助成団体紹介
2021活動報告|学習支援事業の基盤強化:拠点リーダーの育成
特定非営利活動法人ユースコミュニティー
2年目の助成期間を終え、実行項目の1つである学習支援の拠点リーダーの育成についてご報告いただきました。
事業の詳細や1年目の報告は以下からご覧ください。
【助成先訪問】地域の力を総動員 経済的困難な子どもに学習支援
拠点リーダー育成プロジェクトの背景 実施概要 2年間の取組結果 次年度に向けて
拠点リーダー育成プロジェクトの背景
様々なNPOが全国で活躍する現在、全ての団体に共通していることとして、代表者(創業者)の熱い思いがあります。その熱量が仲間と支援者を引き寄せ、活動が活性化しているのではないでしょうか?
しかしながら、活動が前進し、拡大していくことは、社会課題の解決につながる一方、団体の内部では、だんだん一部の指導メンバーが疲弊していき、さらに団体の規模が大きくなることに比例して内部のコミュケーションコストもかかってきます。活動・団体の拡大が大きくなる中、一部の指導メンバーが全て担い、取り仕切るのではなく、一定の部分を任せられるマネージャー(市民活動リーダー)の存在が不可欠になってきます。
私たちは東京大田区を拠点に子どもの学習支援・居場所づくりの活動を取り組んできましたが、活動が広がる中で、上記の課題を克服すべく、各拠点教室の現場を任せられる「拠点リーダー育成プロジェクト」を取り組んでいます。
プロジェクトの目的は、拠点リーダーの育成と定着のための仕組みをつくることです。具体的には、ボランティア希望者からのリーダー登用(キャリアシステム)制度の確立。さらにボランティアが拠点リーダーを自然とサポートできるような拠点づくり(代表・職員⇒ボランティアといった上下関係ではなく、ボランティア出身の拠点リーダー⇔ボランティアといったフラットな関係)をすすめることです。このプロジェクトを推進することで、活動が安定しながら持続し、今後さらなる拡大ができるよう事業基盤の強化を目指しています。
実施概要
プロジェクトの実施にあたり、まずは教室の現状についての棚卸、整理・分析をしていく必要があると思いました。そのうえで、拠点ごとあるいは全体で改善策を検討しながら、教室運営のリーダー育成のための会議・研修の実施。さらには拠点リーダーの役割がわかる「拠点リーダーマニュアル」の作成に取り組みました。
具体的な活動として、まず着手したのは、各教室のベテランボランティアさんを中心としたヒアリングです。それに先立って、団体内部のコミュニケーションを円滑にするためにビジネスチャットアプリSLACK(有料版)を導入。コロナ禍の中での活動ということもあり、オンラインでの打ち合わせも交えて実施しました。
そして2年目は制作した「マニュアル」を活用しての拠点リーダーの育成。実地の振り返りと会議・研修を行いました。また新たな課題として、個人情報の取り扱いや、チャットアプリやオンライン活用におけるネットや情報面のセキュリティーについて、SE等の専門家を交えての現状診断と改善について学習しました。そしてコロナ禍が継続する中、オンラインでの学習支援についてのマニュアルも作成しました。
2年間の取組結果
既存の事業や教室の現状について課題を洗い出し、改善していく中で、そもそも団体内部の連携(特に横の連携)が非常に希薄であることが明白になりました。
まずその点を改善するためにビジネスチャットの導入に合わせ、拠点ごと、役職(関わり方)ごとのグループチャンネルをつくり、必要な情報が必要な立場の人にスムーズに共有されるようになりました。そして事業の成果物である「マニュアル」については、当初は「拠点リーダー」に関する事柄のみを盛り込んで作成する予定でした。
しかしながら、団体内部の会議や活動者の声を拾い上げていくうちに、既存のボランティアマニュアルをしっかりアップデートした上で、「拠点リーダー」も項を盛り込んだ方が、団体の活動の全体像がつかめるということで、計78ページにもわたる大変ボリュームのあるマニュアルが完成しました。
またリーダー登用のための団体内キャリアシステムを支持してもらうために、学習サポーターに「塾講師検定試験」の資格取得の仕組みも組み入れました。
結果、団体内の役割と立場、責任とスキルの透明性が確保されたことにより、プロジェクト実施前に存在していた団体内の不協和音はすっかり払拭され、活動者が自身のニーズ・関わり方にあわせてコミットできるようになっています。
そして2年間の活動の成果として、新たな拠点リーダーを生み出し、そのリーダーによって運営される拠点教室も5箇所に増やすことができました。
また情報セキュリティー面の成果として、IPA(独立行政法人:情報処理推進機構)から専門家の診断・指導を受け、「情報セキュリティーの基本方針」を自社HPに公開する等、セキュリティー対策の2つ星宣言(ロゴマーク取得)をすることができました。
この2年間のコロナ禍の中、団体メンバーが一堂に集まっての会議ができない等の制約もありましたが、オンラインの活用やリモートワーク導入の収穫として制作物(オンラインサポートマニュアル)の充実があったと思います。各教室における運営はレベル差もあり、ボランティアのキャリアやスキルも差があります。こうした中、拠点リーダー育成プロジェクトを契機に、あらためて団体の活動現場の見直し、改善を進めたことで、隠れていた課題の発見と共有、そして団体内の連帯が一層深まったと実感しています。その結果、教室現場内外のコミュニケーションが以前に比べてスムーズになりました。
新型コロナウィルス蔓延に伴う緊急事態宣言の発令や自粛ムードの中、当団体では、コロナ禍の前と後で活動するボランティアが約半数入れ変わりました。しかしながら、新しく活動に参加した方もしっかりと定着し、現在およそ160人の方が活躍。コロナ禍以前(プロジェクト開始前)のボランティアの年間参加述べ人数は約1100名程度だったのが、現在(21年度)は2441名まで増えています。
そしてこのプロジェクトを取り組み、異なるリーダーを配置したことで、拠点ごとの特徴(良さ)がいっそう際立つという効果もありました。具体的には、進学塾のように学力に特化した拠点もあれば、様々な課題を抱えている子ども一人ひとり丁寧に寄り添った居場所色が強い拠点、休憩時間に皆でゲーム等の交流が盛んで、教室に所属する子ども全員の仲間意識の高い拠点等です。こうした特徴が、多様性を持っている現代の子ども達のそれぞれの受け皿として機能し、さらにボランティアにとってもそれぞれの支援ニーズとスキルに合わせた活動の場を提供することにもつながっています。
こうして書いていると、いいことばかりの事のように聞こえるかもしれませんが、実はいいことばかりではなく、今回の内部のヒアリング通じた教室運営の見直しと改善方法の策定において、活動メンバーの本音を掘り下げていった結果、活動に対する想いの違いがいっそう顕著になり、残念ながら活動から離れていったベテランボランティアもいました。しかしながらこの2年間の成果として、拠点リーダーの役割とボランティアスタッフのフォローの区分けを明確にし、リーダーが教室運営に注力できる仕組みができつつあると確信しています。
次年度に向けて
私たちの団体は、地域で活動を開始してから10年、法人化してから7年が経過しました。さらに6年前から地元行政の事業を受託して現在に至ります。こうした中、私たちの団体はいわゆる事業型のNPOとして活動してきました。
行政事業を受託することは、活動の安定(特に資金面の安定)に繋がる側面もあります。しかしながらNPO本来のミッションと取り組むべき活動は、市民による自分たちの周りの社会課題をいかに皆で解決していくか、共に活動する仲間を集めていくか、にあると思っています。
行政事業を受託しても、NPO本来の市民活動が後退しないよう、今後もアップデートしていく必要があります。
そのために今回の助成プロジェクトでは、上記した①拠点リーダーの育成プロジェクト(拠点教室をマネージメントし、さらに拠点ごとの特性を醸し出せるリーダーとそれをサポートするボランティアの仕組みづくり)だけではなく、②あらたな資金調達の仕組み(市民活動を充実させるためのファンドレイジングによる委託費以外の安定収入の確保)、③地域との連携(地域の他のNPOとのネットワーク、さらには町会・自治会との連携や会議体の構築)の3本柱で取り組んでいます。
次年度の向けての展望ですが、この3つの重点課題は一見別々のようですが、実はそれぞれつながっていると実感しています。あらためてこの2年間の取り組みと成果をさらに発展させるべく、団体内のミッションの再確認・再構築、支援者(寄付者)獲得にフォーカスした広報戦略、他団体や地縁団体と連帯しての地域づくりや行政への積極的な提案等を繰り広げながら、私たちの団体の行動変容だけではなく、地域をもっと暖かいものに変えていく「確かな一歩」にしたいと思っています。
濱住 邦彦さん
2012年任意団体ユースコミュニティーを設立。2014年にNPO法人化。代表理事に就任 2016年5月より団体の専従を務める 表彰:住友生命「未来を強くする子育てプロジェクト」未来賞。行政の委員歴:2014~15年大田区青少年問題協議会委員、2016年より大田区子どもの貧困対策に関する計画検討委員(大田区子どもの生活応援プラン推進委員)として活動。