事業について
■ 団体概要
認定NPO法人Learning for All (以下、LFA)は、「子どもの貧困に、本質的解決を。」をミッションに、経済的困難や家庭環境、学校生活など、複数の困難を抱えるこどもたちに対して、居場所づくり・学習支援・食事支援・保護者支援・訪問支援などを組み合わせた包括的な支援を行っています。
Learning for Allの全職員
■ 助成事業で取り組んだこと
本助成では、特に東京・葛飾エリアの中学生・高校生年代のこどもたちが、将来の生活や進路に向けて少しずつ準備を進められるよう、以下の3点に取り組みました。
①自立に向けた支援の設計と実践
②関係機関と連携した支援体制づくり
③居場所の継続的な運営および自立支援との役割分担の明確化
助成1年目は、こどもの自立に向けてどのような支援が必要かを仮説立てしながら、実践事例を積み重ねる年でした。
①については、自立準備支援・相談支援・アフターフォローをそれぞれ独立した支援として実施しつつ、こどもの状況に応じて必要な支援へつなげられるように設計し、3月末までに相談支援でユニーク26名・延べ406件の相談対応を行いました。
②については、地域の若者相談窓口、学校、行政、児童相談所、子ども総合センターなど、こどもを取り巻く関係機関とケース連携を進め、3月末までに108件のケース連携を実施しました。
③については、中高生が安心して過ごせる居場所を週4日継続的に運営しながら、居場所と自立支援の機能の整理に取り組みました。居場所は安心していられる場である一方、自立支援には現実と向き合うプロセスが伴うため、同じ場で両方を担おうとすると、こどもが安心感を持ちにくくなる場面があるからです。そのため、こどもにとっての安心を守りながら必要な支援を届けるために、両者の機能を整理する必要がありました。
私たちが大切にしたのは、「自立」をただ進学・就職することとして捉えるのではなく、こども自身が自分の生活や選択を見つめ直し、少しずつ「自分で決めて、自分で調整しながら生きていく」感覚を持てるようにすることです。困ったときに頼れる人がいること、現実に向き合うことを一人で抱え込まなくてよいこと、そうした関係性を土台にしながら、こども自身が自分の生活や選択を動かしていけるよう支援することを、自立支援の重要な要素として位置づけました。
■「現実に向き合う場」を、"整理の場"として設計
中高生年代のこどもたちの中には、進路、学校、家族関係、生活、お金、働くことなど、将来に関わるテーマに強い不安を抱えている子がいます。一方で、その不安が大きいほど、本人だけでは考え続けることが難しく、話題に触れること自体を避けたくなることも少なくありません。
今年度は、そうしたこどもたちに対して、将来の選択肢や生活上の不安を一緒に整理する場を設けました。進学、働くこと、一人暮らし、生活費、福祉制度の利用など、本人にとって負荷の高いテーマを扱う際には、すぐに結論を出すのではなく、「何が不安なのか」「どこが分からないのか」「どの選択肢なら少し考えられそうか」を一緒に言葉にしていくことを重視しました。
工夫したのは、現実的な話を「説得」や「指導」の場にしないことです。支援者が正解を示すのではなく、本人のペースに合わせて選択肢を並べ、分からないことを一緒に確認し、小さな自己決定を支えるようにしました。すると、最初は避けたいものだった現実が、少しずつ「何が不安なのか分かる」「誰に相談すればよいか分かる」「次に何を考えればよいか分かる」ものへと変わっていきました。
この取り組みを通じて、こどもが負荷の高いテーマに向き合うためには、本人が安心できる関係性の中で、不安を一つひとつ分解し、「これなら少し考えられる」と思える状態を一緒につくることが大切だと気づきました。
拠点の様子
■言葉にならない悩みを、まるごと受け止める相談支援
今年度は、相談支援をソーシャルワーカーが担うものとして明確に位置づけました。専門的な支援者が継続的に伴走することで、こどもが言葉にならない悩みも安心して持ち込める土台をつくることを目指しています。
こどもたちの相談は、最初から整理された形で出てくるわけではありません。「なんとなくモヤモヤする」「学校や進路のことを考えるとしんどい」「働くことが不安」「生活のことが分からない」など、言葉になりきらない感覚が、雑談の中で少しずつ出てくることも多くあります。
そのため、相談支援では、こども自身が相談しやすい入口を広く持つことを大切にしました。日常の"おしゃべり"から始められること、自分で申し込めること、相談内容が学校・福祉・就労・生活など複数領域にまたがっても、同じ支援者が継続して伴走できることを重視しました。
実際の支援では、学校生活の悩みから始まり、進路、福祉制度、生活リズム、働くこと、卒業後の暮らしへと相談内容が広がっていくケースがありました。制度や支援機関の側ではテーマごとに相談先が分かれることもありますが、こどもにとっては全て一つながりの生活です。LFAでは、テーマをまたぐ相談であっても全て受け止めることで、本人が混乱せずに状況を整理し、次の一歩を考えやすくなるよう支援しました。
この取り組みを通じて、こどもたちにとっての相談は、困りごとが明確になってから始まるものだけではないと気づきました。言葉にならない段階から受け止め、会話の中で一緒に整理し、必要に応じて制度や関係機関につないでいくことが、こども自身が「相談してみよう」と思える土台になるのだと感じています。
拠点の様子
1年間の振り返り
助成1年目は、こどもの自立に向けた支援のあり方を、実践を通じて具体化していく一年でした。
自立準備支援では、こどもが将来や生活の課題に少しずつ向き合う場面が生まれました。相談支援では、まだ整理されていない困りごとを受け止めながら、制度や関係機関につなぐ支援を積み重ねました。アフターフォローでは、卒業後に働き始めたり一人暮らしを始めたりした若者が、職場での人間関係や生活の不安に直面した際に、再び相談できる関係性を残すことの重要性を確認しました。
また、関係機関との連携も大きなテーマでした。地域の若者相談窓口、学校、行政、児童相談所、子ども総合センターなどとケース連携を進める中で、支援方針や緊急度の見立てに違いが生じる場面もありました。一方で、日常的な情報共有や顔の見える関係づくりを重ねたことで、必要なときに相談・連携しやすい関係性も広がってきました。
居場所については、中高生が「その子らしく」安心して過ごせる場を継続して運営しました。居場所は、安全・安心な空間であると同時に、自立に向けた土台をつくる場でもあります。今年度は、居場所の「安心(スペース)」と、自立支援の「自立への橋渡し(ブリッジ)」という役割整理を進めました。両者は時にバランスを取る難しさがありますが、こどもの状況に応じて共存し得るものでもあります。
1年を通じて見えてきたのは、こどもの自立支援において最も重要なのは、「正しい選択肢を提示すること」だけではないということです。こども自身が不安や希望を言葉にし、自分の生活を少しずつ扱えるようになること。そのためには、安心できる居場所、継続して話せる支援者、必要なときに頼れる関係機関が、互いに連動していることが重要だと実感しました。
職員とこども
2年目に向けて
助成2年目は、1年目に見えてきた実践を整理し、より再現性のある支援モデルにしていく年にしたいと考えています。
まず、自立準備支援・相談支援・アフターフォローを、それぞれ独立した支援として位置づけながらも、こどもの状況に応じてシームレスに行き来できる支援構造として整理していきます。自立準備支援では、こども自身が自分の生活や選択を見つめ直し、「自分で決めて、自分で調整しながら生きていく」感覚を育むことを重視します。その過程で生じる不安や迷いは相談支援で扱い、卒業後の生活も見据えてアフターフォローにつなげていきます。
関係機関との連携では、地域の若者相談窓口、学校、行政など、こどもの支援上、特に連携の必要性が高い機関と、ケース共有や意見交換の機会を重ねていきます。支援判断の基準や緊急度の捉え方について相互理解を深め、連携時の認識のずれや調整の難しさが少しずつ減っていく状態を目指します。
また、居場所と自立支援の関係についても、引き続き整理を深めます。「安心できる場」と「現実に向き合う場」は、単純に分けられるものではありません。居場所での関わりから自立支援につなげた場面や、自立支援を進める中で居場所での安心をより重視した場面について、チームで振り返りを行い、ケースごとにどのような関わりが必要だったのかを言語化していきます。
こども支援から見ると、卒業は一つの出口です。しかし、成人期のひきこもり支援や就労支援の文脈から見ると、卒業直後の関わりは早期支援でもあります。2年目は、居場所・相談・自立準備・アフターフォロー・関係機関連携を切れ目なくつなぎ、こどもたちが自分なりのペースで社会に出ていける支援のあり方を、さらに深めていきたいと考えています。
拠点の様子
認定NPO法人 Learning for All
代表理事
李 炯植 さん
1990年、兵庫県生まれ。東京大学大学院教育学研究科修了。2014年に特定非営利活動法人Learning for All を設立し、同法人代表理事に就任。経済的困窮や家庭環境など、さまざまな困難を抱えるこどもたちに対し、無償の学習支援をはじめ、居場所づくり、保護者支援を行うほか、政策提言や他団体との連携を通じて、こどもの貧困の根本的解決を目指す活動に取り組んでいる。
現在は全国子どもの貧困・教育支援団体協議会 フェロー、一般社団法人社会的養育地域支援ネットワーク 共同代表理事、新公益連盟 共同代表理事などを務める。また、2022年には「内閣官房 こどもの居場所づくりに関する検討委員会」委員に就任するなど、各省庁や自治体の委員・アドバイザーも歴任。