活文脈への入り方、こども・家族との関係形成、症状進行期に向けた準備、学校・医療・地域との連携の進め方を、一定程度再現可能な形に整理する必要があります。

また伴走者育成と組織体制の整備も課題です。現時点では、代表・副代表の専門性と高いコミットメントによって質を担保していますが、対象者を拡大するためには、伴走者の採用、育成、ケースレビュー、役割分担、品質担保の仕組みづくりが必要です。代表・副代表だけに依存せず、一部の価値提供・記録・仮説更新を他の伴走者にも渡していくことが重要になります。 そして持続可能性の検証も課題です。アドベンチャーASSISTの価値は、「特別な支援を買うこと」ではなく、こどもが周囲の人と共に暮らし、育ち、学び続けるための社会的基盤です。その価値を家族が自然に一部負担できる可能性を検証しながら、不足分を地域や企業、そして思想に共感する支援者等が支えるという補填構造を見出していきます。

次年度は、DIPG ASSISTの本質的価値を「本人意思または推定意思を起点に、病気の有無や制限の有無にかかわらず、こどもが周囲の人々と共に暮らし、育ち、学び続けることを支える営み」として確定させることをめざします。そのうえで、その価値を代表・副代表以外にも渡せるモジュールと原則に整理し、部分有償化と外部補填を組み合わせた持続可能性の検証へ進みます。

今後もこどもと家族と、そして地域全体を支えることができるよう、ともに過ごしていきます

一般社団法人Child Play Lab.

代表理事 / Hospital Play Specialist

猪村真由さん

1999年生まれ。一般社団法人Child Play Lab.代表理事。Hospital Play Specialist。 小学生の頃に友人を小児がんで亡くした経験を原点に、病気を抱えるこどもたちが、病気や治療によって、遊ぶこと、学ぶこと、人とつながること、自分らしく暮らすことを奪われない社会をめざして活動している。慶應義塾大学看護医療学部看護学科を卒業後、ホスピタル・プレイ・スペシャリスト養成課程を修了。学生時代から、病気や障害のあるこどものあそび、意思決定、暮らしの支援に関心を持ち、医療系学生による病児のあそび支援コミュニティの立ち上げや、病棟ボランティア、チャリティイベントの企画・運営等に取り組んできた。2024年に一般社団法人Child Play Lab.を設立。当初は、入院中のこどもにあそびを届ける「アドベンチャーBOX」などを展開し、現在は、退院後・在宅療養期のこどもと家族の暮らしに伴走する「アドベンチャーASSIST」を中心に事業を進めている。 現在は特に、DIPG等の小児悪性神経膠腫をはじめとする重い病気を抱えるこどもと家族に対し、オンライン・対面訪問・受診同行・保護者面談・医療者や学校との連携を組み合わせながら、その子が周囲の人々と共に暮らし、育ち、学び続けるための伴走モデルづくりに取り組んでいる。

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