助成団体紹介
2023活動報告|少年院・児童自立支援施設でのアーティスト・ワークショップで、子どもたちに変化が
特定非営利活動法人 芸術家と子どもたち
3年目の助成期間を終え、活動の成果をご報告いただきました。事業の詳細などは以下からご覧ください。
採択団体一覧|2021年度<経済的困難を抱える子どもの学び支援活動助成> 2021活動報告|矯正教育現場等でのアーティストによるワークショップを通じた経済的困難を抱える非行少年等の自立支援活動 2022活動報告|児童自立支援施設と少年院でのアーティストによるワークショップの実践
事業の目的 事業の内容と活動の経過 事業の結果 事業の成果 課題および今後の展望 3年間の助成を振り返っての感想
事業の目的
既にアーティスト・ワークショップを実施した少年院及び児童自立支援施設でのワークショップを、継続的に実施していけるような関係づくりや資金獲得をめざすとともに、これまでの活動の様子や成果などをコラム記事や記録冊子としてまとめ、シンポジウムで発信していくことで、他の少年院や児童自立支援施設でも実施を広げていけるようにすることを目的に、3年目の活動を実施しました。
事業の内容と活動の経過
■1年目
〇公開オンライン勉強会「少年院にいる子どもたちの現状と課題を学ぶ」を実施
新型コロナウィルス感染拡大の影響もあり、各施設に見学やヒアリングにすら行けないままに1年間が過ぎました。その中でも、団体の関係者をたどり、少年院関係者や非行少年の立ち直り支援などを行っているNPO等とのつながりが生まれたことで、まずは関係者にヒアリングを行いながら、施設にいる子どもたちのことを学んでいきました。
■2年目
〇少年院:東日本少年矯正医療・教育センターにて身体表現ワークショップを実施
〇児童自立支援施設:神奈川県立おおいそ学園にて身体表現ワークショップを実施
1年目の関係づくりが実を結び、少年院・児童自立支援施設ともに、1施設ずつアーティスト・ワークショップが実現しました。施設・アーティスト・当団体の三者とも初めての実践となったため、子どもたちの様子やワークショップ内容について、ていねいに打合せを重ねながら、ワークショップ初日を迎えました。初回の頃は、子どもたちにも緊張が見られましたが、全身を動かす中で、少しずつ心もほぐれ、徐々に表情が豊かになっていったり、思い切って自分だけの動きを見せてくれたりするようになっていきました。そんな子どもたちの姿を見る中で、職員の方々も徐々に活動に信頼を寄せてくださるようになったように感じます。
■3年目
〇少年院:東日本少年矯正医療・教育センターにて日数を増やしての身体表現ワークショップを継続実施。宮川医療少年院にて美術ワークショップを実施。
〇児童自立支援施設:国立武蔵野学院にて身体表現ワークショップを実施。
〇3か年の活動を報告するシンポジウムを開催。
〇3か年の活動をまとめた記録冊子を作成。
2年目の活動実績を紹介する形で、少年院・児童自立支援施設ともに、新たに1施設ずつのワークショップ実施がかないました。また、東日本少年矯正医療・教育センターでのワークショップは2年目となり、最終日にミニ発表会を行う中で、自分で動きや見せ方を考えるなど、より子どもたちの創造力を引き出すようなワークショップへと展開。子どもたちからの感想も、「自分とは思えないくらい楽しめた。(中略)今後の人生でつらいことがあったとき、思い出してはまた頑張ろうと思います。」など、子どもたちの中に何かが芽生えたことを感じられる言葉をたくさんもらうことができました。
こうした活動の集大成として、シンポジウムの開催及び記録冊子の作成を行い、より多くの人にこの3年間の活動について知ってもらうきっかけづくりを行いました。
事業の結果
■1年目
コラム「【勉強会報告】少年院にいる子どもたちの現状と課題を学ぶ」前編
コラム「【勉強会報告】少年院にいる子どもたちの現状と課題を学ぶ」後編
■2年目
コラム「からだで紡ぐコミュニケーション ~児童自立支援施設での実践~」
※神奈川県立おおいそ学園での活動紹介
コラム「カラダとココロがおどるとき~少年院での実践~」アーティストのこえ
コラム「カラダとココロがおどるとき~少年院での実践~」法務教官のこえ
※東日本少年矯正医療・教育センターでの活動紹介
■3年目
スタッフブログ「水内貴英さんワークショップ@宮川医療少年院」
コラム「【シンポジウム報告】少年院×アーティスト~矯正教育におけるアーティスト・ワークショップの可能性~」・前編
コラム「【シンポジウム報告】少年院×アーティスト~矯正教育におけるアーティスト・ワークショップの可能性~」・中編
コラム「【シンポジウム報告】少年院×アーティスト~矯正教育におけるアーティスト・ワークショップの可能性~」・後編
記録冊子「少年院×アーティスト ~少年院でのアーティスト・ワークショップの実践~」
事業の成果
ワークショップ終了後に子どもたちに書いてもらう感想には、楽しい時間を共有できたことへの喜びや、自分を表現したり、他者の表現を見たりすることでの心の変化、また来て欲しいといった期待などであふれていました。(※各コラム記事やブログ記事にて、子どもたちの感想を紹介しているので、ぜひご覧ください)
そうした声を受けて、職員の方々も、子どもたちの新たな一面を知るきっかけになったり、心の変化に気が付いたりといったことにつながり、結果的に、これまでワークショップを実施した施設のうち、少年院では東日本少年矯正医療・教育センター、宮川医療少年院から、児童自立支援施設では国立武蔵野学院から、引き続きワークショップを実施してほしいという希望をいただきました。
また、3か年の活動を報告するシンポジウムでは、80名の方に参加いただき、法務省関係者や矯正教育関係者、児童福祉関係者など、多くの方に関心を持っていただくことができ、今後活動を広げていく上での土台づくりを行うことができました。
課題および今後の展望
特に少年院については、職員の異動が多いこともあり、しっかりと活動の有意義性について施設側と信頼関係を結べていないと、すぐに活動が途切れてしまう危険性があります。こうした状況の中で、継続的に少年院及び児童自立支援施設にいる子どもたちに、アーティストとの出会いを届けていくためには、少しでも多くの職員の方に活動に関心を持ってもらい、子どもたちの姿を見てもらい、「続けていきたい」と思ってもらえることが大事であると考えます。
また、それと同時に、アーティスト・ワークショップを通して見えた、少年院にいる子どもたちの姿を社会の人々に発信していくことが、分断や格差が広がる今の社会で、彼らが少しでも「生きづらさ」を抱えずに生きていける社会づくりの一助になるのではないかと思います。少年院も児童自立支援施設も、その施設の特性上、活動の様子を外部に積極的に発信することが難しい側面がありますが、アーティストと共に、少年院や児童自立支援施設の中と外をつないでいくような活動を、実施していきたいと考えています。
3年間の助成を振り返っての感想
1年目には想像できなかったほど、この3年間でたくさんの方に支えられ、少年院及び児童自立支援施設でのワークショップがスタートしました。このような貴重な機会をくださり、また常に寄り添い、伴走してくださったベネッセこども基金の皆様には、この場を借りて心から感謝申し上げます。3年間の活動を通して、改めて強く思うのは、すべての子どもたちに、アーティストとの幸せな出会いを届けたいなということ。学校も、児童福祉施設も、少年院も、アーティストと共に通うその場所にいる子どもたちは、どの子もみんな、最高に素敵な子どもたちです。そのことを、私たちはこれからも、活動を通して発信し続けていきたいと思います。
堤 康彦 さん
1965年東京生まれ。慶応義塾大学経済学部卒業。87~97年東京ガス㈱に勤務。99年より独立。現代芸術家を小学校等へ派遣しワークショップ型授業を実践する活動「ASIAS(エイジアス)」をスタート。2001年NPO法人化。03年「アサヒビール芸術賞」受賞。04~16年、「トヨタ 子どもとアーティストの出会い」ディレクター。18年「第12回よみうり子育て応援団大賞」奨励賞受賞(主催:読売新聞社)。19年「第13回未来を強くする子育てプロジェクト」「スミセイ未来賞」受賞(主催:住友生命保険相互会社)。令和5年度文化庁長官表彰受賞。著書に、「子どもたちの想像力を育む アート教育の思想と実践」(共著/佐藤学・今井康雄編)他。