公益財団法人ベネッセこども基金

助成団体紹介

2023活動報告|3年間で学習支援の運営安定化や拡大が実現。地域のつながりも広がる

認定特定非営利活動 法人 フードバンク北九州 ライフアゲイン

経済的困難を抱える子どもの学び支援

3年目の助成期間を終え、活動の成果をご報告いただきました。事業の詳細などは以下からご覧ください。

採択団体一覧|2021年度<経済的困難を抱える子どもの学び支援活動助成> 2021活動報告|子ども食堂での学習支援で子どもの貧困の連鎖を断ち切る地域モデル構築事業 2022活動報告|学習支援を充実させ、子ども食堂をプラットフォームとした子どもの貧困の連鎖を断ち切る地域モデル構築事業

事業の目的 事業の内容と活動の経過 事業の結果 事業の成果 課題および今後の展望 3年間の助成を振り返っての感想

事業の目的

対象校区において、産学官民の理解と協力によって「子どもの貧困及び負の連鎖を断ち切るスキーム」が実行に移され、子どもを中心とした地域の活性化、誰一人孤立せずつながり続ける地域モデルの実現をめざしています。

事業の内容と活動の経過

目的を達成するためには、子どもが成長するどの段階においても、親子とつながる入口がなければいけないと思っています。またその入口から入ってきた親子に、負の連鎖を断ち切るために寄り添い、彼らのエンパワメントを引き出すことが重要だと私たちは感じました。そこで児童期の入口を子ども食堂、思春期の入口を学習支援とし、運営体制が不十分であった学習支援の充実をこの3年間で図ってきました。また子ども食堂を「負の連鎖を断ち切り、孤立させない地域モデル」構築のつながり拠点ととらえ、「わがまち大家族プロジェクト」チームを結成してミーティングを重ね、地域をつなげるさまざまなアイデアを提案してこの3年間で実証検証を行ってきました。具体的な内容は次の2点です。

①マンツーマン無料学習塾のボランティア講師確保と質の向上

塾と自習室という2つのスタイルで無料学習支援を展開しているNPO法人ユネスコ維新隊と提携し、毎週土曜日は午後4時から6時まで無料学習塾「ステップアップ塾ライフアゲイン」を開講、平日の放課後は無料自習室を午後8時30分まで開放しました。

②子ども食堂をプラットフォームとした、子どもの負の連鎖を断ち切るためのまちづくり

「わがまち大家族プロジェクト」チームを結成し、毎月1回定例ミーティングを持ちました。また、地域のつながり拠点として子ども食堂「ちゅうおうまち食楽福亭(以後たらふく亭と記載)」を毎月第1土曜日に開催。その中で、商店主との交流、移動型駄菓子屋屋台やこども地域通貨の運用検討、子ども達によるこども地域通貨のコインデザイン作成などを行い、今後の活動につなげていく体制を整えました。

事業の結果

①マンツーマン無料学習塾のボランティア講師確保と質の向上

●塾生の学習理解度や心理的側面(自己肯定感の向上等)を調査するアンケートを実施したところ、「前より勉強がわかるようになった」と答えた塾生は75%でしたが、「自分の未来が楽しみだと感じている」と答えた塾生は36%と低い状態でした。
●ボランティア学生講師確保のための取り組みとして、市内の高校や高専8校(小倉高校、東筑高校、八幡高校、九州国際大学付属高校、自由ヶ丘高校、西南女学院高校、明治学園高校、北九州高専)、大学4校(九州工業大学、北九州市立大学、九州歯科大学、西南女学院大学)の計12校を訪問。講師の安定化のため、学校側との連携が図れる高校生を中心とすることにしました。
●講師と塾生との信頼関係を築くこと、お腹をすかせている子ども達へ配慮することを目的として、調理スタッフを整えて食事提供を開始しました。
●STUDYCAMP(無料自習室)の2か所目として「つきだテラス」が加わりました。無料自習室を市内全域に広げていくためのスタイルとして、対面のみとし、オンラインなど複雑なシステムは使用しないという方針を定めました。
●気になる子どもをフォローするために独立アドボケイトの派遣を検討。アドボケイトの実践研修を終えている者を専任スタッフとし、子どもアドボカシーセンター北九州と連携して、姉妹団体が運営する放課後等デイサービスに毎週1回派遣することが決まりました。
●無料オンライン学習eboadの契約内容を見直し。「見る」「書く」の両面からサポートできる動画ノート対応型のものに変更しました。

高校生講師が中心の学習支援風景
調理ボランティアさんが毎回食事の準備をしてくださいます

②子ども食堂をプラットフォームとした、子どもの負の連鎖を断ち切るためのまちづくり

◆「わが町大家族プロジェクト」定例ミーティングの中で、以下のことが決まりました。

●これから使う「私たち」は、子ども・地域や商店街の人・街の外の人のことを言う。
「私たち」はお互いに信頼できる関係をめざす。
「私たち」は関わり方を自分で決めることができる。
「私たち」は何かをするときは「余白(考えすぎない・準備しすぎない・まかせる)」を作る。
●空き店舗の活用や、拠点がなくてもできることを考える。
●商店街を大きな家にすることをめざして「ただいまと言える街 おかえり商店街」というスローガンを決定。
●モデル地区の小中学生が求めている駄菓子屋を、リヤカータイプの移動型駄菓子屋屋台にし、ウロウロしながら人と人をつなぐ。
●地域通貨をつくり、子どもの主体性をのばしつつお金を使わずに商店街を活性化する。
●北極星のように、誰もがいつでもプロジェクトの進捗を知ることのできる指標を持つ。

◆地域をつなげることをめざし、「たらふく亭」だけでなく、募金箱を置いてくださる商店街内外の近隣飲食店が17店舗になり、年間の集計で168,000円も集まりました。また、13店舗の商店主が子ども達との交流に協力してくださいました。

●北九州市が主催したフードサポート事業のモデル地区として対象地区が手を挙げ、全世代で孤立させないまちをつくろうとする「みんなでおすそわけin中央町」を3月に開催しました。

移動型駄菓子屋屋台。将来は子ども達が駄菓子屋の商店主になって商店街のいろいろな所に出現します
商店街で使える地域通貨作り。大英産業さんが木製手すりの廃材をスライスしたコインに子ども達が絵を描いています。将来のプレミアム地域通貨となります
商店街の飲食店に設置された地域の子どもを支援するための募金箱が設置されました

事業の成果

①マンツーマン無料学習塾のボランティア講師確保と質の向上

●ボランティア学生講師の安定的な確保が図れるようになったことで、他団体の運営する居場所やマンパワーと当団体が派遣する高校生がコラボして、学習支援を中心にした居場所を市内全域に速やかに拡大できる見通しができました。
●市内全域に広げていく居場所を、塾ではなく対面のみの自習室スタイルに定めたことで、運営側のハードルが下がり、今後高校生ボランティアが安定的に確保できれば、既存の居場所とのコラボ展開に発展が期待できるようになりました。
●子どもアドボカシーセンター北九州との連携が始まったことによって、不登校の子どもや、発達障害の子どもに対し今後どのようにリソースを活かせるか検討していけるようになりました。
●無料オンライン学習eboadを動画ノート対応型に変更したことにより、退塾した子どもや不登校の子ども、発達障害の子どもなどに学習機会を通してつながり続けていく方法を探る手立てができました。

②子ども食堂をプラットフォームとした、子どもの負の連鎖を断ち切るためのまちづくり

●「わが町大家族プロジェクト」定例ミーティングで決まったことを「たらふく亭」開催時に実行し、子ども達と商店主との交流が深まってきました。また、飲食店に募金箱や子ども応援フラッグを設置したことで、日常的に子どもを地域で育成する機運が高まってきているのを感じています。
●地域をつなげる手段としての子ども食堂「たらふく亭」に加え、地域交流型フードサポート「みんなでおすそわけin中央町」が開催されたことにより、産官学民が一体となったまちづくりが展開されようとしています。まちづくり協議会・社会福祉協議会・地元企業・地元小中学校・地元医療機関が参加し、今後は「たらふく亭」とのコラボ開催を検討しています。また、飲食店に設置されている募金箱で集まった募金を、屋外開催である「たらふく亭」にとって厳しい真夏の食事提供に活用するなど、地域をつなげる手が広がっています。
●こども地域通貨の試験的運用には至りませんでしたが、今後、子ども達がお手伝いをして得た地域通貨を商店で活用できるようにするなど、商店街の活性化にもつなげていきます。

商店街の飲食店に設置された子ども食堂応援フラッグ
インクルーシブな居場所「たらふく亭」。つながり続ける地域モデルはここから始まりました

課題および今後の展望

①マンツーマン無料学習塾のボランティア講師確保と質の向上

「オンライン学習を充実させたマンツーマン無料学習塾のボランティア講師確保と質の向上」をめざしてスタートしましたが、結果として、市内全域に学習支援を中心とした居場所を子どもの自己肯定感の向上も含めて展開するとなると、オンラインではなく対面のみとするほうがシンプルという展望に至りました。また、既存の居場所や他団体とのコラボによって拡大できる可能性や、講師を高校生中心とすることで安定的に確保できるという見通し、利用する子ども達だけではなく、講師として関わる高校生も将来のわが国に貢献できる人材として育成できることなど、当初イメージできなかったことが、運営する中で見えてきてとても嬉しく思っています。

②子ども食堂をプラットフォームとした、子どもの負の連鎖を断ち切るためのまちづくり

大学との協働における子育て世帯へのニーズ調査および地域課題把握のためのヒアリング調査などは、新年度の取組になりましたが、「わがまち大家族プロジェクト」チームによる孤立させない地域環境の整備は着実にまわりを巻き込んで前進しています。課題は、商店街の多くの空き店舗の所有者と連絡がつかず、空き店舗の有効活用が進んでいないことです。

3年間の助成を振り返っての感想

子ども食堂をプラットフォームとして、産官学民の共感者を募り、つなげ、子どもの負の連鎖を断ち切るための協働の輪および運営体制を支える資金調達の策定を目標に掲げて3年間走ってきました。私たちは負の連鎖を断ち切るために2つの守るべき絆を重要なテーマとして掲げています。ひとつは「家族の絆」、もうひとつはその家族をとりまく「地域の絆」です。子どもが生まれてから成長する段階でどの成長期でも支援を必要とする親子とつながるために、乳幼児期はホームスタート事業、児童期は子ども食堂、思春期は学習支援、青年期は就労支援を行っています。その中で、今回の助成事業では整備が遅れていた思春期の学習支援の充実を図り、児童期の子ども食堂を地域のつながり拠点として「地域の絆」を構築するために尽力してきました。

振り返るとこの3年間の助成事業で大きくビジョンの見える化が進んだように思えます。
この3年間、ビジョンの達成に向けて本当にベネッセこども基金の助成事業に助けていただき心から感謝しております。もしこの助成事業が採択されていなかったら、学習支援事業を一旦閉じる予定でした。しかし今は、北九州全域に無料学習支援を拡大していく道筋が見えています。また、子どもをまん中に置いたまちづくりにおいても一定の方向性が見えてきました。さあ、これから新たな目標に向かって歩み始める時です。子どもの負の連鎖を断ち切れる北九州モデルを創り上げます。

認定NPO法人フードバンク北九州ライフアゲイン

フードバンク北九州ライフアゲイン理事長

原田昌樹 さん

2000年4月「北九州希望の光キリスト教会」の牧師として活動を開始。翌年、任意団体ハッピーアワークラブを設立し、子育て支援に取り組む。その後も北九州市で里親登録し養育里親としての活動、駅前での夜回り活動、自宅近隣で8軒の借家を利用し自立支援の活動などに取り組む。2014年よりフードバンク北九州ライフアゲイン理事長。

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