助成団体紹介
2025活動報告|「宝泉寺けあらぼ」の実施で、学びと体験、そして災害時の対応力を高める
特定非営利活動法人 にこり
助成期間を終え、活動の成果をご報告いただきました。事業の詳細などは以下からご覧ください。
2025年事業紹介 宝泉寺けあらぼ(医療的ケア児とその家族のQOL向上・災害対策に向けた旅行支援)
事業の目的 事業の内容 事業の結果 事業の成果 自己評価 課題および今後の展望
事業の目的
医療的ケアが必要なこどもたちとそのご家族に「0-1体験(初めての経験)」を提供する特別な企画「宝泉寺けあらぼ」。
今回の目的地は、大分県九重の自然豊かな宿。2泊3日を過ごす中で3つのことをめざしました。
こどもと家族が自然の豊かな環境で、それぞれの旅の思い出を作ること。
旅を通して、地域社会と医療的ケア児が自然につながるきっかけを作ること。
非日常の場での移動や生活を体験することで、楽しみながら実践的に学び、災害時の備えや対応力を高めること、の3つです。
今回の場所は、いざ搬送となると医療機関まで1時間から1時間半ほどかかる場所。ボランティアスタッフの医師たちと事前にオンラインで話し合い、何かあったときのことをしっかり共有。福岡の「はぐむのあかりクリニック」の医師・スタッフが中心となり、現地での医療的サポート体制を整え、急変時にもその場でできる限り対応できるよう準備しました。
今回の取り組みは、ただの旅行ではなく「災害時の動き方や支え方を実際に体験する機会」にもなっています。限られた環境の中で、誰が何を持つか、どう動くか、どう支え合うか。平時にやってみることで、いざというときに動ける関係性と力を育むことをめざしました。
事業の内容
2泊3日の旅行支援プログラム「宝泉寺けあらぼ」の参加対象は、人工呼吸器、在宅酸素、吸引、胃ろうなど日常的に医療的ケアが必要なこどもとその家族。福岡県・大分県・福井県から計6家族が参加し、医師、看護師、介護福祉士、学生ボランティアなど多職種が同行・サポートを行いました。
会場は大分県九重町の自然豊かな温泉宿を使用しました。実施にあたり、事前に看護師と宿の下見を行い、段差や階段、コンセント位置、温泉までの動線、食事場所、酸素利用時の火気安全などを確認しました。また、酸素濃縮器の事前配送調整や、緊急物品・予備物品の準備など、各家庭に合わせた個別調整を行いました。
当日は、温泉、花火、アート体験、自然遊び、交流会などを実施。呼吸器を装着したまま温泉に入る、酸素を使用しながら花火を楽しむなど、医療的ケアがあっても地域の中で「普通に遊び、楽しむ」経験づくりとなりました。
また、今回の取り組みは単なる旅行支援ではなく、災害時の備えや対応力を高める実践的な学びの場としても位置づけました。会場は搬送に1時間以上かかる地域であり、事前にオンラインで医師間の打ち合わせを行い、「はぐむのあかりクリニック」を中心に医療バックアップ体制を整備。限られた環境の中で、誰が何を持ち、どのように移動・支援するかを実践的に経験することで、平時から有事につながる支援体制づくりをめざしました。
事業の結果
参加したこども・家族・支援者それぞれに大きな変化が起こりました。
家族からは、
・「初めて家族旅行ができた」
・「また出かけてみたいと思えた」
・「家族だけでは無理だと思っていた」
などの声が多く聞かれ、
特に、「旅行は難しい」「周囲に迷惑をかけてしまう」と感じていた家族が、支援者や他家族と共に過ごす中で、「工夫すればできる」という感覚を持てたことは大きな成果でした。
また、きょうだい児が同年代のこども同士で自然に遊び始めたり、保護者が久しぶりにゆっくり温泉に入れたりと、「医療的ケア児本人だけでなく、家族全体が楽しめる環境」をつくることができたと感じます。
支援者側からも、
・「限られた環境の中で工夫する力がついた」
・「バリアフリーでなくても人がいればできることがあると実感した」
・「災害時の動き方を具体的に考える機会になった」
という声が挙がりました。
さらに、福岡・大分・福井といった県域を超えた支援チームが実際に一緒に動いたことで、有事の際にも協力できる関係性づくりにつながりました。
参加者アンケートでは、多くが満足度5(5段階評価)を回答しており、「また参加したい」という声が多数寄せられました。旅行後には、「家族だけで旅行に挑戦したい」「飛行機や電車での移動にも挑戦したい」といった新たな目標や願いに続く道にもなったと感じています。
事業の成果
当初目標としていた、
・家族の思い出づくり
・地域との自然なつながり
・災害時にもつながる実践的学び
について、一定以上の成果を得ることができたと考えています。
特に、医療的ケア児の外出において、「完璧なバリアフリー環境を整えなければできない」のではなく、「工夫し、人とつながり、支え合うことでできる」という実感を、多くの家族・支援者が共有できたことは大きかったです。
一方で、階段移動や温度管理、入浴時間調整など、実際に実施したからこそ見えてきた課題もありました。また、家族側から「どこまで頼ってよいかわからない」という声もあり、支援を受ける経験そのものが少ない現状も見えてきました。
しかし、そのような課題も含めて、「実際にやってみたからこそ得られた学び」であり、今後の取り組みに活かしていける重要な経験となりました。
本事業は、単なる旅行イベントではなく、医療的ケア児と家族が地域の中で暮らし、遊び、移動し、生きていく未来を考える実践でした。今後も、県域を超えた支援者同士のつながりを深めながら、「できない」を「できる」に変えていく活動を継続していきたいと思います。
自己評価
医療的ケアが必要なこどもたちとその家族に「0-1体験(初めての経験)」を届けることを目標としていました。
実際に、参加家族からは「初めて家族旅行ができた」「また出かけてみたいと思えた」「家族だけでは無理だと思っていた」といった声が多く聞かれ、外出や旅行に対する心理的ハードルの変化が見られました。
また、きょうだい児同士が自然に遊び始めたり、保護者が久しぶりにゆっくり温泉に入れたりと、医療的ケア児本人だけでなく、家族全体が「一緒に楽しめた」ことも大きな成果でした。
支援者側にも変化があり、限られた環境の中で「どうしたらできるか」を考えながら動くことで、災害時にもつながる実践的な経験となりました。特に、階段移動や温泉介助、電源確保など、普段の支援とは異なる環境で工夫しながら支え合った経験は、BCP(事業継続計画)や有事対応を考えるうえでも大きな学びとなりました。
さらに、福岡・大分・福井といった県域を越えた多職種連携を実際に行えたことで、有事の際にも協力し合える関係性づくりにつながったと感じています。
当初は「本当に実施できるのか」という不安も大きかったですが、実際に取り組むことで、「工夫し、人とつながることでできることが増える」という実感を、家族・支援者ともに持つこととなりました。
課題および今後の展望
今回の取り組みを通して、実際に実施したからこそ見えてきた課題も多くありました。
特に、
・階段移動など身体的負担の大きさ
・温度管理や入浴時間調整
・支援者配置や役割分担
・家族側の「どこまで頼ってよいかわからない」という心理的遠慮
などは、今後さらに工夫が必要だと感じました。
一方で、完璧なバリアフリー環境ではなくても、人の力や工夫によって実現できることが多いことも実感しました。災害時には、必ずしも整った環境があるとは限りません。だからこそ、平時から「限られた環境の中でどう動くか」を経験しておくことには大きな意味があると考えています。
また、今回の旅行後には、「今度は家族だけで旅行してみたい」「電車や飛行機にも挑戦したい」といった声もあり、家族の中に次のチャレンジへの意欲が生まれていました。
今後は、
・地域ごとの小規模なおでかけ企画
・県域を越えた支援ネットワークづくり
・災害時にも活かせる実践的なおでかけ支援
・地域住民や企業も巻き込んだ交流型企画
などにつなげていきたいです。
本事業を通して、「医療的ケアがあるからできない」ではなく、「どうしたらできるかを一緒に考える」「地域の方や旅館の方など、特別な資格がなくても自分たちにできることは何か」という視点を、家族・支援者・地域と共有することができました。今後も、こどもたちと家族の「やってみたい」を叶えていける取り組みを続けていきたいと思います。
松丸 実奈 さん
認定NPO法人にこり 理事長/はぐむのあかりクリニック 副院長兼プロデューサー
北九州市立医療センターNICUでの勤務を経て、友人のこどもが生まれたことをきっかけに、2016年に小児の訪問看護ステーションにこりを開設。その後、地域でこどもと家族が安心して暮らせるよう、児童発達支援、居宅介護、相談支援、産前産後支援などにも取り組んできた。
2023年からは「はぐむのあかりクリニック」にて副院長兼プロデューサーを務め、制度の枠を超えて一人ひとりの声に寄り添うサポートを行っている。