公益財団法人ベネッセこども基金

助成団体紹介

2022活動報告|外国につながる子供たちの日本語学習を支えるオンライン化事業

認定NPO法人地球学校

経済的困難を抱える子どもの学び支援

2年目の助成期間を終え、2年間の教材制作活動についてご報告いただきました。
事業の詳細などは以下からご覧ください。

採択団体一覧|2021年度経済的困難を抱える子どもの学び支援活動助成
2021活動報告|外国につながる子どもたちの日本語学習を支える教室のオンライン化事業




教材制作の背景 工夫点や反応 総括および次年度の取り組み概要と抱負

教材制作の背景

【音読教材を作ろうと考えた背景】
外国につながる子どもたちは、日本人の子どもなら誰でも知っている昔話を知らなくて困る場面があります。そこで、日本の昔話を知る体験につながる、やさしい日本語の「ものがたり」を作りたいと考えていました。市販されているものではなく、外国につながる子どもたちにもわかりやすい日本語で書かれた、著作権に触れることなく自由に活用できるものです。
音読は、日本の学校では授業でも宿題でも日常です。授業では、国語に限らずみんなの前で音読をする機会が多くあります。外国につながる子どもたちにとっては相当なプレッシャーを感じる場面です。勉強に自信のある子であっても、です。安心して音読できるはずの地球っ子教室の個別の時間にでさえ、音読を嫌がる子どもは本当に多くいます。自分一人で読める、声に出して読める、そんな自信がつくようなステップとともに考えました。

【A ものがたり教材】
外国につながる子どもたちのための「ものがたり」に必要なポイントは、やさしい日本語とともに、言葉を補う絵があることだと考えました。 「やさしい日本語の物語」 1年目は子どもたちの間でよく知られた昔話を取り上げました。2年目には物語の面白さ、話の内容もバラエティに富んだものになるように選択しました。1年目は『きんたろう』『いなばのしろうさぎ』『てんぐのかくれみの』、2年目は『ねずみのすもう』『のっぺらぼう』『だいだらぼっち』、2年間で6つの「ものがたり」が完成しました。
「物語の挿絵・イラスト」 作成するものがたり教材は、本来の物語より日本語の文章がシンプルであるだけに絵から感じとってもらう必要があります。内容の理解を補える絵になるよう、6作品はそれぞれ別のイラストレーターに、すべてオリジナル描いてもらいました。

【B ヒアリング・アイデア集】
1年目に完成した3つの物語(各2種)は、2年目にヒアリングをして改善するべく進めています。公開する前に、実際に外部の方々にも使ってもらうことで、改めて多くの示唆を得ました。関東地方だけではなく広島から宮城に至るまで、子どもたちと接する機会のある10団体に試用をお願いたところ、様々な活用例やご意見をいただくことができました。特に、ものがたりを読んだ子どもたちの反応や声は生き生きとしていて、今後の励みともなります。

「ものがたり」一年目に完成した表紙
「はじめて版」と「もっとたのしむ版」の日本語の違い

工夫点や反応

【実施のプロセスの工夫点】
文章はできるだけシンプルに「やさしい日本語」で表現しています。それも子どもたちの日本語力に応じて、1つの物語に2つのステップの「やさしい日本語」を準備することにしました。まだ日本語が初歩段階の子どもには「はじめて版」、少し日本語力がついてきた子どもには「もっとたのしむ版」、という2種類です。言葉では伝わりにくいこと、わかりにくそうなものは、挿絵で補いました。やさしい日本語だからこそ、自分一人でも声に出して読めます。支援者が読み聞かせることで子どもたちが日本語のリズムを感じられたら、より日本語らしい音読にもつながることでしょう。

【支援者の声】
「ものがたり」の書き換えには、今まで書き換えを経験したことのない地球っ子教室の支援者が複数参加してくれました。一つの「ものがたり」の書き換えが完成するには約3カ月。オンラインで夜の8時半から月に数回、画面上で会って話し合うミーティングはもちろん、その前後の作業工程も多々あり、本音を言うと容易なことではありません。時間もかかりますし、互いに納得して一つの表現に決定する作業には根気も必要でした。それでも、「やっていて楽しい」「すごく深く日本語を考える時間になった」など、得るものもとても多いです。

【子どもたちの声】
文章が長かったり、わからない言葉や読めない漢字が多いと、子どもたちは自分から音読したいとは言いません。でも、やさしい日本語のものがたりを見せて、「読んで」と言うと「これなら読んであげるよ」と、音読を楽しめる子もいました。

※外部ヒアリングから得た子どもたちの声
『いなばの白ウサギ』

・なぜサメを並ばせないといけなかったの?サメの背中に乗っていったらよかったのに。
・ウサギが嘘をつくのはよくない。正直に話していたらこんなことにはならなかったと思う。
・泣き笑いのような「ウサギの顔」がすき。
・(いなばの白うさぎに出てくる)「がまのほ」ってなに?
・神さまなのに、なぜ痛い治し方を教えたんだろう。
・(ウサギを)連れて行くのが面倒だったから(神様は)近くの海に入るようにいったのかなあ。

イベント第30回漢字王決定戦の様子。『いなばの白ウサギ』を使って
子どもたちが大好きな間違い探し(活用アイデア例) ※ウェブサイト公開中

総括および次年度の取り組み概要と抱負

【2年間の総括】
団体内の支援者だけではなく、他団体の方々の参加があったおかげで、話し合いも活発になりました。参加者全員が「自分の作品」を作るという気持ちで取り組んでもらえたことも大きいです。新しいものを作るという「わくわく感」は子どもたちがどういう反応をするのかを想像することにもつながります。

【3年目の取り組み】
新たに3つの「ものがたり」を作成します。また、2024年に春には全9作品(各2種類)全てをネット上に無料で公開します。オンライン教材として読める工夫だけではなく、ダウンロードして印刷して読んだり遊んだりする工夫ほか、音読の音源や、活用のアイデア・ヒント集も公開する予定です。
地球っ子教室の「ものがたり教材」が広く子どもたちに利用され、ものがたりを声に出して読む楽しさ、ほかの子と一緒に読む楽しさにつながることを願っています。

公開サイト【もぐらんワーク】より「もぐらんとよもう」
※現在は『金太郎』のみテスト公開中

認定特定非営利活動法人地球学校

地球っ子教室担当理事

辻 雅代 さん

ラボ日本語教育研究所養成講座修了後、2000〜2002年逗子市教育委員会から委嘱され市内の小中学校で外国につながる子どもたちの日本語指導を行う。2000年に地球学校参加。2003年に「地球っ子教室」を立ち上げ、20周年を迎えた現在も継続中。

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