助成団体紹介
2025活動報告|長期入院中のこどもたちの こころを育む映像制作ワークショップ
特定非営利活動法人ポプルワークス
助成期間を終え、活動の成果をご報告いただきました。事業の詳細などは以下からご覧ください。
2025事業紹介|病院や自宅等で療養生活を送るこどもたちの内面を豊かに育む、映像制作ワークショップ実施事業
事業の目的 事業の内容 事業の結果 事業の成果 自己評価 課題および今後の展望
事業の目的
精神疾患で長期入院中のこどもたちが、チームを組んで、映像制作のさまざまなプロセスを経験することを通して、自分を知る力・表現する力・コミュニケーション力・伝える力・困ったときに助けてと言える力・人とつながる力などを育みます。
(日本では、小中学校の不登校児童生徒数が約35万4,000人[令和6年度/文部科学省]と過去最多となっており、その中で「不安・抑うつ」の相談も多く見られます。また、精神疾患を経験した人の約半数が14歳ごろまでに発症しているという海外の研究もあり、こころの不調は、多くの10代にとって身近な課題となっています。)
感受性が豊かで繊細であるがゆえにしんどさを抱えるこどもたちも多い中、その繊細さを強みにできる機会づくりに貢献したいと考えました。
事業の内容
[実施先]大阪市立総合医療センター 児童青年精神科
[実施時期]8月・9月(ワークショップ全17回、発表会1日)
[参加者]入院中の10代のこどもたち 10名(中学生~高校生)
[講師]映像制作ディレクター・撮影技術者・美術・サウンドデザイナー・プロデューサーなど
昨年度に引き続き、2年目の実施となります。病棟のスタッフの方々が、丁寧にこどもたちに声をかけてくださって、多くの希望者が集まってくれました。
制作工程は次の通りです。「美術」と「音響効果」のプログラムは今年新設です!こどもたちが関心のある役割や関わり方を見つけられやすくなるよう、昨年度の内容から工程のバリエーションを増やしました。
1)企画
2)取材
3)撮影
4)構成
5)美術
6)編集
7)試写・内容検討
8)ナレーション入れ
9)音響効果
10)仕上げ
11)映像発表会
事業の結果
A・Bの2チームに分かれて、それぞれ約10分の映像コンテンツを制作します。取材先として、病院内にあるカフェにご協力をいただけることになり、制作スタートです!
こどもたちの企画会議の結果、映像のテーマは次の内容に決定。
・Aチーム:「病院内のカフェに密着。病院ならではの工夫に迫る」
・Bチーム:「医療従事者の食べたいものを調査!新メニューをご提案」
A・Bチームは、カフェの店長さんや運営会社の方々へのヒアリングを経て、具体的な取材へと移りました。
Aチームは、自分たちが実際にカフェに出向いて発見した、病院ならではの工夫(呼出し番号が表示される電光掲示板、薬を服用するお客さんのために、さまざまな温度で提供される水やお湯、白衣をかけるスペース、車いすでも動きやすい動線など)について掘り下げました。
Bチームは、医師や看護師に、ごはん事情のインタビューを実施。食べやすいものが好まれることや、カレーが人気という情報を入手します。そこで、忙しくても手軽に食べられてパワーがつくメニュー案(カレー味のトルティーヤ)を考え、パペット&手描きのイラストとともに、カフェを運営する会社の皆さまへとご提案して、喜んでいただくことができました。
ふだんはケアを受ける側のこどもたちが、カフェに来店する患者さんやご家族、そして、病院で忙しく働く人たちの体を気づかい、描く側・提案する側に立つという新たな機会となりました。
制作の過程では、テレビ局出身のさまざまなプロたちと関わりました。企画・取材・構成はディレクターから、撮影は映像技術者から、丁寧にレクチャーを受けました。また、プロデューサーからは、構成へのていねいなアドバイスを受けて、視聴者に伝わりやすいように順番を変えるなどの工夫も行いました。
映像編集がひと区切りつくと、次は音響効果です。大阪市にある、ソーシャルワーカーたちが運営するこども支援団体「一般社団法人こもれび」のこどもたちと一緒に、音楽選びや効果音づくりに取り組みました。サウンドデザイナーを講師に迎え、テレビドラマをいろどる多様な効果音のヒミツや、映像からメッセージを読み取ってその世界観を深める「音」と「音楽」を考えるコツを学びます。特に盛り上がったのは、効果音づくり! 自分たちで、映像に合う効果音は何かを考え、「ページめくり」には「木琴」を、「結果発表」の映像には「ドラムロール」を、自分たちの手で演奏してユニークな音を創り出し、部屋には終始にぎやかな笑い声が響いていました。
院外の団体と連携した活動を通して、こどもにとって、退院後もつながれる場の存在を知るきっかけにもなったのではないでしょうか。
そして迎えた最後の発表会では、それぞれが緊張しながらもマイクを握って、自分の言葉で堂々と紹介する姿がありました。会場に集まってくださった病院関係者、保護者やご家族、教員、メディア関係者たちからも、映像は大好評。視聴したフィードバックや応援メッセージを直接受け取って、こどもたちも達成感に満ちた顔つきをしていました。
自分の役割や作品に自負を持って臨み、その成果を、病院の内外の大人たちにしっかりと受け止められたという経験は、きっと、こどもたちの自信につながっていくだろうと感じました。
事業の成果
最初はなかなか自分のいい面を認識することが難しかったこどもたちも、活動に取り組みながら、しだいに、それぞれが自分の「得意」や「好き」を発見しはじめ、活動への向き合い方が少しずつ変化していった様子が見えました。
たとえば、映像の構成に関心を持った子は、どの順番でどんなことを伝えると、見る人に伝わりやすいかを真剣に考え、「物語の流れ」を組み立てようとしていました。
カメラの操作そのものに興味を持った子は、ピント合わせやズームの動きなどをすぐに体得し、「こう撮るといいかもしれない」「ぶれないようにするために、肘で支えてみよう」と積極的に試行錯誤していました。プロの撮影技術者から、構図づくりや自然光を活用して食べ物を美しく撮る秘訣なども吸収していきました。
また、飾り付けやイラストなど美術的な表現に思いを寄せてくれた子は、背景の装飾を丁寧に作り込み、色や形の選び方にも繊細なセンスを見せていました。テレビ局の美術スタッフから、紙吹雪を即興で作って降らせるというプロの技も学び取りました。
さらに、人形を動かす「操演」に挑戦した子、食べ物を美しく配置することに尽力した子、映像の仕上げとなるナレーションを生き生きと読んでくれた子...それぞれが自分の力を発揮する場面をつかみとって、活動に参加してくれました。
それぞれが役割を持ち、自分たちが伝えたいことと、見る人にどう伝わるかを行き来しながら考える時間は、「伝える力」を育む大切なプロセスにもなりました。そして、さまざまな工程で協働しながら、ピンチがあってもともに乗り越えてゆく日々を通して、会話も自然に増え、表情も豊かに変化していく姿も、とても印象的でした。
自己評価
この2年間で、こどもたちが「好きなことを撮る」ということを超えて、「どう見せるか」「どう伝えるか」「どう届けるか」という視点を持ち、創作やコミュニケーションの幅を広げていける場を創出することができました。また、ピアサポートの要素も取り入れ、個々の興味や悩みが、ワークショップ全体の中で自然に尊重され、おたがいを認め合い思いやり合う雰囲気が生まれていったことは、今回の取り組みの大きな成果であったと感じています。
また、今回は新たに、制作の一部のプロセスを、病院外のこども支援団体と協力して行うことによって、地域資源との接続を図れたことも、大きな収穫でした。さらに、発表会には、多くの外部の方々も駆けつけてくださいました。退院後に頼りにできる地域資源や大人たちとの出会いもとても重要だと考えているので、こうして自然な形で関われる機会を設定することも、映像制作ワークショップの過程として大切なことだと思っています。
課題および今後の展望
病院スタッフ、ご家族、カフェ関係者、外部の専門職の皆さまからの多大なご協力のおかげで、当年度もこどもたちに多彩な体験をしていただくことができました。あらためて、関わってくださったすべての方々に、厚く御礼申し上げます。そして、メディア業界からは昨年度よりもさらに多職種の方々が参加してくれ、複数の本格的な制作プロセスをこどもたちに体験してもらうことができて、とてもありがたく感じています。
課題としては、体制のことが挙げられます。メディアの講師チームはプロボノ集団であり、本業で映像制作等を担当している人たちで担っていることから、柔軟にスケジュールを組み替えることがなかなか難しいことが課題です。特に医療現場においては、参加者の体調の変化も見ながら、内容やスケジュールを大きく変更する必要性も出てくることもあるだろうと感じています。現場のニーズと体制面の現実的なラインは引き続き模索したいと考えています。
2年間連続で実施させていただいたことで、今後伸ばすべきポイント、整理すべき点も見えてきました。支援してくださり貴重な機会をくださったベネッセこども基金の皆さまに、心より御礼申し上げます。当団体としての活動はいったん区切りとなりますが、今後メディアチームとして調査と分析のフェーズに移っていきます。またご機会をあらためてご報告できることを楽しみにしています!
西澤道子 さん
映像ディレクター・社会福祉士・精神保健福祉士。
長年NHKのディレクターとして、教育エンターテインメント番組や、子ども・若者をとりまく社会課題に関するドキュメンタリー番組など、多様な番組の制作を担当。
NHKを退職後、メディアを活用して温かな社会づくりを目指そうと当法人を設立。福祉・医療・教育現場と連携したメディア活動を展開している。