公益財団法人ベネッセこども基金

助成団体紹介

2022活動報告|児童自立支援施設と少年院でのアーティストによるワークショップの実践

特定非営利活動法人 芸術家と子どもたち

経済的困難を抱える子どもの学び支援

2年目の助成期間を終え、児童自立支援施設と少年院でのワークショップについて報告いただきました。
事業の詳細などは以下からご覧ください。

採択団体一覧|2021年度経済的困難を抱える子どもの学び支援活動助成
2021活動報告|矯正教育現場等でのアーティストによるワークショップを通じた経済的困難を抱える非行少年等の自立支援活動

児童自立支援施設での実践 少年院での実践 2つの実践から見えてきたこと 2022年度の取り組みを通じて

児童自立支援施設での実践

【実践の様子】
2022年10月~2023年1月の間に、月1回程度、施設内にある大磯町立国府小・中学校生沢分校の授業として、全5回(時数合計10コマ)実施。アーティストは、鈴木ユキオ(振付家・ダンサー)を起用。アシスタントとして、毎回男性ダンサーが1人参加しました。
参加者は、おおいそ学園で暮らす小学4年~中学3年生 24人。

第1~4回は、「小学生&中3」、「中1&中2」という2グループに分け、1コマ(50分)ずつのワークショップを実施。
最終回の5回目のみ全員合同で、2コマ(100分)実施。
ウォーミングアップから始まり、毎回新しいペアワークをやる時間を設けるなど、子どもたちの反応をみながら、様々なワークを実施しました。

ペアの相手の動きについていったり、真似したり、簡単なルールの中で、自然と動きが引き出されていくことを体験しながら、動きの幅を広げていった子どもたち。4回、5回と回数を重ねていく中で、相手の動きをつくったり、自分で動きを考えたりと、創作的なワークにも挑戦しました。
毎回必ず、2つに分かれてそれぞれの動きを見合う時間などもつくり、お互いの違いや良さなどに気づき、感想を述べてくれる子もいました。

5回のワークショップを通して、少しずつアーティストと子どもたちの関係も近くなり、休憩時間や終了後の時間には、アーティストのところに駆け寄って、「どうしたら身体を柔らかくすることができますか?」と質問してくれたりと、談笑する様子もみられました。

※子どもたちや先生方の感想は、NPO法人芸術家と子どもたちホームページにて、コラム記事として配信しています!下記をご覧ください。

『からだで紡ぐコミュニケーション ~児童自立支援施設での実践~』
おおいそ学園(児童自立支援施設)でのワークショップの様子
先生方・アーティストを交えた、おおいそ学園(児童自立支援施設)での振り返りの様子

少年院での実践

【実践の様子】
2022年12月に2回、2023年2月に2回、全4回各60分実施。
アーティストは、セレノグラフィカ(ダンスカンパニー)を起用。医療措置課程に在院する14歳~20歳くらいの女子15人が各回10名程度ずつ参加しました。

子どもたち一人ひとりには、自分で考えた「ダンサーネーム」をつけてもらい、アーティストはそのダンサーネームで一人ひとりに声をかけながら、ワークショップを進めていきました。
毎回、「ダンスの手洗いうがい」と題した準備運動からスタート。自分の身体をさすったり、仰向けになったり、ゆったりとした曲の中で身体のこわばりを取っていきました。

アーティストの動きを真似しながらリズムに乗って動くことや、「片手をあげたポーズ」など、簡単なルールの中で自分のオリジナルの動きやポーズをつくるなど、表現の引き出しを増やしていった子どもたち。ペアワークをしている時は、お互いに目を合わせ、息を合わせながら、楽しそうに身体を動かしてくれました。

これまで実施したワークを繋げると、いつのまにか1曲のダンス作品が完成。最後まで踊りきり、並んでお辞儀をした時の晴れやかな表情がとても印象的でした。

はじめは緊張している様子も見られましたが、「まほさん」「あびちゃん」のあたたかいお人柄と、素敵な音楽に包まれながら、身体も心もほぐれ、少しずつそれぞれの「ダンス」を見せてくれました。

※子どもたちや先生方の感想は、NPO法人芸術家と子どもたちホームページのコラム記事からご覧ください!
『カラダとココロがおどるとき~少年院での実践(アーティストのこえ)~』 『カラダとココロがおどるとき~少年院での実践(法務教官のこえ)~』

東日本少年矯正医療・教育センター(少年院)でのワークショップの様子
東日本少年矯正医療・教育センター(少年院)でのワークショップの様子。毎回必ず、自分の身体をマッサージする時間がありました。

2つの実践から見えてきたこと

【実施までのプロセスとして大事だったこと】
一番は、実施施設の職員の方々に、どうしたら信頼を寄せていただけるかが大事であったように思います。
両施設共に、守るべき様々なルールや制約があるため、その一つ一つの要望を丁寧にヒアリングしつつ、相手の要望に沿って柔軟に対応していったことが、まず、受け入れていただく上で、大きなポイントだったと考えます。
特に、東日本少年矯正医療・教育センターでは、実際に職員の方が、当団体の児童養護施設のワークショップを見学してくださり、全体の流れや場の雰囲気などを肌で感じ、「いいな」と思ってくださったことが受け入れに繋がりました。

「このワークショップを受ければ、このスキルが上がる」というような成果主義的な活動ではないため、なかなか言葉では伝わりにくい部分も大きいのですが、そうした中でも、当団体のこれまでの活動実績や、実際の見学を通して感じた良さなどから、信頼を寄せていただき、実施価値のある活動であると、判断していただけたのではないかと思います。

【子どもたちの変化】
いずれの施設も、初回は緊張した様子で参加していましたが、すぐに「無理矢理何かを強制させられる場ではない」という安心感を得て、のびのびと活動を楽しんでくれていたように思います。
回数を重ねていく中で、おおいそ学園では、休憩中に「どうしたら身体を柔らかくすることができますか?」とアーティストに聞きに行って、談笑をしている子の姿を見たり、東日本少年矯正医療・教育センターでは、ワークショップ全体の感想を、一人ひとりが自分の言葉でその場で話してくれるようにまでなりました。

【周りの大人(施設職員)の変化】
初回は、大人たちも、子どもたちと同じく「どんなことをやるのだろう?」という不安や緊張を感じている姿が見られたのですが、子どもたちと一緒に身体を動かしながら楽しんでくださる中で、安心してその場を任せていただけるようになったように感じます。
特に、東日本少年矯正医療・教育センターでは、普段の生活では実施できないような、お互いの身体の距離が近くなるペアワークなどをやらせていただくことができたりと、職員の方が信頼を寄せてくださることで、実施できるワークの幅も広がっていきました。
また、そうした中で、職員の方が、普段の生活では見られないような子どもたちの一面を発見してもらえるきっかけにも繋がったように思います。

2022年度の取り組みを通じて

コロナのこともあり、ほとんど活動を前に進められなかった昨年度に比べて、今年度結果的に、児童自立支援施設と少年院の両施設でワークショップを複数日実施できたことは、当団体としても想像以上の結果を得られた、学びの大きな1年でした。
両施設が持つ特徴やイメージは、学校や児童養護施設など、これまで活動してきた場所とは異なる部分も多かったですが、そこにいる子どもたちがワークショップ中に見せてくれる表情や真摯に取り組んでくれる姿などは、何か大きな違いがあるかと言えば、なかったように感じます。

児童自立支援施設であっても、少年院であっても、子どもたちが見せてくれる表現は胸を打つものがありましたし、そうした場を信頼できるアーティストと共につくっていけたことは、本当に宝物のような機会であったなと感じています。

2023年度も引き続き、予定されているワークショップを丁寧に進めていくとともに、これまで紡いできた関係をもとに、新規の施設での取り組みにも挑戦したいと考えています。また、2023年度が本事業の最終年度ということもあり、これまでの活動を、記録冊子やコラム記事、シンポジウムなどを通して、外部の方にきちんと発信していくことにも注力して参ります。本事業の活動を通して、少しでも多くの方が、児童自立支援施設や少年院にいる子どもたちに、思いを馳せるきっかけになれば嬉しいなと思っています。


言葉ではなかなか伝わりにくい「身体表現ワークショップ」の様子を、より分かりやすく、よりリアルに伝えるため、今回は、イラストという形で表現し、コラム記事に加えました。自身もダンサーであり、ワークショップの経験もあるイラストレーターに依頼をしたことで、当時の子どもたちの身体の動きがより活き活きと描かれたイラストが完成し、SNSでも多くの方の目を惹きつけることができました。

特定非営利活動法人芸術家と子どもたち

特定非営利活動法人芸術家と子どもたち 理事長

堤 康彦 さん

1965年東京生まれ。慶応義塾大学経済学部卒業。87~97年東京ガス㈱に勤務。99年より独立。現代芸術家を小学校等へ派遣しワークショップ型授業を実践する活動「ASIAS(エイジアス)」をスタート。2001年NPO法人化。03年「アサヒビール芸術賞」受賞。04~16年、「トヨタ 子どもとアーティストの出会い」ディレクター。18年「第12回よみうり子育て応援団大賞」奨励賞受賞(主催:読売新聞社)。19年「第13回未来を強くする子育てプロジェクト」「スミセイ未来賞」受賞(主催:住友生命保険相互会社)令和5年度文化庁長官表彰受賞。著書に、「子どもたちの想像力を育む アート教育の思想と実践」(共著/佐藤学・今井康雄編)他。

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